298.カウントダウン開始
夜の屋敷、サロンの中。
深夜に近い時間帯に訪ねて来たネプチューン。
腕まくりして、彼に見せた。
俺の腕には「☆」のアザが11個。
ネプチューンと同じ、MAXが12の☆のアザだ。
それが11個しかないのは、俺もどきを一体倒してきたから。
「すごいね、いや本当」
ネプチューンは珍しく、真面目な顔で感嘆した。
今までの彼は、例え助けを求めてきてもどこか余裕っぽいものがあり、常に飄々としていた。
それが今は、素直に感心している様子だ。
「そうか?」
「君が僕の偽物を倒すのは驚きに値しないけど、自分自身の偽物を倒したのはすごいよ。強かったんでしょ?」
「ああ、強かった。タッチの差だった」
これは本当だ。
もし向こうに先に加速弾を入れられたらやられてたのは俺だろうな。
「あはは、そりゃそうだよ。超高レベルの戦いなんていつも紙一重だから」
「なるほどな」
わからないでも無い。
「それと、許可は取ってるけど、リルとランも一回ずつ倒した」
「うん、それは言い含めてあるから気にしないで。それよりも何か気づいた事は?」
「あの二人も強いな」
「うん、それがあるからこそ才能だって思ったんだ?」
「どういうことだ?」
ネプチューンはニコッと微笑んだ。
「偽物と僕の戦力差が100対90だとするとね」
まあそれくらいか。
「リルとランだと100対1くらいなんだよ」
「なんでそんなに」
「だから才能。二人とも直接戦闘を伸ばすのを捨てたからね。君だって、冒険者になってなかったら違う能力が伸びてたでしょ」
「……そうだな」
俺は苦笑いした。
冒険者になってなかったら――いや。
異世界に来れなかったら。
多分いまでも社畜で、デスマーチの毎日で。
食事の効率摂取と目の下のクマが伸びてたことだろう。
……もっと簡単な話か。
パワー極振りと、物理メインだけど魔法もちょっと使いたいよね。
そんな感じで育成方針が違うだけの話だ。
「となると、あそこにいるのは」
「うん、直接戦闘に特化したら――だと思う。モンスターだからね」
「なるほどな」
「明日も行ってくれるのかい?」
「ああ、もう二、三階上に登ってみる。転送で行くから、下の階はすっ飛ばすから☆を減らす事はない」
「あはは、やっぱりキミに助けを求めて良かった。すっごい安心感。今までキミに助けられてきた人達はみんなこんな気持ちだったんだろうね」
「どうかな」
それは俺には分からない。
ゴーン――と、屋敷の外から鐘の音が聞こえてきた。
日付が変わったことを示す鐘の音。
「さて、もう遅いし僕はもう帰るよ」
「何かあったらすぐに連絡する」
「うん、何か僕に出来る事が見つかった時も、ね」
「ああ、遠慮無く力を借りる」
「あはは、もう僕のボスなんだから、やれ、はい、でいいよそこは」
「うちのファミリーはそういうのじゃないから」
「みたいだね」
とりとめのないやりとりを交わし、ネプチューンは屋敷を後にしようとする。
コンコン。
彼が出る前に、ドアがノックされた。
ドアが開いて、エミリーが入って――くるなり後ろから押しのけられた。
「エミリー!?」
「あわわ!」
エミリーを押しのけて現われたのはリルとラン。
ネプチューンのコンビ――いやトリオの二人だ。
「大丈夫かエミリー」
「大変だよネーくん!」
「どうしたんだいリル、ラン」
「これをみなさいよ」
リルがそう言って、袖をまくって、腕をネプチューンに見せた。
俺とネプチューンがあるのと同じように、彼女の腕にも☆のアザがあった。
知っているが、実際に目撃すると事態の重大さをより思い知らされる。
が、重大なのはここからだった。
「減ってる?」
「そうよ、減ってるのよ」
「私のも減ってるんだ、ほら」
ランも同じように腕を見せた。
「どういう事なんだ……むっ」
「どうしたネプチューン」
「僕のも減ってる」
「なに!?」
俺はネプチューンの腕を見た。
彼の言うとおり、☆のあざは減っていた。
「倒した回数よりも……一つ減ってる?」
「うん、リルとランも同じ」
「俺は――減ってない」
慌てて自分の腕を見たが、こっちは減ってなかった。
俺とネプチューン、二人は同時に考え込んだ。
やがて、ほぼ同じタイミングで顔を上げた。
「減ったのは、日付が変わったから?」
「減りだしたのは、日にちが経ったから?」
答え合わせ。
俺もネプチューンも、膨大な経験値から、現状を素早く分析した。
そして互いに頷き合い、相手の推測がきっと正しいと認める。
「問題は今までの分で1減るのか」
「それともここからスタートで、毎日減っていくようになるのか、だな」
またしても頷きあう俺たち。
答えが出たのは24時間後、次の日の鐘が鳴った後。
ネプチューン達三人のアザがまた自動で一つ減った。
制御出来ないカウントダウンが始まって、俺はぞっとした。




