317.無限割合弾
夜、屋敷の地下室。
仲間のみんながサロンで集まっている中、俺は一人でここにやってきた。
離れた所にもやしを置いて、待つ。
しばらくしてスライムが孵った。
可愛らしい顔のスライムは、俺を見つけていきなり戦闘態勢に入る。
いかつい顔に早変わりして、ゴムボールのように跳ねながら飛んで来た。
体当たりを避けて、すれ違いざまに弾丸を撃ち込む。
銃弾を喰らったスライムは大きく吹っ飛んだ。
地面に何度もバウンドする、最後のバウンドで体勢を立て直し、空中でぐるっと回転して、こっちを向いた。
銃弾は確実に入ったが、ピンピンしている。
「ダメージ系で一発で倒れなかったのは初めてかも知れないな」
俺はそうつぶやき、銃を見た。
スライムは更に飛んできた。
怒り、あるいは戦意か。
それがガツンと上がって、更に猛烈な体当たりをしかけてくる。
今度は真っ向から二丁拳銃を構え、銃弾を連射。
パンパンパンパンパンパン――。
カウンターのように打ち込まれる銃弾。
一発二発三発――。
最初の一発とあわせて、合計で十二発になったところで、スライムはポン! と消えて、ハグレモノの通常弾をドロップした。
12発、テネシンの言うとおりだ。
割合弾、いや無限割合弾というべきだろうな。
テネシンの12の☆にかかって、12発打ち込まないと敵を倒せない銃弾。
純粋に考えて一発当たり12分の1、8.3%の割合ダメージだろう。
「本当に割合なのかを確かめたいな。本当なら仲間のみんなに……マーガレットにつかってやれる」
11発打てば敵は残りHP一割以下の瀕死になる。
確実な手加減攻撃はかなり貴重だ。
今度はタンポポをつかって、ダンテロックを孵した。
アルセニックのモンスター、攻撃は一切してこないヤツだ。
そいつに向かって、目を凝らして観察しつつ、割合弾をゆっくり撃ち込む。
一発……二発……三発と。
そして11発打ち込んだ後。
「……見た目じゃわからんか」
苦笑いしつつ、ダンテロックに近づく。
そいつに見つめられる中、軽く拳で小突く。
力SSを出来るだけ軽くと意識しながら小突く。
軽い音を立てて、ダンテロックが割れた。
「うん、瀕死状態になってるな」
念の為にもう一度ダンテロックを出す。
同じ力で殴る、今度は倒れなかった。
10発の割合弾を撃ち込んでから小突く、倒れなかった。
「割合ダメージで確定だな」
実験結果に俺は満足した。
そうだ、強化弾をつけて撃てばどうなるんだ?
それに、融合弾にしたらどうなる?
割合弾の特性が、知識欲と好奇心を掻きたてた。
この新しい弾丸を一刻でも早く丸裸にしようと。
俺は、夜通しテストに励んだのだった。
☆
地下室の入り口、階段の上から亮太のテストを、エミリーとセレストが見守っていた。
「いいの? やらせて。彼の悪い虫が出たわよ」
「……」
エミリーは苦笑いした。
すぐに返事が出来ないほど、彼女の心境は複雑だ。
「ヨーダさんと暮らし始めた頃は止めたです」
「気持ちはわかるわ、彼、何かに夢中になったり、他人のために何かをする場合ってすぐに周りがみえなくなるんですもの」
「はいです。あの時のヨーダさん、こんなに目の下のクマがすごかったです」
エミリーは指二本をつかって、自分の目の下にクマの大きさを示した。
「そんなに」
「クマは消えてからが本番って言ってたです」
「体質、いや性格ね」
セレストはため息をついた。
彼女も亮太に助けられた人間の一人。
そして、リョータファミリーでエミリーに続く古参だ。
さらには、自分の想いから、亮太をいつも見ている。
亮太がのめり込めばノンストップ、ブレーキの壊れた機関車だというのはよく知っている。
だからセレストは、出来る事なら亮太を止めたい。
そのために、エミリーを巻き込もうとしている。
が、そのエミリーは。
「とめられないです」
「どうして?」
「昔とちがって、ヨーダさんは自分の事じゃなくて、みんなのために一生懸命なのです」
「……最初は違ったのね」
「はいです。そんなヨーダさんを、止めにくくなったです。最近は精霊さんもヨーダさんのこと必要ですから」
「……そうね」
「ちょっと行ってくるです」
エミリーはそう言って、身を翻して廊下を歩き出した。
「何処に行くの?」
「おにぎり作って差し入れするです。ヨーダさんがそうしたいですから、倒れない範囲でお手伝いするです」
「……私にも手伝わせて」
「はいです」
セレストはエミリーに追いつき、二人で一緒にキッチンに向かって行った。
仲間達の思いに支えられて、亮太は更に強くなっていく。