330.セレストのソロ
農業都市シクロ。
ここ二年弱の間、加速度的に豊かになっていき、人口も爆発的に増えた街。
そのシクロの街外れで、ささやかな事件が起きていた。
「ハ、ハグレモノ! ケルピーの大群が出たぞ!」
「住民から避難させろ! 街の中心部にいれさせるな」
住民の大半が逃げまとい、一部の人間が避難を誘導して被害をどうにか抑えようとしていた。
街外れの倉庫が次々と壊れ、そこから大量のモンスターがあふれ出る。
ハグレモノ化とはダンジョンのドロップ品が人気の無い所で元のモンスターに戻ってしまう現象で、倉庫番のサボリその他諸々のどうでもいい理由で割とよくおこる現象である。
街が大きくなればなるほど、栄えれば栄えるほど顕在化してくる現象だ。
今も、複数の倉庫から100を優に超えるモンスターが暴れ出している。
「くそ! 手に負えない!」
「まともに仕事してた倉庫番もにげだした、時間が経てば更に増えるぞ!」
踏みとどまってどうにかしようと思っていた男たちが苦虫をかみつぶした顔をする。
勇気を振り絞って踏みとどまったはいいが、モンスターと戦う能力なんてない街の住民。
彼らには祈ることしかできない。
祈りが届いたのか、運良く一人の冒険者がここを通り掛かっていた。
「どいて」
男を押しのけて前に出たのはセレスト。
赤いドレスに緑の黒髪をなびかせる、理性的な光を湛えた瞳が特徴の美女だ。
彼女は前に進み出ながら、魔力を高めていく。
「あんた魔法使いか? あの数だと乱戦になる、危険だ!」
男はセレストの事を案じた。
魔法使いがパーティーを組まずにモンスターの大群と戦うことが危険だというのは、冒険者じゃない人間でもよく知っている常識だ。
ましてやセレストは長い髪を高めた魔力でなびかせている、大魔法を得意とするタイプの魔法使いだから、なおさら危険に見える。
が。
「ハドロンビーム」
セレストはいくつもの光の玉を作り出し、それを扇形で左右の斜め前に向かって複数のビームをうった。
ビームが伸びていった先はモンスターが広がる先。
こぼれた水の如く広がっていくその外周だ。
モンスター達はビームを目の前にとまった。
勢いづいてとまれない何体かのモンスターはビームに触れて、体を真っ二つに切り裂かれてしまった。
文字通りのデッドライン、死との境界線。
複数にはったビームはリングのロープの如く、モンスター達を範囲内に閉じ込めた。
「閉じる」
つぶやいたあと、セレストは次々と新しいビームを放ち、新しいビームを撃つごとに扇形の角度を小さくしていく。
それに押されて、モンスターが徐々に中央に集められていく。
200体近いモンスターが扇の中心、セレストの真っ正面。
一箇所に密集して押しやられた後、セレストはより一層魔力を高めた。
長い髪がマントのように広がって、全身が高まった魔力によって燐光を帯びる。
そして、両手をかざす。
「インフェルノ・インフィニティ!」
得意とするレベル3の大魔法、それを応用した亜種の撃ち方。
絞り込まれた広範囲の業火が、まとめてモンスターを焼いていく。
地面からは地獄の業火、その周りには触れれば裂かれる輝くビーム。
一箇所に閉じ込められたモンスターは、身動きがとれず消滅させられた。
「す、すげえ」
「魔法ってあんな使い方できるのか」
周りが感嘆する中、セレストは密かに思った。
魔法をただ撃つのではなく、工夫して、使いこなして、効果的に放つ。
それはリョータがよくしていること。
リョータファミリーはみな、彼の背中を見て、そういう戦い方が出来るように日夜努力している。
リョータは仲間達に多くのスキルや魔法を与えただけではなく、こうして、生き様でもいい影響を与えていた。




