343.采配
「エミリー、それにセレスト」
夜の屋敷、サロンの中。
仲間達がくつろいでる所で、まずはこの二人を呼んだ。
「どうしたですかヨーダさん」
「その顔は何となく分かるわね。でも場合によっては説教かな」
「そうかもなのです」
二人の間で通じる何かがあって、クスクスと笑い合った。
それが何なのか分からないから、考えない事にして、まずは二人に頼んだ。
「カルシウムの件なんだが、二人の力を借りたい」
「何をすればいいですか?」
二人に説明した。
ダンジョンにモンスターが詰まって、それを掃討したいけど、普通にやったらドロップした牛乳の処分がやっかい。
なので動物Fの二人に頼みたい。
「申し訳ない話だとは思ってる。特にセレストはFファイナルでいやな思いをしてるはずなのに。でも」
「めっ、ですよ」
「へ?」
「ほらね、これはやっぱり説教案件だわね」
「え? ええ?」
エミリーとセレストの返事に戸惑う俺。
どういう事だ。
「ヨーダさん、それは水くさいなのです」
「水くさい?」
「仲間なのですから、困った時は遠慮無く頼るといいのです」
「それはわかるんだが、二人のいわゆる『ダメ』な所を利用するようで気が引けてな……」
「それこそ無用な心配よ。ねっ」
「はいです!」
「エミリー……セレスト……」
二人を見つめる。
どうやら本気で気にしていない――いやむしろ俺が気を使ったことの方を怒ってるって感じだ。
「分かった。頼む!」
「任せて」
「はいです」
「アリス、それとイヴ」
話がついたから、今度は離れた所にいる二人を呼んだ。
アリスは仲間のモンスターと遊んでて、イヴは何かスープの様なものを飲んでいた。
アリスは呼ばれてすぐにやってきたが、イヴはマイペースにそれを飲み続けている。
なのでアリスを連れてイヴの所に向かう。
「何飲んでるんだイヴ」
「ニンジンのポタージュ」
「へえ、美味しそうだな。エミリーが作ったのか」
「低レベルにはあげない、これはウサギの命の雫」
「取らないって」
命の雫って、飲んべえの酒みたいな言い方をする。
「それで、あたし達に何の用? 話聞いてたけど、あたしとイヴちゃんは役に立てなくない?」
不思議がるアリス。
二人とも動物ドロップは普通にドロップする方だ。
俺がエミリーとセレストに頼んだ事は二人は出来ない。
「うん、そうじゃなくて。エミリーとセレストが清掃した後、しばらくカルシウムの元の冒険者を入れるんだ。で、ドロップした牛乳を魔法カートの技術でうちに送ってもらう」
「……処分?」
イヴがそう言って、俺は頷いた。
そう、処分。
イヴは一回やってるから、すぐに理解した。
「ハグレモノにしてそれを倒して欲しい。そうすれば綺麗になくなる」
「そっか! わかった任せて」
「ウサギはそれだけでいいの?」
やる気の二人、特にイヴはいつにも増してやる気だ。
ニンジンのために精霊付きになりたい、そのために今回の件にはものすごく前向きなイヴだった。
「今はそれでいい、状況がまだ変わるかもしれないから」
「ん……」
頷くイヴ、そのままニンジンのポタージュに意識を戻した。
「ねえ」
「ん? アウルムか」
離れた所にいたアウルムがやってきて、不思議そうな顔で話しかけてきた。
「彼女使わなくていいの?」
「……ニホニウムだな」
頷くアウルム。
今はサロンにいない、もう一人の精霊、ニホニウム。
テネシンの時はニホニウムの力を借りてモンスターを出なくした。
カルシウムも、極論それでいいのだ。
だが、俺はそうしない。
彼女が最近、居候中のサクヤにつきまとわれてる。
つきまとう、つまりサクヤにとっては必要な存在で。
「今のニホニウムはサクヤと一緒の方がいいと思う」
「そっか」
「あんたもその方がいいって思ったんじゃないのか?」
「うん、だから聞いたんだよ。何か頼むつもりなら止めようと思った」
「そうか」
ないならいい、といって、アウルムはサロンから出た。
さて、これで配置終了。
エミリーとセレストがストックのモンスターを一掃してくれれば、いよいよ本格的にカルシウムの品種改良に入れる。




