302.ラストアタック
「リペティション」
テネシンの外、まだ街が出来ていない荒野。
ネプチューンと、そのネプチューンをハラハラとした様子で見守るリルとラン。
三人の前で、新たに作った俺もどきのハグレモノをリペティションで瞬殺した。
「どうだ」
「だめだね、☆が11のまま。リルとランは?」
「ダメ」
「私も同じだよ」
「だよね」
☆を消すための再チャレンジ。
昨日、俺が俺もどきのハグレモノを倒した事で☆を全部消したから、それをネプチューンに話して、今日は朝から彼のを消す挑戦をしていた。
「これってやっぱり、最悪の可能性ってことか」
実はいくつか考えられる可能性があって、それを順にやっていたのだ。
普通の影のハグレモノを目の前で倒す。
ネプチューンもどきを彼の前で倒す。
俺もどきを新しく作って彼の前で倒す。
そのどれも、ネプチューンたちの☆は消えなかった。
厳密には本人達のもどきを俺が一回ずつ倒しているから、昨日のリセットの12から1へっての11だ。
「キミのは?」
「消えてる」
俺もどきで試すために、俺は再びテネシンに入って、新しい俺もどきを作った。
そうしてまたついた12の☆、カウントダウンは、俺もどきを倒した事でまた消えた。
ネプチューンと向き合う、互いに小さく頷く。
ダンジョンの経験値が高い者同士、もうはっきりと条件が分かってしまった。
「つまり、自分の偽物を自分で倒すしかない、って事だね」
「そういうことだな」
「それは困るね」
ネプチューンはあはは、と楽しげに笑った。
「よく笑えるな」
「だって、もう笑うしかない状況じゃない?」
「……まあな」
気持ちはわからないでもない。
そもそも、ネプチューンが俺に助けを求めてきたのは、テネシンのモンスターがネプチューンもどきになって、そいつが自分の才能値上限まで行ってる強さだから手に負えない、というのが原因だ。
なのに、完全解決するにはその自分もどきを倒さないといけない。
「綺麗に振り出しに戻ってきたか」
「ううん、そうでもないよ」
「なに?」
どういうことなのかとネプチューンを見る。
彼はいつもの様にニコニコしていた。
「キミじゃなかったら自分の偽物、そのハグレモノを倒せばいいなんて分からなかった。ハグレモノにする発想もないし、そもそもハグレモノにするために倒すまではいけないからね」
「なるほど」
「だからやっぱりキミのおかげ。キミに救いを求めて正解だったよ。キミじゃなかったら何も解決出来てなかった」
「それはそうとして」
話題をやや強引に引き戻す。
「お前のもどきを倒すぞ」
「うーん、どうしたものかな。倒せるのならそもそもキミに助けを求めてないよ」
「俺がサポートする……チャンスは多分一瞬だけだから、逃すなよ」
「わかった」
ネプチューンは迷いなく即答した。
この辺はやっぱり実力者だ。
ダンジョンに常にいるから、いざって時に一瞬でも迷いが生じたらそれが致命傷になりうることを知っている。
ネプチューンはいつも即決即断。いわゆる「デモデモダッテ」がまったく無い。
俺は黒玉スイカを離れた地面に設置した。
マツタケから変わった、リセットのために変えた、ネプチューンもどきのドロップ品。
ネプチューン達は離れた、俺も離れた。
距離を取って、ネプチューンもどきのハグレモノが孵るのを待つ。
しばらくして、黒玉スイカがポン、とハグレモノに――
「いくぞ!」
孵った瞬間、俺は自分に加速弾を撃ち込んだ。
ハグレモノが完全に姿を現わすよりも早く加速する世界に入って、一瞬で踏み込んだ。
二丁拳銃を突きつける、前もって当たりをつけた所に、これまた大量に用意してきたクズ弾を大量に撃ち込む。
ネプチューンもどきは強い。
最強クラスの冒険者、ネプチューン一家のボス、精霊付き。
その才能限界を実現したネプチューンもどきはダンジョンマスターさえを凌駕する最強クラスのモンスターだ。
だから、念には念を入れた。
ネプチューンもどきの全身にびっしりと覆うようにクズ弾を撃った。
何があっても直進するクズ弾をびっしり覆うように撃ち込む。
傍から見れば、鉛のプレートアーマーを着込んでいるような見た目。
そのクズ弾の鎧に拘束されて、まったく動けないネプチューンもどき。
そして、クズ弾の鎧に一箇所だけ穴を開けた。
体の中央、ほぼ心臓に当る部分。
そこだけ、ぽっかりと穴を開けた。
ネプチューンを見た。
「今だ!」とは言わなかった。
加速中だから届かないし、そもそもいう必要のない男だ。
彼は既に攻撃態勢に入っていた。
リルとランが背後で歌い始め、ネプチューンは二枚の翼を背負い、突進をはじめる。
俺は苦笑いした。
突進してくる――普通だとメチャクチャ早い踏み込みだが、加速の俺にはゆっくりに見えるネプチューン。
だから、その口の動きまではっきりと見えた
――ありがとう。
「余計だよ」
俺は苦笑いしながら、ネプチューンが一撃でもどきを貫くのを最後まで見守った。