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296.Hな女達

 屋敷に戻ってきた頃にはもう夜になっていた。


「お帰りなのです」


 玄関先までパタパタとやってきたエミリー。


「ただいま。悪い、遅くなってしまった」


 時刻は夕日が落ちてからしばらくたつ。

 夕飯の時間も過ぎて、わいわいとゴールデンタイムの番組を楽しむ時間帯だ。


「ご飯はどうするですか?」

「ちょっと休んでから」


 そう言って、ふう、と肺にたまった空気を吐き出す。

 エミリーが維持している、夜でも温かくて明るい屋敷に戻ってきただけで、疲れが癒やされていく気分だ。


「ヨーダさん」

「うん? ――え」


 驚いた、エミリーが何の前触れもなく俺に抱きついてきた。

 立っていた俺は自然とその場で腰を下ろして、エミリーに頭を抱っこされる姿勢になった。


「お疲れ様なのです」

「そんなでもないけどな」

「新しいダンジョンは大変なのです?」

「うーん、そうだな。大変かも。何しろ一階のモンスターがネプチューンの格好をして、ネプチューンよりも強い訳だから」

「それは大変なのです」


 エミリーはそう言って、俺の後ろ頭をやさしくなで回した。


 落ち着いた。

 落ち着いて、疲れが完全に吹っ飛んだ。


「ヨーダさん、あまり無茶をしないで欲しいです」

「……へんな顔をしてたか?」

「ヨーダさんは優しいです」


 エミリーは直接は答えなかったが、そうかもしれないと俺は思った。

 ネプチューンは困っている、俺はそれを助けたい。


 そのためにはテネシンを攻略する必要があるが、そのテネシンが一筋縄じゃ行かない。

 それでもやらなきゃ――と帰り道の馬車の中で思っていた所だ。


「出会った時のヨーダさんと同じ顔なのです」

「それは心配かけた」

「ヨーダさんなら大丈夫です、でも無茶はしないで欲しいのです」

「わかった、肝に銘じておく」

「はいです」


 しばらくの間そのポーズのままでいたが、エミリーはそっと俺の頭を解放してくれた。

 距離を取った後のエミリーは、いつもの彼女の穏やかな笑顔になっていた。


     ☆


 次の日、プルンブムの所に行ってしばらく世間話をしてから、転送部屋経由でテネシンの一階にやってきた。


 気配の数は多い、ネプチューンもどきがダンジョン内にうようよいる。

 リペティションで倒せるが、☆の事がある以上むやみやたらに倒す訳にも行かない。


 まずは上の階へ、四階を目指して上がろう。


 モンスターの気配を感じ取りつつ、それから逃げながら塔の中を進んで行く。

 途中でネプチューンもどきと一体出会ったが、強化弾マシマシの拘束弾を撃って、その間に逃げた。


 ちょっと焦った。

 最高まで強化した拘束弾でも三秒くらいしか拘束出来なかった。

 ネプチューンの限界恐るべしだな。


 そうして辿り着いた階段を登り切って、テネシン二階。


 早速モンスターが現われた。

 緑の髪の可愛らしい少女。


 ネプチューンの仲間、ラン・ハイドロジェンの見た目をしたモンスターだ。


 ランもどきは消えた(、、、)


「速いっ!」


 とっさに床を転がって、真横に避ける。

 ランもどきが振り下ろしたつるはしが床をたたき割っていた。


「自分で戦う時はそれが武器か」


 パワーも、スピードも。

 ランもどきは想定以上のもので襲いかかってきた。

 つるはしを立てに振り下ろして頭をたたき割ろうとする。


 シンプルな動きは、高いパワーとスピードに支えられて脅威の一言だ。


 基本スペックならダンジョンマスター級。


「だが!」


 踏み込みに合わせて踏み込んで、逆に距離を詰めてつるはしの奥に潜り込んだ。

 腕を上げて、つるはしの柄をガードする。


「エミリーなら柄だけで叩き潰せる」


 同じような武器を使う仲間の事を思い出しつつ、更にもう一歩踏み込んで銃を突きつけ、成長弾を連射。

 一撃必殺級にまで育った成長弾だが、ランもどきの防御力もさすがのもの。


 まるでくい打ち機のように、何発も同じ所に撃ってようやく貫通した。


 それだけで倒れなかったランもどき。

 俺を蹴りで押しのけて、つるはしを横一文字に振り抜く。

 尖った先端をスウェーだけで避けて、更にくっついて銃弾を連射。


 合計十発叩き込んだ所で、ようやくランもどきが倒れた。


 ポン、と音を立ててドロップする。

 出てきたのは。


「黒いスイカか、こりゃまた珍しいものを」


 ランもどきがドロップしたのは、表面がつるつるして、黒光りするまん丸のスイカだった。


 スイカだが、ものすごい高級品で、一玉平気で一万円もする様な代物だ。

 こっちの世界でははじめて見たが、多分同じくらいの値段で。


「一階マツタケだし、テネシンは高級食材専門か?」


 そのスイカを持って、まず一階に降りた。


 転送ゲートを使って屋敷に戻って、スイカをおいてテネシン二階に戻る。


 転送部屋の条件は行った事のある階へいけるものだが、戻る時は転送した階からじゃないと戻れない。

 それはつまり、新しく行った階層からはすぐに戻れないと言う意味でもある。


 ランもどきは手ごわかった。

 いざって時のためにも、こうして転送ゲートを上へ上へと、挑戦する階からすぐに降りれば逃げられる状況にしておきたい。


 ちなみに黒玉スイカは後でエルザとイーナの所に持ち込むために持ち帰った。


 転送ゲートを使ってテネシン二階へ。

 ランもどきもやたら倒して☆減らしたらいけないから、避けて避けて、次の階に上がった。


 テネシン三階、出てきたのピンク色の長い髪の美女だった。

 ボンテージ衣装をまとって、ムチを持っている。


 まるで女王様だ。


 リル・ハイドロジェン。

 ランと同じハイドロジェンダンジョンの精霊に認められた精霊付き。

 ネプチューンの味方だ。



「くっ!」


 出遅れてしまった。

 リルの手が一瞬ぶれたと思ったら、次の瞬間首に何かが巻き付いてきた。

 とっさに腕を割り込ませた。


 巻き付いて来たのはムチ。

 リルもどきが振るった鞭が生き物の様にしなって、俺の首に巻き付いてきた。

 とっさに入れた腕のせいでどうにか首が絞まらずにすんだ。


 リルもどきが手を引く、俺の体が引っ張られていった。


「パワーもあるのか!」


 叫びつつ、ムチに向かって成長弾を撃つ。

 ムチそのものはたいした強度じゃなくて、一発で撃ち抜いてちぎれさせた。

 空中で半回転して着地、しかし目の前に更にムチが飛んで来た。


 そのままガバッと四つん這いで避けて、すかさず地面を蹴って距離を取る。


 リルもどきが持ってるムチはいつの間にか再生していた。


 弾を変更、火炎弾を込める。

 追尾弾を撃ってリルもどきのムチを当てる。


 ムチは撃ち抜かれてちぎれたが、すぐにまた再生した。


「なるほどそういう武器か」


 しなる鞭が更に飛んでくる、今度はムチとリルもどきの両方を撃つ。

 リルもどきに撃ったのは弾かれて、ムチはまたちぎれた。


 ムチの強度はたいした事はない。

 そして。


「再生してる間は動けないのか」


 三回もやれば傾向が見えてくる。


 ムチを再生してる間はリルはほとんど動けない棒立ちだ。


 リルもどきのパワーもテクニックもたいしたものだが、武器がついていってない。


 俺はムチを狙った。

 再生しきる直前で撃ってちぎれさせた。


 ムチをずっとちぎれた状態にしておくと、リルもどきはずっと棒立ちのままになった。

 そうやって足止めしながら、リル本体を成長弾で撃ち抜く。


 ランもどきと同じようにタフだったが、棒立ちだから楽に倒せた。

 そうしてドロップしたのは。


「……キャビアか」


 テネシン、やっぱり高級食材ダンジョンっぽいな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何で異世界なのに日本基準で高級食材なんてくくりになってるんだよ・・・
[気になる点] 本当にもうポケットの無限収納の設定忘れてるんだね スイカ持ち帰る意味が全くわからないよ
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