318.マーガレット
昼、シクロの外れ。
何もない荒野にあえてやってきた。
昨日よりも更に踏み込んだ実験、更に危険度が増す実験。
周りに影響が出ないように、あえてここに来た。
そんな俺の目の前に、ダンジョンマスター・バイコーンがいた。
100万ピロ出して、12本セットで買ったバイコーンホーン。
バイコーンホーンは単体じゃかなり弱い事もあって、ダンジョンマスタードロップの中でも安い方だ。
その中の一本を使って、ハグレモノを孵して、戦った。
攻撃をよけつつ、バイコーンのデバフオーラもよけつつ、割合弾を撃ち込む。
割合弾のテストだ。
その相手にバイコーンを選んだのは理由がある。
打ち込んだ銃弾が角の先、見えないバリアに弾かれた。
そう、バイコーンにはこのバリアがある。
飽和攻撃で破れるがかなり強いこのバリアだ。
弾かれたのにもかかわらず、俺は更に打ち込む。
「三、四、五、六……」
よけつつ打ちながら、数を数える。
打ち込んだ数だ。
やがて、弾かれた割合弾が12発に達したところで――バイコーンが倒れた。
「一発も貫通したようには見えなかったが、それでも効くのか。バリアを貫通するのか?」
もう一回、バイコーンホーンでバイコーンを孵す。
今度は割合弾をきっちり11発、瀕死にまで追い込んでから、弾を通常弾に変えて連射。
瀕死になっているはずなのに、通常弾をバリアで次々と弾いて、バイコーンは倒れる気配がまったく無い。
その通常弾の連射がやがてバイコーンのバリアを破り、当ったわずかな一発でバイコーンは倒れた。
「やっぱりか。割合弾はバリア無視効果がある。ただし最後の一発はバリアを貫通する必要がある」
ゲームでもたまにある。
瀕死なのに、バリアで弾き続けてくれるキャラが。
瀕死を狙ってくる敵のパターンも多いから、そういうのが自分の操作キャラだと結構使える。
それはそうとして。
また一つ、割合弾の特性が分かった。
「リョータさん」
「うん? マーガレットじゃないか。どうしたんだこんなところに」
荒野に現われたのはマーガレットだった。
典型的な姫騎士風の白い鎧、引きずるほど不釣り合いの大剣。
戦闘能力は全てF、ドロップステータスは全てA。
久しぶりにあうマーガレットは、相変わらず清楚で上品だった。
「探しましたわ。屋敷に行ったら野外にと家の方がおっしゃいましたので」
「ああ、ちょっと用事があってな。それよりもマーガレットは俺を探して何の用だ」「リョータさんにお会いしたかったのですわ」
「だけなのか?」
「だけ、ですわ」
「そうか」
俺はホッとした。
マーガレットが何か困ってて、彼女本人から頼まれればやらなきゃと覚悟を決めていた。
それがないといわれて、ちょっとホッとした。
そういえば、と彼女の周りを見た。
「そういえばあの人達は?」
「ラト、ソシャ、プレイ、ビルダーの事かしら?」
マーガレットはいつもの様に、律儀に四人の名前を呼んだ。
マーガレットを守る四人の忍者騎士。
普段は見えないが、彼女が必要とする時にどこからともなく現われる。
「ああ」
「居ますわよ。ラト、ソシャ――」
やはり律儀に名前を全部呼ぶマーガレット。
瞬間、頭の中にある事を思いついて、自分に加速弾を撃ち込んだ。
30秒の加速した世界。
この30秒間、俺は他のもの達よりも超ハイスピードで動ける。
何故こうしたのかは、知りたいからだ。
あの四人がどういうやり方でどう現われているのか。
通常の状態で見逃すとしても、加速状態なら……ってわけだ。
「プーーーーレーーーーイーーーー」
加速した世界の中、ものすごく間延びするマーガレットの声。
それを聞きながら、じっと目を凝らす。
今から起こった事を何一つみのがさない様に、と意気込みながら。
「ビーーーールーーーーダーーーーーーーー」
「――っ!」
思わず息を飲んだ。
ぎょっとした。
直前まで居なかったはずなのだ。
マーガレットの向こう、その背後。
最後の一人を呼ぶまで確実に居なかった四人の騎士が、つぎの瞬間現われた。
まるでワープ、瞬間移動。
加速した世界の中でも、一瞬で現われたように見える。
だからなにも分からなかった。
「ますます謎が深まるな」
俺は、ため息をつかざるを得なかった。
☆
三十秒後、加速が切れて戻って来た俺。
「リョータさん? どうかなさいましたの?」
「ああすまない、なんでもない」
加速中は会話にならなかったから口を閉ざしてじっとたっていた。
マーガレットからしたら俺は三十秒も呆然と立ったまま、に見えただろう。
「悪かったな無視して」
「いいえ、その……そうしているリョータさんを見ているのも、嫌いではありませんわ」
「そういえば、戦い方は変わってないのか?」
マーガレットを見ながら、四人の騎士を見る。
四人は忠実な僕という姿勢を崩さないで、マーガレットに付き従っている。
「はい、前と同じですわ。あ、でも。ラトもソシャも、プレイもビルダーも前より断然強くなりましたわ」
「そうなのか」
「ええ、ものすごく頼りになりますわ」
「「「「恐縮にございます」」」」
それまで何もいわなかった四人が、一斉にマーガレットに片膝をついた。
相変わらずだな。
忠誠心100%、歴史シミュレーションだったら絶対に裏切らないって裏ステータスつきだなこの四人は。
「でもそうか。強くなってるか。マーガレットファミリーもますます活躍するな」
「ラト、ソシャ、プレイ、ビルダーのおかげですわ」
「ふむ……なあ、あんたたち……一つだけ聞いていいか」
四人はそろって、一瞬だけちらっとマーガレットを見る。
俺は苦笑いして。
「いいかなマーガレット、彼らに質問しても」
「もちろんですわ。リョータさんは何が知りたいんですの?」
マーガレットがそういうと、四人の空気が変わった。
なんでも聞いて、なんでも答える。
そんな空気になった。
「あらゆる攻撃が割合になる。例えスライムでもダンジョンマスターでも、きっちり12発殴らないと倒せないような体になれるとしたらどうする」
「「「「喜んで」」」」
四人は即答した。
すごい、すごかった。
おれが言いたい事の意味をすぐに理解したのがすごかった。
そしてそうなってても、マーガレットのためなら、という忠誠心がすごかった。
「マーガレット・テネシン」
「え?」
「ああいや」
俺は割合弾を見た。
何となくだけど、これは俺より、マーガレットたちの方が合いそうな気がしてきた。




