329.ロマン砲セレスト
フィラメントロックが照らし出す野外のフィールド。
魔力が高まって、綺麗な黒髪がふわりとなびいているセレスト。
目を閉じるほど集中する彼女の周りに一つまた一つの光る球が現われた。
一つ一つがピンポン球程度のサイズで、ゆらゆらとセレストの周りで浮かんでいる。
夜の野外でのそれはまるで蛍のよう――と美しさに見入ったのも一瞬だけで。
「ハドロンビーム」
カッと目を見開いたセレスト、それに呼応して、光る球が次々と打ち出された。
空中にあって綺麗なくらいまっすぐ直進したビームは、次々とアブソリュートロックを貫いた。
「おおお!」
思わず拍手するほどの威力だった。
その名の通り「究極級」の防御力を誇るアブソリュートロック、その防御力を貫通するのに苦労した記憶がある。
それをいともあっさり貫通するセレストの魔法。
一発一発が必殺級の威力だ。
実と種のコンビで繰り返した魔法ガチャで引き当てた魔法。
試し撃ちをしたところ、それまでのあらゆる魔法を耐えてきたアブソリュートロックが消滅した。
「これほどまでとは……」
当の本人が一番驚いていた。
「すごいなそれ」
「ええ、ありがとう」
「威力がとんでもない上に、魔力切れの兆候もないから――連射出来ると見た」
「ええ、MPの消費が意外と少ないわ。インフェルノよりも少ない位よ」
「すごいな」
「ただ、一発につき一体しか倒せないわね」
もう一度ハドロンビームを唱え、光る球からのビームでフィラメントロックを貫く。
「ビームは細いし綺麗に直進するから」
「綺麗に一直線上に並んでくれたらまとめてやれるけどな」
「そんな状況、実戦じゃ中々無いわね」
「だな……セレスト」
「どうしたの?」
「アブソリュートロックの石、もってるか?」
「自分用の? ええ」
セレストは頷き、懐からアブソリュートロックの石を取り出した。
仲間の皆に持たせてる、危険を回避する為の装備だ。
「貸してくれ」
「ええ」
セレストのを受け取って、自分のを取り出す、さらに予備で持っていたものもあわせて、合計みっつのアブソリュートロックの石を手にした。
それをセレストが撃ち抜いた、的のアブソリュートがあった所に並べてきた。
そのまま離れて、しばし待つ。
アブソリュートロックの石が三つともハグレモノに孵って、一列に並んだ状態になった。
「これは?」
「一列でならんだ場合何処まで行けるのかやってみよう。それ次第であたらしい戦略が立てられるかも」
「集団を狭い道に誘い込んで――という訳ね」
「ああ」
頷く俺。
セレストも今や実戦経験豊富なベテラン冒険者だ。
俺が言ったことのシチュエーションをすぐに理解した。
「やってみるわ」
深呼吸して、目を閉じるセレスト。
無風の中、なびく緑の黒髪。
フィラメントロックにライトアップされた彼女の姿は神々しくて美しかった。
幻想的な美しさから産み出される一つの光る玉。
「ハドロンビーム!」
今度は一つだけ。
体の真っ正面に作った光の玉がビームになって直進し、貫く。
さすがアブソリュートロックだ。
最初のヤツはすぐに貫いた。
二番目のヤツは最初の三秒後に貫通した。
最後のヤツはその更に五秒後に貫通。
貫通する度に弱まる光速のビームを十秒近くも止めた。
止めたが、結果だけを見れば――。
「三つとも貫通したな」
「ええ、驚きだわ」
「使えるな」
「使えそうね」
アブソリュートロック三体を貫ける魔法のビーム。
「普通のモンスターなら100体いけそうだな」
「いけそうね」
「状況を整えた上での狩り瞬間最大効率は俺を圧倒するな」
「リョータさんのおかげよ、ありがとう」
嬉しそうに俺に笑いかけるセレスト。
魔法ガチャで引けた魔法で、彼女は更にワンランク上の世界に足を踏み入れた。