305.エミリー、セレストVSリョータもどき
テネシン、一階。
影にわざと攻撃を喰らって、モンスターを俺もどきに変えた。
見た目は俺で、能力は今の俺よりも高い、俺の才能限界。
そんな俺もどきが出現して、ゆっくり向かってくるのと対峙する。
「じゃあ、頼むよ」
「はいなのです!」
「ええ、頑張ってみるわ」
応じたのは、エミリーとセレスト。
仲間の中で特に前衛と後衛にそれぞれ特化エキスパートに、テネシン一階が俺もどきになった時の攻略を頼んだ。
「抜ける、を最優先で頼む」
頷く二人、前衛後衛でフォーメーションを組んで進み出した。
俺は少し離れた所で、手は出さないが、いつでも二人を助け出せる程度の位置にした。
ちなみにテネシンダンジョン、塔の構造は教えている。
これもシミュレーションだ。
通常の冒険者がある程度の知識を持って、一階をスルーして二階に上がる場合、を想定したパターン。
そのパターンで、二人が抜けられるかどうかの実験。
「先手必勝――なのです!」
エミリーはふわっとジャンプして、頭上でハンマーをぐるぐるぶん回して俺もどきに叩きつけた。
ドーン!グラグラグラ――
ズボンの裾がピリピリするほどの衝撃波が押し寄せてきた。
エミリーのハンマーを俺もどきが片手で受け止めた。
俺もどきの足元が蜘蛛の巣状にひび割れた。
無傷だった。
威力が無いわけじゃない、それ以上に俺もどきが強いということ。
「行くわよエミリー!」
「はいなのです!」
エミリーは更にググッ! と力を入れて、その反動でふわりと真上に飛び上がった。
2メートル超の巨大ハンマーを持ったままのふんわりとした跳躍は美しくすら見えた。
俺もどきが見あげる、拳銃を構えて銃口を上に向ける。
「インフェルノ【コンティニティ】!」
すかさず魔法を詠唱したセレスト。
俺もどきの足元から炎が吹き上がり、包み込んだ。
業火の波が次から次へと俺もどきに押し寄せる。
通常なら黒焦げどころか骨すら残らないレベルの炎を、俺もどきは意にも介さなかった。
通常弾を撃ってセレストを牽制したかと思えば、自分もザッ、と飛び上がり、エミリーの足首を掴むやいなや、セレストに向かってぶん投げた。
そして銃を構える。
俺もどきなだけあって、狙いはすぐに分かった。
エミリーをセレストにぶつけて、二人がもつれ合って動きをとめてる間にまとめて攻撃する算段だ。
それをエミリーはさせなかった。
「まだまだなのです!」
すっ飛ばされる途中でエミリーはハンマーを地面に投げつけた。
突き刺さったハンマーで勢いを殺すやいなや、真横にまたもふわっと飛んだ。
それだけではなく突き刺さったハンマーを抜き放っての跳躍。超高度なテクニックだ。
「小さいの行くわ!」
「はいなのです!」
セレストはバイコーンホーンを取り出した。
初級魔法のファイヤーボールを打ち出す魔導具、純潔を汚すもの・バイコーンがドロップするバイコーンホーン。
セレストはそれを「たくさん」取り出した。
取りだしたものを空中に並べて、ファイヤーボールを発射。
マシンガン、いやガトリングガンのごとき威力の炎の玉を連射させる。
もはや魔導具じゃなく、兵器の類だと思った。
いつの間に揃えたんだ……いやその発想はなかった。
魔法を無限に使える魔導具、向こうの世界から来たおれは「一つ」で使って、それで使えるかどうかの発想をするが、セレストはそうじゃなくて数十個というレベルで並べて使った。
その結果、視界をすべて遮るほどの弾幕が俺もどきを襲う。
俺もどきは炎の玉を次々と弾き、それが乱反射したが。
「戻れ……なのです!」
エミリーが三度ふわりと跳躍、乱反射するファイヤーボールを俺もどきに向かって打ち返した。
まるで壁、あるいは結界。
セレストが撃ったもの、エミリーが打ち返したもの。
二人のコンビネーションで、無数の炎の玉が俺もどきに集中砲火。
ダンジョンマスターでも蜂の巣で黒焦げになるほどの火力――なのだが。
「きゃっ!」
俺もどきが弾幕を突っ切ってきた。
黒煙をまとい、セレストに突進。
セレストに拳を振るった、パリーン、というなにかが割れた音と共にセレストが吹っ飛んだ。
追撃する俺もどき。
地面を蹴って加速し、半ば飛翔するように空を飛ぶ。
その勢いでセレストに迫る。
まずい、ここまでか。
俺は手をかざし、リペティションで介入しようとした――が。
「結局この手しかないなんてね」
「さすがヨーダさんなのです」
介入の手が止まった、二人の目がまったく諦めてない事に気づいたからだ。
セレストはもとより、エミリーの目までもがはっきりとした「狙い」があるように見える。
手を止めて見守る。
突進する俺もどきにエミリーが迫り、後ろからハンマーを追い打ち気味のフルスイング。
前進中に後ろから殴られたら俺も同じことをしただろう、って感じで、俺もどきはエミリーのハンマーを蹴って更に加速した。
肉薄したセレストののど元を掴んで、そのまま引きずるように突進。
「ーーっ!」
俺もどきでも、顔色が変わったのが分かった。
セレストがすっ飛んでいった方向、そしてエミリーのハンマーを蹴って加速した方向。
そこは、テネシン二階に続く階段だった。
このままの勢いなら二階に上がってしまう、セレストを押して二階へと上がってしまう。
二階に上がる。
セレストにはなんともない行為だが、モンスターである俺もどきはそれだけで即死する。
空中に飛んでいる俺はどうしただろう――一つしかない。
クズ弾を撃って、それでとまることだ。
俺もどきはその通りにした。弾を込めなおしてクズ弾を撃った――。
「待ってたわ」
セレストはぼそっといって、追いついた俺もどきの銃口に指を突っ込んだ。
その瞬間体が変化した。アブソリュートロックの無敵モードだ。
力の受けやすさで言えば、まずはクズ弾が何も受け付けず、つぎにアブソリュートロックの無敵モードがほとんどを弾く。
俺もどきは能力の高いだけの人間ベースだから、空中にいる時は力のベクトルをもろに受ける。
結果、無敵モードに銃口を突っ込まれた銃はグルンと回って、俺もどきが半周して、ピッチングマシンのように更に加速して投げ出された。
今度こそ何も出来ずに、二階に飛ばされて、俺もどきは即座に消滅した。
エミリーとセレスト、二人の技あり勝利だ。
「しんどかったわ……」
「ヨーダさん強すぎなのです……」
紛れもなく勝利した二人は、精根尽き果てた感じで地面にへたり込んだ。
「ありがとう、すごいぞ二人とも」
俺は仲間の二人をねぎらいつつ。
この二人でもこうしなきゃいけない程のモンスターなら、通常の冒険者は突破すらできないだろうと確信した。




