324.ニホニウム再攻略
丸腰のまま、馴染んだニホニウムの中を進んでいく。
見慣れたはずの鍾乳洞のダンジョンなのに、気のせいか、前よりもおどろおどろしさが。
不吉な空気が漂っている。
「俺の能力が下がったからなのかな」
昔、インフルなのにも関わらず出社を上司に命令された時もこんな感じだった気がする。
普段と変わらない環境なのに、自分が弱ってるせいでいやな感じがした。
「お」
思わず声が出た。
少し進んだ先に、本来のニホニウムにはなかった、ナウボードが存在していた。
それに近づき、慣れた手つきで操作する。
―――1/2―――
レベル:1/1
HP F
MP F
力 F
体力 F
知性 F
精神 F
速さ F
器用 F
運 F
―――――――――
―――2/2―――
植物 S
動物 S
鉱物 S
魔法 S
特質 S
―――――――――
すると、ものすごく懐かしいステータスがでた。
エミリーと出会った直後の、ニホニウムにくる直前までのステータスだ。
能力はオールF、なのにドロップはオールS。
ものすごく懐かしい感じがした。
「なるほどね」
問題はこれがこのニホニウムの中のみなのか、それともダンジョンをでてもそうなのか。それを先程確認した。現状は、前者だ。
ちなみに後者――ダンジョンをでても元通り、つまり能力リセットなら、それはそれで使い様がある。
「ウインドウカッター」
普段は使わない、魔法の実で覚えた魔法を使ってみた。
MPがFでもとりあえず一発は撃てる魔法だ。
それは発動しなかった。
文字通りのリセット、魔法の実もリセットみたいだ。
もしもこれがダンジョンをでてからもそうなら、ダンジョンに入りたいと思う冒険者はきっと山ほどいる。
レベルカンストからの魔法の実ガチャ、それを失敗してのニホニウムリセット。
冒険者の99.99%がレベルカンストしているこの世界では経験値の価値はかなり低い。
魔法の実をリセット出来るのなら、レベル1からやり直してもここに来たいと思う冒険者は山ほどいるはずだ。
「……この時点で」
ニホニウムはかつてのニホニウムじゃない、冒険者に必要とされうる存在になる。
そう思ったが、もう少し様子を見ることにした。
ナウボードの前を離れ、ダンジョンの中を歩いて回った。
慣れ親しんだ場所に、これまた見慣れたモンスターが現われた。
服を来た人型のガイコツ、スケルトンだ。
スケルトンと目があった、向こうに目玉はないがはっきりと目があった。
そいつは俺に向かってきた。
ふらふらと近づいてきた――かと思えばものすごい加速をして一瞬で踏み込んだ。
俺が知ってるスケルトンよりも遥かにすごい猛加速。
とっさに真横に飛んで避けたが、指の白い骨が脇腹をえぐった。
着地、それと同時に血が吹き出される。
脇腹が焼けつくように熱い、久しぶりの大ダメージの感触。
まずは距離を取ろう、スケルトンはある程度離れると動きが鈍くなって徘徊モードに――。
「――くっ!」
呻きながら、更に飛びのいた。
いつもならぶらつき始めるはずの距離まで離れたのにもかかわらず、スケルトンがまったく止まらずに更に迫ってきた。
意表を突かれた、今度はほっぺたにつー、と鮮血が流れた。
動きのパターンが違う。
見た目は俺がよく知っているスケルトンだけど、動きのパターンがまったく違う。
「経験者殺しか」
吐き捨てる様にいって、更に距離を取ろうとする。
しかしスケルトンは攻撃の手を緩めず、更に襲ってくる。
俺よりも遥かに速い動きだ。
今の俺には何もない。
能力も最低だし、銃も魔法も時間をかけて集めた様々なアイテムもない。
まるで初めてニホニウムに来たときのようだ――いや。
あの時はたけのやりがあった。
今は、それすらない。
はじめて来たときよりも更に不利な状況。
とは、思わなかった。
確かに能力もない、武器もアイテムもない。
そのかわり、経験がある。
まるでこの日の為に積み重ねてきたような経験が。
俺は脳死周回できるようになった時も、横着はしないで倒し方、動き方を模索してきた。
その経験は残ってる、頭が思い出せる。
三度襲いかかってくるスケルトン。
今度は距離を取らなかった、むしろこっちから踏み込んでいった。
スケルトンの鋭い攻撃を皮一枚で躱して、懐に潜り込んでタックルをかけた。
俺の体重と勢いで後ろ向きに倒れていくスケルトン。
倒れきる前に、俺は更に一歩踏み込んだ。
腰にタックルしている状態から更に一歩踏み込んで、スケルトンの頭――頭蓋骨を両手で押さえる。
そのまま、後ろ向きに倒れる勢いに俺の体重を上乗せする。
ベキッ! メキメリッ!
体重をかけて、スケルトンの頭を地面に押しつけて、砕いた。
動きは変わったが、硬さつまりHPは変わってないようだ。
頭蓋骨をばらばらに砕かれたスケルトンはそれっきり動かなくなって。
しばらくすると、種を、一気に10個ドロップした。