327.魔法が0失われました
次の日。
ニホニウム――いや前とだいぶ変わってしまったし性質も違うから、裏ニホニウムと呼ぶことにしよう。
その裏ニホニウムの地下二階にやってきた。
昨日の事で、ニホニウムが揺れていた。
普通に考えれば「可能性が広がった」話なんだが、その事でニホニウムがはっきりと動揺していた。
フォローしようとしたが、帰宅したアウルムが「任せて」といつぞやと同じように言ってきたから、任せる事にした。
ニホニウムはアウルムにひとまず任せて、俺は今日も裏ニホニウムの攻略を進める事にした。
ダンジョンに入って一階でぐるぐる回った。
リペティションもないから、慎重に戦って、HPをCまで確保してから二階に降りた。
まずは安全第一。
すぐに逃げれるように、一階と二階を繋ぐ階段の近くでぶらぶらした。
ゾンビとエンカウントした、向こうからやってきた。
エンカウントしたゾンビは前とちょっと見た目が変わっている。
ボロボロの服に、あっちこっちに傷があって体が腐りかけてるのは変わらないが、目が赤く妖しく光っている。
「くっ!」
ゾンビの攻撃を避ける。
動きも前と変わっていた、とにかく機敏だ。
レッドスケルトンの様な超加速じゃない。
前のゾンビが「うー、あー」とふらふら徘徊しているのに対し、今のゾンビはとにかく機敏だ。
機敏に近づき、攻撃をしてくるゾンビは前の感覚で戦うと手痛い反撃を喰らいそうだ。
一旦距離を取って、深呼吸して気を取り直す。
ゾンビが追いかけてきた。
まるでリング上のボクサーかレスラーの様な、じりじりにだが機敏さが分かる動き。
先手必勝。
身を低くして突進して、ゾンビの腰にタックルした。
ゾンビともつれ合う様な形でたおれて、頭の中でシミュレートした動きでマウントを取る。
ゾンビが反撃してきた、機敏な動きで首を動かして噛みついてくる。
マウントを取ってるから肩を押さえることでかみつきを回避した。
横の地面に尖った岩があった。
元々ニホニウムの内部は鍾乳洞の様な洞窟、尖った棒状や柱状の岩がたくさんある。
今まで使わなかったが、それを一本へし折って、両手で掴んでゾンビの頭部に振り下ろした。
叩きつける、叩きつぶす、ガンガンガンガン叩きつける。
岩を何度も何度も何度も――。
とにかくゾンビの頭めがけて叩きつけた。
「はあ……はあ……」
息が上がって、手が止まる。
ゾンビの頭がミンチよりもひでえ状態になって、動かなくなった。
マウントとってたのから立ち上がって離れる。
ゾンビが消えて、種が大量にドロップした。
――力が1あがりました。
アナウンスの声が十回近く連続で聞こえてきた。
よし、次だ。
能力が全部Fにもどされる裏ニホニウム、それでもHPと力さえ上がればかなり楽になる。
そのためにはまず――と、階段の近くでぶらぶらを続けた。
☆
―――1/2―――
レベル:1/1
HP C
MP F
力 C
体力 F
知性 F
精神 F
速さ F
器用 F
運 F
―――――――――
「よし」
ポータブルナウボードで能力を確認して、小さくガッツポーズした。
丁度いいところにゾンビがやってきた。
機敏に近づいてくる赤目ゾンビ、噛みついてきたところにカウンターのパンチ。
鼻がつぶれ、残り少ない歯が吹っ飛び、頭そのものが粉々になった。
予想通り、力がある程度まで上がってくれば楽になる。
ゾンビも鍾乳石でガシガシ叩きつけるとかじゃなくて、拳で倒せるようになった。
能力が普通に戦えるレベルになってきたから、攻略を始めることにした。
階段の近くでぐるぐるぶらつくレベル上げから、ちょっと遠征して地下二階を探索した。
目的は能力上げじゃない、あげてもどうせ入り直したらリセットする。
無駄な戦闘を避けて、ダンジョン探索に専念した。
ぶらぶら歩き回って、どうしても戦わざるを得ない時だけ戦って。
そうして一時間たったころ。
「いた」
それまでと違うゾンビを見つけた。
赤目なのは一緒、しかし小さい。
一階のスケルトン、レベルダウンの種をドロップしたスケルトンと同じく子供サイズのゾンビだ。
見た目は同じ眼が赤くて――
「速いっ!」
機敏さは普通の赤目ゾンビ以上だ。
レッドスケルトンと違う速さなのも一緒だ。
赤いガイコツはとにかく超スピードで動く。
それに対して、ここの赤目ゾンビはとにかく機敏だ。
コミカルなアクションで香港からハリウッドに進出した世界的大スターを彷彿とさせる。
速いけど、よく見たら納得する人間レベルの機敏さ。
ミニ赤目ゾンビは天井から伸びてくる鍾乳石を掴んで、壁を蹴って俺の背後に回った。
「お前の様なゾンビがいるか!」
振り向き、死角からの噛みつきをガードする。
頭を掴んで防ぐ、パワーがCまで上がったことでどうにか防げた。
ミニ赤目ゾンビは距離を取ろうとする――が。
「にがさん!」
掴んだまま地面に叩きつける、流れる様に頭を叩きつぶす。
俺の速さはFに戻っている、今のでやれなかったら長期戦になってたかも知れない。
立ち上がって、ドロップを待つ。
しばらくして、種が一個だけドロップした。
またまたはじめて見る種。
それを手にとる、レベルダウンと同じ自動で消えない、使われない。
そっと握って、使う様に念じてから、ようやくそれが消えて、使われていく。
――魔法が0失われました。
「おお?」
アナウンスが聞こえてきた。
魔法のない俺に、魔法が0失われるというアナウンス。
覚えてる魔法を消す、無くす。
そういう種って事か。
「……これもすごいかも知れないぞ?」
ある可能性を思いついて、俺はわくわくしだしたのだった。