328.無限ガチャ
夜、転送部屋の前。
転送ゲートが輝き、仲間のセレストが戻ってきた。
「お帰り」
「ただいま。どうしたの、そんなところにいて」
「セレストを待ってた」
「私を?」
セレストは驚き、頬を微かに染めた。
「ああ、セレストに頼みがある。協力して欲しい」
「分かったわ。場所は?」
「内容を聞かなくていいのか」
即答すぎるセレストに、さすがに苦笑いしてしまった。
断られたとしても食い下がってどうにか説得するつもりだったんだが、この結果はちょっと驚きだ。
「リョータさんのことは信頼しているわ」
セレストは穏やかに微笑んだ。
その信頼がうれしかった、だからこそ先に言っておかなきゃならないと思った。
「デメリットがあるかも知れない。無いかも知れないけど、あるかも知れない。それも含めて確認する為の協力をして欲しい」
「ええ、分かったわ」
セレストはやっぱり即答した。
迷いがかけらも見当たらない。
そんなに信頼してくれてる……正直デメリットの方が出る可能性もゼロじゃないから、俺は逆にためらってしまった。
それを見抜いたのか。
「リョータさん」
「え?」
「私はリョータさんから数え切れない程の物をもらってる。リョータさんと出会ってなければ多分もうこの世にいないと思うの」
初めてセレストと会った時の事を思い出す。
微妙に適性にあってない仕事をして、消耗してふらふらになってる彼女の事。
元の世界にいる時の俺と重なった。
この世にいないかも知れない、というのは決して言いすぎじゃ無い。
その事に感謝している、というセレスト。
「……」
ならば、俺も迷わないと決めた。
「分かった。デメリットが出たとしても、そっちもなんとかする。だから協力してくれ」
「はい」
頷くセレスト、密かに嬉しそうだった。
「それで、何処に行けばいいの?」
「邪魔が入らないで魔法をバンバン撃てる所がいいな」
「それならいいところがあるわ」
☆
夜のシクロ郊外、街から離れて何もなくて暗くなっていく野外で、そこだけ一際明るかった。
何故明るいのか不思議がっていたが、近づいて理由が分かった。
岩だ。
光を放つ岩が、ぐるりと円形に配置されてそこを明るくしている。
「これは?」
「アルセニックのモンスター、フィラメントロックよ」
「なるほど。光る岩か」
「ええ、光るし動かないし、ここは人が滅多に来ないから配置してるの。それとあれ」
離れた所を指さすセレスト。
そこにぽつんと、光を放たない別の岩型モンスターがあった。
「あれは……アブソリュートロックか」
「ええ」
「なるほど、いつもはここでトレーニングしてたのか」
「さすがリョータさん、すぐに分かっちゃう物なのね」
にこりと微笑むセレスト。
エミリー同様、しばらく見ないうちにドンドン強くなっていくセレスト。
その強さはレベルと能力によるものじゃなくて、技術と発想、それと反復訓練によるものだ。
立ち入ったことは聞かない様にしてるから今まで知らなかったが、どうやらここで、あのアブソリュートロック相手にトレーニングをしてたようだ。
「ここなら魔法をいくら使っても問題ないわ」
「そうだな」
「リョータさんの頼みごとはその荷物と関係があるの?」
「ああ」
俺は屋敷から持ってきた袋を地面に下ろした。
まるでポテチのパーティー開きのように袋を開いて、中の物をセレストに見せた。
「これは魔法の実……こんなに」
「3000万ピロかかった」
ダンジョンに行って集める時間がもったいなかったから、稼いだ金でシクロ中の在庫をかき集めた。
「それとポーダプルナウボードに……これは?」
セレストは魔法の実のそばにある小さな種を疑問に思った。
知識豊富な彼女が知らないもの、俺が裏ニホニウムで取ってきて、魔法を消す種だ。
「まずはこれを使ってみてくれ」
「どうやって?」
「持って、念じるだけ」
「分かったわ……あっ」
言われた通り種を手にして念じたセレスト、すぐにハッとして、びっくりした顔を俺に向けた。
「どうだった?」
「前に魔法の実で覚えさせてもらった魔法が消えたって」
「ああ、数字じゃなくて何が消えたのかも分かるのか」
「……なるほどそういうことね」
セレストは俺の意図を理解した。
もう説明は要らないようだ。
セレストは魔法の実を手にとって、それを食べた。
「ライトニング、レベル1の雷の魔法よ」
そう言ってから、おもむろにポータブルナウボードを取って、そのまま使った。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ E
器用 A
運 C
―――――――――
セレストの能力が表示された。
前にも見た、カンストした彼女の能力だ。
何一つ変わらない
実質二つ目の魔法の実なのに、何一つ変わってない。
下がるはずのレベルが下がっていない。
「次行くわ」
「ああ」
完全に理解しているセレストは種を使ってライトニングを消し、更に魔法の実を使った。
「フォトン、レベル2の光の魔法ね」
そして、またポータブルナウボードを使う。
―――1/2―――
レベル:54/54
HP D
MP A
力 E
体力 E
知性 A
精神 A
速さ E
器用 A
運 C
―――――――――
能力はまったく同じだ。
魔法の実は原則一個しか使えない。
二つ目以降は魔法を更に覚える代わりに、レベルの最大値が1下がる。
能力も相応に下がるから、ギャンブル性が高すぎて実質使えないものだ。
それを、事実上克服した。
裏ニホニウム二階の、魔法消去の種。
「すごいわリョータさん、クジを当てるまで引き直し続ける感じよ」
「ああ」
セレストはクジと言ったが、俺の感覚はちょっと違う。
一回限りのガチャを、当たりが出るまで引き直せる。
そんな組み合わせだ。