346.ヤップ島の石貨
次の日、ダンジョンとかに出かけないでサロンで待っていると、エルザとイーナ、二人が外から帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「待たせてごめーん」
「どうだった?」
「はい、やめさせてくれました」
「まっ、職業選択の自由を認めてくれなかったら、リョータさんの呪いが自分に降りかかるのを知ってるからね、マスターも」
イーナはからかい混じりに言った。
「もうっ、呪いなんて言っちゃだめだよイーナ」
「あはは、はいはい」
親友同士の気の置けないやりとり。
エルザとイーナの独立。
そのためにはまず「燕の恩返し」をやめる必要がある。
それは同時に、リョータ・ファミリーが燕の恩返しとの取引をほとんど止める事になる。
仲間達に確認したが、全員がエルザとイーナ以外を新しく出張所に入れるのは反対だ。
つまり、出張所をつかった燕の恩返しとの取引は一旦打ち切られる。
そこで改めておのおの買い取り屋を探すのだが……まあ、俺がそう思ってるように、みんなもエルザとイーナの新しい買い取り屋にするつもりでいるらしい。
それもあって、退職は渋られるかと思ったが、意外とすんなりいった。
「さて、じゃあ次行くか」
「何処にいけばいいですか?」
「ハセミだ」
そう言って、二人を連れて転送部屋に向かった。
☆
ハセミのダンジョン協会、その会長室。
俺とエルザ、イーナの三人は、会長であるアーロンと向き合っている。
「って事で、彼女らが新しく立ち上げた買い取り屋をこの街に入れて欲しいんだけど。どうかな」
「はあ……それは……」
「ランドルの独占じゃなきゃダメか?」
「いえ、そんな事はありません。むしろあなたが紹介してくれる方なら信用します。しますが……」
「もう、まわりくどいわね。言いたい事はちゃちゃっと言ってよ」
イーナがアーロンをせっついた。
「その……信用が」
「信用?」
「買い取り屋としての信用が、お二人にはないのです」
「どうすればいい。俺が保証人になればいいのか?」
「それは……」
また困るアーロン。
「サトウ様は腕利きの冒険者ではありますが、商人ではありません。商人としての信用、もしくは何かしらの担保が無ければ、他の冒険者達を説得するのは難しいかと」
「そんな……」
「ふむ」
なるほどそういう話か。
言われてみればあたりまえの話だ。
いきなり会社を立ち上げても取引先を信用させるのは難しい、当たり前の話だ。
そこは保証人とかがあればいいのだが、俺じゃ冒険者で畑違いだから足りない。
「どういう保証だったらいいの?」
イーナが単刀直入に聞いた。
「どこか後ろ盾があって、資金が簡単につきることはない。それが一番の保証になります」
「資金が簡単につきない……」
俺は考えた。
「ヤップ島の石貨でいくか……」
「いまなんと?」
聞き返してくるアーロン、俺は顔を上げて。
「保証を持ってくる」
「えっ? そ、それは持ってこれるようなものですか?」
戸惑うアーロン。
今までの話だとたしかに彼が聞き返したとおり、「持ってこれるようなものなのか?」と戸惑うだろう。
「ああ、少し待ってくれ。エルザとイーナもこのままここで」
「はい!」
「任せた」
頷く二人を置いて、俺はアーロンの部屋を出た。
☆
次に戻ってきたのは日没後だった。
さすがに時間内に抜けさせる訳にはいかなかったから、この時間になった。
「その方は……」
アーロンは俺が連れて来た少女を見て、困惑した。
「紹介する。彼女はアウルム」
「よろしくね」
そう、俺が連れて来たのは悪魔の様な角を頭に生やしてて、ゴスロリの様なドレスを纏っている少女。
アウルムダンジョンの精霊、アウルムだ。
「はあ……アウルム」
アーロンはピンと来なかった。
仕方がない、普通の人間はダンジョンの精霊なんて会わないし、ましてやダンジョンの外に出てくるなんて思わない。
だから、ストレートに説明してやることにした。
「彼女はその名の通り、アウルムダンジョンの精霊だ」
「…………えええええ!?」
説明してもすぐには理解できなくて、時間差で驚くアーロン。
「精霊って、あの精霊ですか!?」
「ああ。正真正銘のアウルムだ」
「えっ? で、でも……いや……でも……」
はっきりとアーロンが困惑しているのが分かる。
一方で、エルザとイーナ、普段からアウルムと接している二人は純粋に疑問を持った。
「あの、リョータさん、どうして彼女なんですか?」
「彼女に保証人になってもらうの?」
「いいやそうじゃない。アウルム、さっき頼んだの、やってくれるか」
「楽勝! 見ててね」
アウルムはハイテンションで頷いて、手をかざした。
すると、まったく前兆らしい前兆がないのに、会長室の中に黄金像が現われた。
アウルムとまったく同じ姿をした黄金像。
「うわっ!」
「すごいですね」
「うーん、鮮やか」
アーロンは盛大に驚き、エルザとイーナは普通に感心した。
俺はアーロンに言った。
「これが担保」
「え?」
「これ自体も純金だから高い値はつくけど、そうじゃない。これは、黄金のダンジョンの精霊アウルムが直々に与えてくれた本人の黄金像だ」
「……あっ」
さすがダンジョン協会長にまでなったアーロン、俺が言いたいことはすぐに理解した。
そう、ただの黄金だったらそれはただの資産だ。
俺が全資産を投入してもダメなのと同じことになる。
しかし、それがアウルム本人が与えた黄金像なら話は別だ。
それは「信用」になる。
黄金のダンジョンの精霊、アウルムがケツ持ちという信用になる。
「どうかな」
「は、はい! まったく問題ありません」
アーロンがそう言って、俺は仲間達と微笑み合った。