313.対人も最強
テネシンの人が更に増えた。
エリックの宣伝が上手くいって、グルメの彼が強く勧める高級食材ダンジョンって事で、ダンジョンの中の村が出来る前なのにもかかわらず、レストランを出店したい料理人たちが次々と出店のための下見に来ていた。
それだけじゃない。
レストランを開けば、酒も調味料もいる。食器その他もろもろもいる。
テネシンではまかなえない物の物流を構築するための人や、生産じゃないサービス業の人も増えた。
「あっという間に大人気だな」
「うむ」
建設を進めている一階の現場を眺めつつ、頷きあう俺とセル。
「サトウ様が動いてくれたあとから、人の出入りは倍に増えた」
「倍もか。そりゃテネシンも上機嫌になるわけだ」
「上機嫌なのか」
「ああ。口はますます悪くなったけどな。さっきも行ってきたら『邪魔くさくておちおち昼寝も出来やしねえ』とか言ってた」
「ほう」
「で、帰り際にこれをもらった」
「ほう、フカヒレ」
俺が取り出したフカヒレにセルは目を光らせた。
まるで鑑定人のように一通り見た後。
「上質なものだな。かなりの値になる」
「だろうな。ちなみに『こんな干からびたものは邪魔だからもってけ』ってさ」
「精霊にも素直になれない年頃があるのか」
「個人の資質だと思う」
男のツンデレは普通誰が得するのかって思うけど、テネシンに限って言えば俺がものすごく得してる。
ここ最近もらった超高級食材で、我が家の食卓がものすごい事になってる。
アリスが大はしゃぎして、相方のアウルムが対抗して全ての料理に金箔を入れようとしてるのはまあ余談だ。
話のタネに持ち出したフカヒレをしまって、再び建設現場を眺める。
「ここまでくれば大丈夫かな」
「うむ、サトウ様のおかげで軌道に乗った。雪玉は転がり出したらもう止まらない」
「そうだな」
テネシンの発展、繁栄がもう目に見えているようで。
俺は、ホッと胸をなで下ろした。
☆
夕日が沈んで、この日の施工が終わった頃。
俺はダンジョンの外にいるニホニウムと合流した。
「お疲れ様。今日も助かったよ」
「いいえ。私はここにいただけですから」
「アウルムとミーケがくるまでちょっと付き合ってくれるか?」
「なんでしょう?」
俺はぐい、とダンジョンの反対側を指して歩き出した。
大工が全員ダンジョンから出た後、テネシンのモンスター封鎖を解いたニホニウムがしずしずとついてきた。
ダンジョンから離れた所、人気の無い所で立ち止まり、高級食材のフォアグラを地面に置いた。
「それは?」
「エリックに付き合って俺もどきにしたヤツ。スライムが間にあわなくて、でもエリックが興奮しはじめたから緊急に俺もどきで提供した」
「そうでしたか」
「その甲斐あってエリックが全力で宣伝してくれたからな」
俺はそういいながら、ニホニウムを連れて、フォアグラから距離を取った。
アウルムとミーケの送迎がくるまではどうせニホニウム帰れないし一緒にいるのだから、屋敷の地下室で万が一を起こさないためにも、ここでハグレモノにして、☆を解除していくことにした。
距離を取って、しばらく待つ――が。
フォアグラの向こうから、武器を持った男達がぞろぞろと現われた。
どう見てもフレンドリーじゃない、いや悪意が満載だ。
「ニホニウム」
とっさに、彼女を背中に隠した。
そうしている内に相手は全員姿を見せた。
ダンジョンで培ったスキルで、目の前の敵の数を一瞬で判断する。
総勢二十人というご団体様だ。
「何者だ?」
「雇われたんだよ」
まん中に立つ、リーダーらしき男がにやにやしていった。
「雇われた?」
「恨みを買ってる事くらい、分かってるんだろう?」
「……俺に手を出して良いのか?」
「理不尽な事をすると、ってあれか? はっ」
男が鼻で笑うと、他の全員が一斉に大笑いした。
ものすごく、おかしな事を聞いたかのように。
「そんなもの、裏稼業しかしてねえ俺にはへでもねえよ。ゲンなんぞ一度も担いだことねえよ」
「……なるほどな」
よく考えたら当たり前だ。
最近は、理不尽な事を俺に阻止されると運気が落ちるという風に思われてるけど、そういうのをはなから気にもしない人種もいるって事だ。
「悪いが、痛い目をみてもらうぜ」
「痛い目ですむのか?」
「ははっ」
男は更に楽しそうな表情で言った。
「依頼主は、ものすごく苦しんだお前の首がほしいそうだ」
「なるほど、痛めつけてから殺せと」
「そういうことだ。まっ、運がなかったって思うんだな」
「……」
俺は拳を握って、身構えた。
「やめとけやめとけ、てめえは冒険者だろ?」
「?」
冒険者だからなんだっていうんだ?
「ダンジョンの冒険者は同じ敵を繰り返して倒す事になれすぎてる。そんなんじゃ俺らにはかなわねえよ」
「対人に特化してるって訳か」
俺は構えを解いて、自然体でたった。
「え?」
背後にかばってるニホニウムが驚きの声を上げた。
「ど、どうして?」
「それは――」
「おう、お前ら殺れや! 女はボーナスだ」
男の号令で、二十人の襲撃者が一気に襲いかかってきた。
ニホニウムが身じろいで、息を飲んだのが気配で分かった。
しかし、30秒後。
「う、うぅ……」
「いてぇ……いてぇよ……」
「ば、ばかな、動いてもねえのに……なんでっ」
加速弾を使った俺が、二十人の襲撃者を文字通り瞬殺した。
加速弾+速さSS。
残像、あるいは分身に見える原理を使って。
俺は、動かないで襲撃者を撃退した。




