295.カウントダウン
ダンジョンの外へ出て、待っていたネプチューンと合流した。
馬車に乗り込んで、ひとまず予定通りシクロに戻る。
その道中で、ネプチューンが聞いてきた。
「どうだった?」
「強かった」
「うん、僕じゃ全然歯が立たなかったんだ」
「お前よりも強かった。なんだあれは?」
「元はそうじゃなかったんだ」
俺は小さく頷いた。
ダンジョンで、人間の見た目をしたモンスター。
それで考えられるパターンをいくつも想像したが、共通している点は一つ。
全部、元が普通のモンスターの見た目をしているということ。
「影系、スライム系、ガス系。どれだ?」
「影だね」
ネプチューンは即答した。
なんで分かるの? という質問も答えも必要無い。
俺もネプチューンもダンジョンの『経験値』が高い。
ネプチューンは長年冒険者としてやってきた分、俺は元の世界にいた時のゲームの知識が加わって。
二人とも、ダンジョンに詳しいから、驚いたり不思議に思ったりすることはない。
「最初に入った時全部が影みたいなモンスターだったんだ。それを倒していく内に攻撃を一発もらってしまってね。それであの有様さ」
「お前より強いのは?」
「仮説だがいいかい?」
俺は頷く。
「あれは僕の限界だ」
「限界?」
「才能の限界というべきなのかな。ある程度まで行ったら自分の力がどのあたりに落ち着くか分かってくるよね」
「ああ、なんとなくな。たまに例外もあるけど」
「うん、例外はたまにあるね。で、あれは僕が思う、僕の限界の強さ。だからもちろん今の僕よりも強い」
「なるほどな……自分じゃどうしようもないって言うのがわかった気がする」
ネプチューンは相変わらずニコニコしている。
「ちなみに二階と三階はそれぞれリルとランになってる。そっちは大して強くない」
「そうなのか?」
「二人とも僕のバックアップに特化しているからね。僕がいないとそんなもんさ」
「……」
一瞬、レイアの事を思い出した。
人間だったが、好きな様に改造されたレイアの事を。
「……変なことでもしたか?」
「君が思ってる様な事はしてないよ」
「何をした」
自分の目が細められたのがわかった。
俺が思ってるような事じゃない……やっぱり何かしたのか。
「キスとセックス」
「…………は?」
今度はキョトンとなった。
なに言ってるんだこいつは。
「だからキスとセ――」
「どわああ! だからなに言ってるんだお前は?」
「ランとリルと僕は運命で結ばれていてね、その愛の形があれさ」
「ああもう分かった」
頭痛がしてきそうになって、手をかざしてネプチューンの説明を止めた。
確かに、俺が思ってるような事じゃなかった。
そもそも……こいつらH2Oだったな。
「分かった。四階以上は?」
「手をつけてないよ」
「分かった」
「それと気をつけてね、影に姿を取られると――あら」
「どうした」
「見て」
ネプチューンが袖をまくった。
彼の腕の内側に「☆」のマークが並んでいる。
数えると、全部で8個だった。
「それがどうした」
「ついさっきまで12個あったんだ。ちなみにずっと12個」
「4つ消えたのか……俺、モンスターを4体倒した」
「なるほどね」
にこりと微笑むネプチューン、俺も頷いた。
これもやっぱり、驚いたり不思議に思ったりする必要はなかった。
「そういうことだろうね」
「ああ、俺もそう思う」
あえて口に出すまでもなく、意見が一致した。
俺が4体倒したから、「☆」が4つも減ったんだ。
「0になると確実にまずいね」
「まずいな」
「逆を言えば――」
「――1までは多分大丈夫」
頷きあう俺たち。
「うん、やっぱり君にお願いして良かった。僕だけじゃこの事も分からなかったからね」
「後は任せろ。残り2つまでは減らす。減り方がおかしかったらすぐに連絡しろ」
「あはは、1つにしないのはさすがだね」
「お前だってそうしただろ」
「どうかな。うん、やっぱり君はすごい人だよ」
「一応聞いておく。リルとランの二人も12個だな」
「うん。2つになるまでは抑えておく」
「ああ」
「じゃあ……頼んだよ」
そう話したネプチューンは、☆が減った分さっきよりも真剣な目――。
「――をしないのは何でだ?」
「あはは、キミがやってくれるんだから、ジタバタする必要ないでしょ」
ネプチューンは俺を信用しきっていた。