315.キャパオーバー
夜、テネシン一階。
リョータファミリーで珍しく残業していた。
参加したのは俺とエミリー、セレスト、イヴ、アリスと。
仕事はダンジョンで稼ぐ、冒険者組だ。
「悪いな、こんな時間に付き合ってもらって」
俺は仲間達に謝った、特にエミリーにだ。
彼女との約束で、夜は仕事しないで家に帰るようにしてたんだけど、それを破るどころか、みんなを巻き込む形になってしまった。
「たまにはいいわ、ね、エミリー」
「はいです。昼間は工事中でダメなのは分かるのです」
「それにこうしてみんなで、なのは久しぶりで楽しいもの。リョータのせいで一人でもダンジョンを回れるようになったし」
「ありがとう」
ウインクするセレスト、ニコニコ顔のエミリー。
二人にもう一度お礼を言ったあと振り向く、今度はイヴとアリスの二人の方を向く。
「二人も悪いな」
「ウサギは無問題。低レベルから太くて硬くて甘いものをいっぱいもらったから」
「言い方言い方」
「遠足みたいで楽しそう!」
イヴもアリスも、それぞれの言葉で気にしてないと言ってくれた。
すごく……ありがたい。
「じゃあさくっとやって帰るか。一、二体も倒せば十分に状況分かるだろうから」
「はいです」
エミリーが応じて、仲間達が全員戦闘態勢にはいった。
エミリーはそのトレードマークの巨大ハンマー。
セレストは更に数を増やしたバイコーンホーンを並べながら魔力を高めている。
アリスは仲間モンスターを全員戦闘態勢に召喚している。
イヴはニンジンをかじっている。
「いくぞ」
俺は離れた所にいる、あらかじめ拘束弾でストックしておいた影に向かって行き、わざと攻撃を食らう。
影が、俺もどきに変身した。
「なのです!」
俺が一歩下がるのとほぼ同時に、エミリーがハンマーを振って飛びついた。
同時にイヴもニンジンを口の中に入れ、頬をリスの様に膨らんだ状態で飛びかかった。
ハンマーと手刀、前衛の二人の攻撃がヒットする。
俺もどきがガードする、爆風が拡散する。
「いけえ、みんな!」
アリスの号令で、ホネホネをはじめモンスター達が一斉に飛びかかった。
エミリーとイヴとの入れ代わりで、全モンスターが俺もどきをたこ殴りにする。
空中でイヴが驚いた顔でエミリーを見ていた。
強くなったな、とつぶやいた気がした。
一方で俺もどきが総攻撃をしかけたモンスター達を払いのける。
そこにすかさずセレストのバイコーンホーン一斉射と、
「インフェルノ・ヒートフロア!」
大魔法が炸裂した。
ダンジョンの地面が広く炎に包まれ、全体の温度が上昇した。
逃げ場は一切無い、容赦無しの大魔法だ。
仲間達の波状攻撃で、俺もどきが押された。
前回エミリーとセレストの二人だったときは一進一退のターン制みたいな感じになってたが、今回は完全にこっちが押していた。
全員の攻撃が、俺もどきの体力を削る。
しかしどんな強い波も途切れる時がやってくる
今回は特にそうだ。
イヴがエミリーを見たように、ある意味仲間達が強くなった自分を見せるための披露会、即席の連携ばかりしていた。
連携そのものは、簡単に切れる。
「リペティション」
俺もどきの反撃が見えた所で、最強周回魔法を打ち込んでさくっと倒す。
俺もどきが消え、全員がめいめいにクールダウンする。
そして、マツタケが6本ドロップした。
「おー、6本ってことは――やったねリョータ」
「ああ」
アリスに頷く。
こっちの人間は五人だ。
全員が攻撃して倒した後、ドロップしたのは六人分のマツタケだった。
「これは流行るわね、パーティーの攻略が」
「その方が安全なのです、いい事づくめなのです」
「ニンジンもこういうのならいいのに」
仲間達が各々の感想を口にした。
五人パーティーで、六人分のドロップ。
テネシンが俺の提案を実現させたのを確認して、俺はホッとして、満足したのだった。
☆
数日後の、とある朝。
プルンブムのところに行く前に、セルが俺を訪ねてきた。
「なんかあったのか?」
朝一番から訪ねてくるセル。
色々と悪い想像をついしてしまって、玄関先のまま彼に聞いた。
「うむ」
「……なにがあった」
「サトウ様に一つ許可を頂きたい」
「俺の許可?」
「うむ。テネシンの免許を、一階から発行する様にしたい」
「うん?」
俺は首をかしげた。
半分肩すかしで、半分不思議がった。
「俺が許可する様な事じゃないけど……ああテネシンの機嫌損ねちゃうかもだからか。うん、そっちは俺がなんとかしておく」
「ありがたい」
「それは別にいいんだけど、一体何が起きたんだ?」
「多すぎるのだ」
「え?」
「サトウ様が動いてパーティードロップにした。その事が広まった後、テネシンに転入希望する冒険者が爆発的に増えた」
「爆発的に……どれくらいだ?」
「抽選になった場合の倍率が……現時点で十倍。何処まで伸びるのか想像もつかない」
「……」
言葉を失った。
増えるとは予想してたけど、そんなに増えたのか。
「それで全階層免許、人数を管理するって訳か」
「うむ」
ようやく状況を理解した。
そういうことなら何かしらの管理が必要だな。
今回はダンジョンの中に街を作ると言うこともあって、普段よりもはっきりとキャパシティの問題が存在する。
ちゃんとしないといけない部分だ。
そして、それをすると……セルの予想だと。
テネシンの免許が、間違いなくプラチナチケット化するだろうな。
「サトウ様が動いた時の効果をまだまだ見くびっていた、すまない」
セルは、しなくてもいい謝罪をした。