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322.魔除けになる住所

 テルルダンジョン、休憩所。


 亮太を信奉するセル・ステムがシクロ入りした時に、ほとんどのダンジョンのほとんどの階層に設置した、ダンジョン内の安らぎの場である。


 少しだけ休めば回復してまだいける、街にいったん帰るよりもダンジョンの中で休めた方が通しで見た時の効率が上がる。

 そういう場合が少なからずあって、その需要を満たすために作られたのがここだ。


 そこは今日も、多くの冒険者が一時の休息を求めて集まっていた。


「おいクルーズ!」


 突然、男の声が休憩所内に響き渡った。

 男は初老だが筋骨隆々の戦士、いかにも歴戦の勇者って感じの見た目だ。


 その男は仁王立ちして、休憩所のベッド――体力回復のためにわりかし上質なベッドで寝ている青年を見下ろしていた。


 クルーズと呼ばれた青年はいやそうに目を開けて、体を起こした。


「なんすかグレンさん」

「お前寝てないでこっち来て会話に混ざれ」

「はあ、作戦会議すか」

「違う。ただの世間話だ」

「……すいません、マジで疲れてるんで休ませてください。今日は三発も大魔法撃たされたんでヘトヘトなんすよ」


 クルーズはため息をつきたくなるのを我慢してグレンに言った。

 よく見れば目の下にクマが出来ている。


 MPはHPとは違う性質を持つ。


 数値化して100のMPを持っていた場合、消費1の簡単な魔法は問題なしに100回使える。


 しかし50の大魔法を二回撃てるかどうかといえば、そうとは限らない。

 魔力は全身にまんべんなく分散しているものだ。

 上限の半分も一気につかってしまうと、残りをかき集めるのに時間がかかる。


 この現象を、魔法をよく知るセレストが亮太にこう説明した。


 ストローでゼリーを食べた場合、一口目は簡単に半分を吸い込めるが、二口目で残り半分を全部食べようとしたらあっちこっちにバラバラ散らばっているので上手く吸い出せないことが多い。


 ちなみ百回分に分ければちょっとずつ問題なく吸い出せる、とも話した。


 ちなみにそれを亮太が納得して、「乾電池を温めて残りを絞り出すあれか」と言ってセレストを困らせた――のは余談である。


 クルーズはMPを大量に消費する大魔法を三回もつかってしまい、今は残りのMPを使えるようにするために体を休めている所だ。


「休憩所にいる時くらい休ませてくださいよ」

「なに言ってんだお前、休憩時間はパーティーの仲間と喋ってコミニュケーションを図る、これが冒険者の基本だぞ」

「えええ?」

「うちはアットホームを売りにしてるパーティーだからな。いいから来い、話楽しいぞ」

「いや、マジで勘弁してほしいっす……」


 手を引っ張られ、ベッドから下ろされて。

 クルーズは立ちくらみを起こして、倒れないように堪えるので精一杯だった。


「あんた大丈夫か」


 隣のベッドで休んでいる別の男が心配してきた。


「あ、ああ」


 クルーズは生返事をした。

 正直つらい、いきなり立たされてまともな返事も出来ない位、立ちくらみで頭がぼんやりしてる。


 それを見た男は体を起こし、立ち上がって、グレンに話しかけた。


「なあ、この人魔法使いなんだろ? 休ませてやれよ」

「人のパーティーに口を挟むもんじゃないぞ兄ちゃん」


 グレンは半笑いで答えた。


「こっちは善意で言ってるんだぞ。パーティーに早く馴染もうとするのは悪いことか、んん?」

「……」


 男は答えず、思いっきり呆れた目をグレンに向けた。

 しばらくして、立ちくらみが収まって、目の焦点が徐々に合ってきたクルーズに言った。


「あんた魔法使いだよな。だったらいい魔法の言葉を教えてやる」

「魔法の言葉?」

「ああ、独り言でもいい、こう言うんだ。『リョータ・サトウに相談してみる』って」

「……?」

「なっ!」


 意味が分からないとばかりに首をかしげるクルーズ、一方で驚き過ぎて言葉をうしなうグレン。


「それは何の意味があるんすか?」

「いいからつぶやいてみろよ」

「や、休んでろクルーズ」

「え?」

「ただし休憩時間が終わったら出かけるからな、いいな」

「あ、ああ……」


 慌てて立ち去って、雑談を続けてるパーティーの仲間のところに戻っていく。

 未だによく分かっていないって顔のクルーズ。


「なっ、魔法の言葉だったろ?」

「よく分からないけど……ありがとうす」


 クルーズはお礼を言って、その後「いいから休め」と言われてベッドに再び寝っ転がった。


 テルルの休憩所、その何気ない日常の一コマ。


 それを、休憩所のスタッフが一部始終見ていた。


     ☆


「ん? んん? んんん?」


 テネシンの一件が片付いて、久しぶりにテルルに来て、ちょっと稼ごうかと思った俺は気になる光景を見つけた。


 冒険者の魔法カートにほぼ全員何かを貼っている。

 さっきから目につく魔法カート全てだ、100%の確率で貼っている。


 近くを通り過ぎた冒険者の魔法カートを間近でみた。


 ちょっとだけ懐かしい気分になった。

 冷蔵庫とかによく貼ってる、水道工事とかエアコン工事とか、そういう時に連絡する業者の連絡先を書いたマグネット。


 それに似たものを冒険者達が魔法カートに貼っている。

 マグネットの内容は地図、シクロの地図で、一箇所にでっかくと目印つけられている。


 その目印の場所が――俺たちの住む屋敷だった。


「何がどうなってんだ?」

「魔除け」

「うわっ!」


 後ろからいきなりイヴが話しかけてきた。


「いきなり声をかけないでくれ、驚く」

「わかった、次からはニンジンで挨拶してから声掛ける」

「ニンジンで挨拶ってなんだよ!」

「後ろからニンジンクサイ息を吐きかける」

「その答えは予想外すぎる!」

「息だけならお裾分けしてもいい」

「分けるならもっと分けろよ!」


 盛大に突っ込んでから、話を元に戻す


「それよりも魔除けって何だ?」

「最近休憩所で配ってるもの、何かあった時の相談先」

「相談先って、うちの屋敷の場所だぞあれ」

「理不尽があった時は低レベルに相談するといい、らしー」

「……あぁ」


 なるほどそういうことか。

 今までもちょこちょこあった話、それを形にしたものみたいだ。


「低レベルの住所は魔除け。ニンジンの次くらいすごい」


 知らないうちに面白い事になってたみたいだ。

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