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「って訳で、入場制限をかけることになった」


 テネシンの部屋。

 精霊・テネシンを相手に、俺はセルの方針を説明した。


 冒険者が殺到しすぎてキャパシティを余裕で越えるから、免許を発行することでテネシンの入場を制限することになった件。


 人間の世界、冒険者の業界では当たり前の話だが、テネシンではそうも行かない。

 正確に言えば「行くかどうかがわからない」、のだ。


 現に俺の説明を聞いたテネシンは沈黙したまま俺を見ている。

 いや睨んでいるのか?


 男のツンデレだが、テネシンはさみしがり屋で、人が増える事を喜ぶ。

 そんなテネシンに、入場制限をかけるのはむしろよくないんじゃないか、って不安がある。


 そんな不安のまま、テネシンの反応をじっと待つ。


「どれくらいだ」

「え?」

「どれくらいの数になる」


 普段の「威勢のいい強がり」とは違って、テネシンは真面目なトーンで聞いてきた。


「そうだな……1フロアにつき300~500人って所だ。それ以上だとダンジョンそのものを侵食しすぎちまう」

「侵食しすぎる?」

「モンスターにも生態がある。今以上に村の面積を増やすと良くない結果になるかも知れない」

「……」


 俺の説明を聞いたっきり、テネシンはまた黙ってしまう。

 この沈黙はどういう意味なんだろう、微妙にわからない。


 その沈黙は、約五分くらい続いた後。


「……ふん」


 テネシンが、つまらなさそうに鼻をならした。


「舐められたもんだな。俺と俺のダンジョンがその程度しか入らねえと思われてたとはな」

「もっと入るって事か?」

「当たり前だ。俺をなめんなよ」

「そうか……悪かったな変に気を回して」

「べ、別に悪ぃとか言ってねえ!」


 テネシンが俺の言葉を否定した。

 うーん、どっちなんだこれは。


 入場制限の事をいいと思ってるのか迷惑だと思ってるのか。

 いまいち、よく分からない。


「あー、なあテネシン――」

「そ、そういや」


 テネシンはちょっと上ずった声で、俺の言葉を途中で遮った。


「てめえ、あの女に力をもらってるな」

「あの女?」

「あの女つったらニホニウムだろうが!」


 テネシンに怒られた。

 なるほど、今テネシンダンジョンのモンスター出現を抑えてるのがニホニウムだし、確かにここで「あの女」って言ったらニホニウム……かもしれないな。


「ああ、悪いな。協力してもらってる」

「そっちじゃねえ」

「え?」

「ああもうイライラする!」


 テネシンは言葉通り、イライラした様子で自分の頭をかきむしった。


「人の話はよく聞け。協力とかじゃねえ、あの女に力をもらってるつったんだよ」

「力をもらう……ああ」


 そう言われて、ようやく思い出した。


 ニホニウムとの出会いのこと。

 そして、彼女の部屋で初めて会話したときの事。


「リペティションの事か」


 確かに、その魔法はニホニウムからもらったような物だ。


「それがどうした――」

「気にくわねえ」

「え?」

「お、俺を抑えてるあの女のにおいが気にくわねえつってんだよ」

「はあ……」


 そう言われても、じゃあどうしたらいいんだ?

 におい……リペティションを無くせばいいのか?


 ってか無くせるのか?


「そ、それがてめえの得物だな?」

「この銃のことか? ああ、これでいろんな銃弾を撃ち出すんだ。ある意味魔法みたいなもんだけど」


 それがどうした、って思っていると。


「よこせ!」


 テネシンに、二丁あるうちの一丁を奪われた。


 テネシンは銃をなめ回すように見て、いじって、装填している銃弾を観察する。


「ちっ、これもあの女のものじゃねえか」


 テネシンは特殊弾にも悪態をついた。

 確かに、特殊弾はニホニウム産のハグレモノからドロップした物がほとんどだが。


「あの……」


 おそるおそる声をかけると。


「ふん」


 テネシンはいつもの様に鼻をならして、銃を俺に放り投げ、返してくれた。


「ととっ!」


 慌ててキャッチすると、銃の後にもう一つ何かが飛んで来た。

 それも慌ててキャッチすると。


「……銃弾?」


 手の中にあるのは、見た事もない銃弾だった。

 新しい特殊弾、という思いが頭によぎる。


「これは……あんたが?」

「か、勘違いするんじゃねえぞ。たまたまそういうのを持ってたんだよ」

「はあ」


 いやあたまたまって事はないだろ。

 こんなもの、こんな銃弾。


 この世界で、俺しか使ってない物だ。

 たまたま持ってたって、そんなはずはないだろ。


 が、テネシンがそう言い張る以上そういうことにしよう。


「ちなみにこれはどういうものだ?」

「12発」

「え?」

「それを十二発打ち込めばどんな相手も死ぬ」

「……ああ」


 俺は「☆」の事を思い出した。

 テネシンの――呪いとも言うべきものだ。


 影がもどきになって、それが12回倒されるとダンジョンに囚われて、出られなくなってしまう。


 それがモチーフになった特殊弾だ。


 12発撃てば死ぬって事は、一発ごとに8.33%の固定割合ダメージって事だ。


「俺が持っててもしょうがねえ、てめえが使え」

「ああ、ありがとう」


 とは言っても、これはなあ。


 十二発撃てばどんな相手も死ぬって言われても、俺にはすでにとなえれば相手が死ぬリペティションを覚えてる。

 この銃弾――割合弾っていうべきか、これはリペティションの劣化版なんじゃないか? って思ってしまう。


「……いや違う!」

「なっ!」

「そうだ、そうだよ、うん!」

「ど、どうしたてめえ、いきなり生き生きし出しやがって」

「ありがとう! これすごく助かるよテネシン!」


 この弾丸のすごい効果に気づいた俺は興奮して、テネシンの手を取ってブンブン振った。


 割合弾、11発打ち込めば……?

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