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309.精霊の召喚

「リペティション」


 テネシンの外、入り口の近くでマツタケからハグレモノの俺もどきを孵して、間髪いれずリペティションで倒した。


「ニホニウム、頼む」

「はい」


 足元にミーケをしがみつかせたニホニウムがしずしずと頷いた。


 彼女は何かを念じるように一度目を閉じた。

 ほとんど間を開けずに、離れた所にダンジョンマスターが出現した。


 俺もどきじゃなくて、ニホニウムに元からいたあの幽霊の様なダンジョンマスターだ。


「これでもう大丈夫です、中のモンスターが消えているはずです」

「ありがとう。こいつ襲ってくるとかは……」

「大丈夫です、命じました。例えば――」


 ニホニウムがダンジョンマスターに向かってすぅ、と手をかざした。

 幽霊の様な、あの不気味なダンジョンマスターが、その場で腕立て伏せを始めた。


 なんともシュールな光景で。


「「「おおおおお!!」」」


 それをみて、複数の歓声があがった。

 俺とニホニウムから少し離れた所で待機していた、大工達の歓声だ。

 全員が、ニホニウムのコントロールに感嘆している。


「セル」


 下準備はすませた、と、今度は反対側にいるセルに声をかけた。

 彼は静かにうなずき、大工達に向かって行った。


 静かな号令一つ、大工が次々と塔の中に入っていった。


「あれ、精霊様なんだろ?」

「なんでもニホニウムの精霊様みたいだぜ」

「精霊様がなんで人間に協力してるんだ?」

「そりゃあおめ、リョータ・サトウがどうにかしてくれたんだろ」

「へええええ」


 様々な声とともに、大工達が道具やら山積みの建材やらを次々とテネシンに運び込んでいく。

 セルの交渉が一段落して、いよいよダンジョン中の街作りがスタートしたのだ。


「ありがとうニホニウム。関係のない事にまで協力をさせて」


 ニホニウムはゆっくりと首を振った。


「気にしないで下さい」

「そうか、ありがとう」


 ニホニウムの事も早く解決してやらなきゃな、なんて思っていると。

 セルがこっちに戻ってきた。


「感謝するサトウ様……それにニホニウム様」


 セルは俺とニホニウムにそれぞれ言った。

 心なしか俺にした方がよりかしこまってる気がする。


「そういえば、建築中はニホニウムがモンスターを止めるけど、実際の運営が始まったらどうするんだ? モンスターに『村』を襲われないか?」

「それなら問題はない。シクロの休憩所同様、『始まりの木』を使う」

「始まりの木?」


 初めて聞く言葉だな。


「始まりの木とは、一説にはこの世界が生まれたときに初めて生まれたものだ。そして唯一、ダンジョン以外でうまれるものでもある」

「へえ?」

「神話じみた説だが、現実的に始まりの木はモンスターにとって『外』を意味しているようだ。触れてしまえば、ダンジョンから出たのと同じように消滅してしまう」

「なるほど、それで街を作ればモンスターにとって結界みたいになるんだな」


 セルははっきりと頷いた。


 しかしそういうものがあるのか。

 始まりの木、ねえ……。


 俺はテネシンの中に向かって歩き出した。

 始まりの木で作られていくダンジョンの中の村。

 どういう風になるのか少し興味が湧いた。


 セルが一緒についてきて、話が続く。


「『村長』の人選も進んでいる」

「大丈夫なのか? 無理強いだけはーー」

「サトウ様が」


 セルは食い気味で俺の言葉を遮りつつ、真横からじっと目を見つめながら、言った。


「貫こうとした理想を、余が台無しにしてなんとする」

「……わるい」

「それに、サトウ様の銃口がこっちに向けられてはかなわぬ」


 今度はおどけて言った。

 彼がこういう冗談を口にするのは珍しいのかも知れない。


「話をもどそう。『村長』、フロアマスターという名前にしようと思うが、それは現在審査を進めている。報酬は税金に応分、その金でできることは全て応じる、届ける。大筋はこの二つの条件で進めている」

「応分って、パーセンテージの事だよな。どれくらいになる」

「年一億から三億ピロ程度を想定している」

「なるほど」


 自由はないが、年収三億を死ぬまで保証か。

 そしてその三億を自由に使えて、ほしいものは全部宅配。

 うん、妥当かな。


 その条件なら喜んで食いつく、向こうの世界だが、そういう知りあいがざっと三人いる。

 人柱よりよっぽど健全な条件だ。


 テネシンに関して色々セルと話をしている内に、テネシンの一階に足を踏み入れた。

 モンスターがいないダンジョンの中で、大工達がせわしなく動き続けている。


「にしても不思議な光景だ、まさかダンジョンの中に村を作る事になるなんて」

「人類にとって偉大なる一歩だ。それもこれもサトウ様のおかげといえよう」


 セルの持ち上げにはだいぶ慣れてきたから、俺はにこっと微笑むだけで何もいわなかった。


 それよりも、テネシンが無事色々すみそうで良かった。

 指揮を執ってるのがセルなら、理不尽を冒険者やフロアマスターとかに強いることにはならないだろう。


 これにて一件落着――。


「サトウ様!」


 急にセルが切羽詰まった声を上げた。

 何事かと思えば、俺の体が光り出した。


 セルだけではない、周りの大工達もざわざわし出した。


 光は頭のてっぺんから発して、俺の全身を包み込む。


 痛みも苦しみもない、不思議な光。


 それが俺を完全に包み込むと、セルも大工達の声も次第に遠ざかる。

 失った視界が、光の収まりと共に徐々に戻ってくる。


「人間よ。初めて招かれた人間よ」


 俺の目の前に、一人の男が現われた。

 いや、男のところに召喚された――と、俺は瞬時に理解した。


 そして、相手の事もわかった。


「テネシン……」

「そうだ」


 俺を呼びつけ、目の前にいる男はこのダンジョンの精霊。

 テネシンだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだ、精霊の側から人間を召還することもできるなら、あの寂しがりのプルンブムは、これまで何やってたんだ?
[気になる点] 最後急に一人称が私になっとる
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