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342.盲点

「うぅむ……」

「低レベル、どうした」

「いや、この牛乳をどうしたもんかと思ってな」

「???」


 首をかしげるイヴ。

 ダンジョンの外から見えている中の様子。


 スペースは少し空いたが、その空いたスペースからは未だに牛乳がダンジョンの外に流れ出ている。


「この牛乳の処分方法も考えないとな」

「ゴミだから、焼く」

「やめてくれ。燃えないし乾くだけなんて事態になったら地獄だ」


 周りを見る、既に地獄が予見できそうな状況だ。

 おそらくこの後トン単位で出る牛乳の副産物。


 それが全部乾いて臭くなったら――


 ぶるる。


 異世界に来て一番おぞましく感じて、身震いが止まらなかった。


 鳥肌も出てたから、腕をさすりつつ、考える。

 瞬間、天啓の如くひらめく。


「……仲間達に協力してもらいたいな。というかみんなの方が向いてる」

「低レベルよりも?」


 イヴはにわかに不思議がった。

 ダンジョンに関わる事で、俺よりもみんなの方がより向いてるのは珍しい事だからだ。


「ああ、みんなの方が向いてる」

「どうすればいい」

「俺が屋敷から魔法カートを取ってきて、単身で突っ込む」


 イヴはふむふむと、普段よりもだいぶ真剣になって俺の話を聞いていた。


「で、天使を倒して、ドロップした牛乳を魔法カートの転送機能で送る。送り先になるマスターロックは人気の無い場所に持って行く。野外とかだな。そうなると野外でハグレモノになる。それをみんなで倒す」


 そう。

 この世界でのゴミ処理はゴミを魔法とかで「破壊」している。

 セレストだとインフェルノとかの範囲魔法だ。


 だが、それでも燃やし漏らしとか出る。

 かつてセレストがそれで苦労してた。


 なぜそうするのかは、ひとえにそれが安全だからだ。


 危険をとってもいいのなら、ゴミのハグレモノ、フランケンシュタインにしてから倒せば、ドロップは無しで完璧に、綺麗さっぱり消し去ることが出来る。


 その事を思いついて、牛乳をダンジョン外に送ってハグレモノ化して仲間に倒してもらう。


 仲間達はずいぶん強くなったが、ダンジョンの外でハグレモノならドロップしないことは以前のままだ。


 それをやれば、牛乳が臭くならずに一掃出来る。


「話はわかった」

「じゃあ、屋敷に戻って手の空いてる仲間を集めるか」

「向こうはウサギに任せる」


 イヴはやる気満々って感じで名乗り出た。


「任せていいのか?」

「任せる」

「よし。じゃあこうしよう」


 もっと具体的な作戦を頭の中で練って、イヴに話す。


「俺がまず突入して、天使を倒していく。その間イヴはゲートで戻って、俺に魔法カートだけ届けてくれ。向こうでみんなに頼むのとハグレモノ始末する場所は任せる」

「わかった」


 イヴが頷いて、作戦が決まった。


 銃をしまって、ダンジョンと向き合う。


「それじゃーー行くぞ!」


 まずは俺からダンジョンに飛び込んだ。

 空いたわずかなスペースに飛び込んで、リペティションを連射。


 銃よりもハイペースで倒せるリペティション。

 みるみるうちにスペースが更に空く。魔法カートをおけるくらい空いた。


「イヴ!」

「ニンジンのために」


 遅れてダンジョンに飛び込んで、さっき開通したゲートで屋敷に戻る。


「この間にすこしでも多く――」

「お待たせ」

「はやっ!」


 まったく待ってなかった。

 イヴはほんの三秒も経たずに俺の魔法カートを届けてきた。


「ニンジンのために」

「お、おう」


 改めて今回のイヴのやる気を思い知らされる。


「いつくらいから転送していい」

「5秒」

「だから早いって! ……わかった、5秒後から転送する」

「ん」


 イヴは再びゲートを使って屋敷に戻った。


 5秒、それはマスターロックを移すのに必要な時間。

 5秒でいけるのか……と思ったが。


「……いけるよな」


 ニンジンが掛かってるイヴ、間違いなくやれるって俺は確信した。


 5秒間待った後、再び天使の掃討を開始する。

 リペティションで倒しながら、牛乳を全部魔法カートの中に流し込む。


 大丈夫? だとか。

 ペースを気にするとかは、全部しない。


 イヴと、仲間達が向こうにいるんだ。

 まったく問題はない。


 俺は天使を倒して、絞った牛乳をとにかく送る。

 それだけに専念した。


 ダンジョンを埋め尽くした天使は徐々に減っていった。

 最終周回魔法リペティション、それにMPを回復できる無限回復弾。


 最強の組み合わせで天使を倒していった。


 念じるだけであっさり倒せるリペティション。

 それでも、たまりにたまった天使を一掃するのに時間がかかった。


 結局、一階を綺麗に一掃するまでに一時間も掛かった。


「ふう……」


 手の甲で汗を拭って、一階をもう一度周回。

 途中で自然発生した分も掃討しつつ、もう大丈夫だろうと確信する。


 そうして、屋敷に戻ろうとしたが。


「あっ」


 ふと、帰る手段がないことに気づいた。

 ゲートはイヴが戻った後に消えてる。


 開通した人間が戻るために使ってしまうと消える仕組みなのだ。


 さて、どうするか――。


「ウサギ、カムバック」


 ゲートが現われ、イヴがやってきた。


「丁度良かったけど……どうしたんだイヴ」

「牛乳、全部片付いた」

「全部? 早いな」


 さすがにこれは想定外だった。


 リペティションを遠慮無く使ったら掃討の速度は理論上最速なのだから、向こうはまだまだ時間がかかると思っていたのだ。


「ウサギを舐めるな」

「舐めたわけじゃないが……ん?」

「どうしたの低レベル」

「今、ウサギを舐めるなって」

「いった」

「……ウサギを?」

「ウサギを」

「……ウサギ、だけ?」

「ウサギだけ」


 おそるおそる聞く俺、それに即答し続けるイヴ。


「まさか一人でやったのか?」

「一人でやった」


 イヴは得意げに胸を張った。

 バニースーツの豊満な胸は綺麗に揺れた。


「ウサギはいった、今回は頑張るって」

「おいおい」

「デッドオアニンジン」

「すごいな……」


 改めて感心した。

 ニンジンが絡まない時は寡黙でミステリアスだからいまいち目立たないが、能力は折り紙付きのイヴだった。


 まあ、元々。

 俺たちよりも早くから有名冒険者だったしな。


「それよりも、ありがとう低レベル」

「ありがとう? いやそれはこっちの台詞だが」


 一人で牛乳の廃棄をやってのけたイヴに、こっちがお礼を言わなきゃいけない所だ。


「そんな事はない、低レベルはウサギに活躍の場をくれた。ウサギは今回、外じゃないと活躍できない」

「うん? どういう事だ?」


 話が見えなくて、首をかしげる俺。

 イヴはもじもじしながら、感謝してるって感じの目で俺を見つめる。


「ダンジョンにあの二人、動物Fの二人を送れば大丈夫だった」

「……え?」


 動物Fって、エミリーとセレストの事か。


 いや今はそういう話じゃない。


「でも、ドロップSの低レベルがドロップして、外に送った。そのおかげでウサギは活躍できた――」

「……あっ」


 今更ながら、気づく。

 出発点が間違ってた。


 余った牛乳の廃棄、ゴミの処分。


 そこから考え出したから、今回のやり方になった。


 今回の件はもっと立ち返って考えるべきだったんだ。


 エミリー、そしてセレスト。


 動物ドロップFの二人が最初からダンジョンに入れば、いくら倒してもドロップはほとんど出ない。


 ゴミなんて、最初から生まれなかったのだ。

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― 新着の感想 ―
もったいないなせっかくの牛乳、チーズとかに加工出来ないのかねー
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