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310.ちょろいん

 目の前にいたのは、不機嫌なイケメンだった。

 金髪に皮のジャケット、イケメンならどこか威圧感漂わせる出で立ちだ。


 そのイケメンと周りの空間を見る。

 空間はよく知っている、何回も来たことのあるタイプの空間。

 精霊の部屋だ。


 ならば目の前にいるこいつも。


「テネシン、か?」

「感謝しろ人間。お前は史上初となる、精霊から招かれた人間だ」

「そうなのか」

「そうだ。偉大なる精霊の俺たちが人間を招く必要など本来何処にもありはしないのだからな」


 そうだろうか。


「それよりも俺をここに招いたのはどうしてなんだ?」

「お前に忠告するためだ」


 そういって、テネシンがギロッ、と俺を睨んだ。


「忠告?」

「俺の中で色々やってるらしいな」

「ああ。今ダンジョンの中で街を作っている所だ」

「誰に許可を取って好き勝手やっている」

「それは……すまん」


 他に言葉がなくて、素直に謝罪した。


 確かにその通りだ。

 テネシンの中で街を作る、それは本来持ち主――というか本人? に許可を取らなきゃなんだ。

 筋が違うのはこっちだ、俺は素直に謝った。


「勝手にやってすまない、悪かった。この通りだ」

「ふん、そんな事はどうでもいいがな」

「どうでもいいんだ」


 ちょっぴり苦笑いした。

 ここまで呼びつけておいてどうでもいいのはどういう事なのか。


「だが警告はした。好き勝手にやるのを今回は認めるが、次はねえ」

「わかった、肝に銘じておく」


「……」

「……」


 会話が途切れた。

 沈黙が流れて、不思議な空気になる。


「あの――」

「俺のドロップはどうだ」

「え?」


 伺いを立てようとした瞬間、テネシンが被せ気味で言ってきた。


「ドロップって、モンスターを倒した時のドロップの事か」

「それ以外の何がある」


 またギロリ、と睨まれた。

 気難しい精霊だなあ。


「すごいけど? 例えば一階のマツタケ、ドロップ自体もそうだが、形といいにおいと言い、どれをとっても絶品だ」

「これの事か」


 テネシンは手のひらを上向きにして差し出してきた。

 そこにマツタケが乗っている、今まで見てきた中で一番立派な形のマツタケだ。


 くんくん。


「うん、においもすごくいい。最高級のマツタケだ」

「……に、人間はこんなのがいいのか?」

「うん? まあそうだけど」

「ふん! こんなゴミが欲しいなんて人間はかわってるな。こんなのいらないからお前が捨てておけ」


 テネシンはそう言って、俺にマツタケを押しつけた。

 今もらっても困る……後でエミリーに調理してもらうか。


「……」

「……」


 また沈黙が流れる。


「そろそろ――」

「それの次に良かったのはなんだ」


 またまた被せ気味で言ってきたテネシン。


「え? ああ……キャビアとかかな。初めて食べたけど、アレはすごく美味――」

「これの事か」


 さっきと同じように手の平を上向きにして差し出してきた。

 皿に盛った山のようなキャビアがあった。


「ああ、そうだ」

「ふん、こんな魚の卵をありがたがるとは、人間も底が知れる」

「はあ……」

「こんなものいらんから、お前が捨てておけ」


 テネシンはそう言って、マツタケ同様俺に押しつけた。


「……」

「……」


 三度、沈黙。


「いったん帰る――」

「他にいいと思ったものはなんだ」

「……あんたさ」


 三回も被せられれば誰でもおかしいと気づく。


 俺が帰ろうと切り出した瞬間に、テネシンが被せてきて話をむりやり引き延ばす。

 それで出したものをけなすが、俺に押しつける行為。


 そして、☆。

 ☆が完全に消えた後、ダンジョンに閉じ込められるという現象。


 それらを全てあわせた結果、一つの可能性が浮かび上がってきた。


「寂しいのか?」

「ば――」


 テネシンの顔は一瞬で真っ赤になった。

 汗をだらだら垂らして、必死に否定をはじめた。


「寂しいだと! 馬鹿な事を、俺を誰だと思っている。この世界を支える精霊の一人にして数少ない地上ダンジョンを司るこのテネシン様が寂しいとか邪推にも程がある!これだから人間は勝手な物差しで精霊を測ろうとするとか馬鹿でアホで間抜けで――」


 うわーお。


 なんというか、メチャクチャわかりやすかった。

 早口でまくし立てるテネシン、ここまでわかりやすいと指摘するのがむしろ可哀想になってくる。


「分かった。変な事をいった俺が悪かった」

「ふ、ふん。分かればいい」

「……なあ、一つ頼みたい事があるんだけど、いいか?」

「頼み? 人間ごときが精霊に頼みごとなど無礼にも程がある。が、俺は寛大だから聞くだけ聞いてやろう」


 お、おう。


 苦笑いしたくなるのを我慢して、俺はテネシンに「おねがい」した。


     ☆


「おおっ! サトウ様」


 テネシンダンジョンの外に戻ってくると、心配げなセルが俺を出迎えた。


「大丈夫だったのか」

「大丈夫だ、ちょっとテネシンに呼ばれただけだ」

「なんと」

「「「おおおおお!」」」


 周りにいる大工達から驚嘆の声が上がった。


「精霊に招かれた、という訳か」


 俺が無事に戻ってきたことで、急速に落ち着くセル。

 彼はいつもの落ち着いた口調で聞いてきた。


「ああ、で、約束を取り付けてきた」

「約束?」

「フロアマスター、年一で交代させてくれるらしい」

「なんと! さすがサトウ様だ。どうやって精霊を説き伏せたのだ?」

「毎日高級食材をせびりに行くのを交換条件にした」

「……は?」


 きょとんとするセル、さすがに意味が分からないって顔だ。


 まあ、俺もセルの立場なら。

 テネシンを実際にみてなかったらそうなってただろうな。

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