293.二択
山ほどの贈り物はセルに頼んで処分してもらった。
ハグレモノとの戦闘でいろいろぐちゃぐちゃになったし、そもそも匿名で送ってきたのもいる。
全員に突っ返すのは不可能になったから、処分・換金する事にした。
エルザ・イーナ経由で『燕の恩返し』になんとかしてもらうことも考えたが、あそこは野菜関連に特化してて、高価な贈り物は扱えない。
厳密に扱えないこともないけど。
「他の所の縄張りに踏み込む事になっちゃうから」
とエルザに言われた。
確かに、儲かるからといって野菜屋が他のものにガツガツ手を出したら同業者の心象が良くないよな。
その分セルは貴族、いろんなコネもある。
送られてきたのは高価な品物ばかりで、「高価」と「貴族」ほど相性がいいものは他にない。
だからセルに丸投げした。
それが一通り終わって、屋敷の内外が普段通りに戻った後、サロンでくつろぐ。
そこに、アウルムがやってきた。
「ちょっと話いい?」
「うん? なんだ?」
「アイツ、ニホニウムの話」
「ふむ」
少し疲れたソファーに深く背をもたれて――ほとんど手足を投げ出してだらっとしてたのを、背筋を伸ばして普通に座る体勢に戻した。
相棒のミーケを抱いたアウルムと視線の高さを合わせて、真っ正面から見つめて聞き返す。
「ニホニウムがどうかしたか?」
「リョータ、もちろんあの女を助けるつもりなんでしょ」
「まあ……そうだな。いつも通りのことはするつもりだ」
アウルムも俺に「助けられた」一人だから、言葉はそれだけで足りると思った。
「それ、ちょっと待ってもらっていい?」
「うん? 何でだ?」
「……しばらくいろんなダンジョンにつれて回るつもりだから」
「何か思うところがあるのか?」
アウルムの顔が普段よりも真剣だった。
彼女はアリスと同じタイプで、気楽に日々を生きてるタイプだ。
そのアウルムがいつになく真剣なのは気になる。
「あいつ、ちょっと外を見た方がいいと思う」
「そうなのか?」
「あたし、外を見て良かったって思ってる」
「わかった」
頷く俺、逆にアウルムがちょっと驚いたって顔をした。
「あっさりじゃん、いいの?」
「思うところがあるんだろ?」
「うん」
「だったら任せる、というより精霊同士、思うところがあるんなら任せた方がいいだろう」
「ありがと」
「だったらさ」
「うわっ!」
「ひゃっ」
俺とアウルム、同時にひっくり返る位びっくりした。
真横からいきなり会話に割り込んできた一人の男。
「僕の方を先にやってよ」
穏やかな口調、笑みを絶やさない表情。
ネプチューンだ。
「いつの間に来てたんだ?」
「ひ・み・つ」
「……あの二人はいないのか?」
「あはは、四六時中一緒ってわけじゃないよ」
「そうか」
「それよりも、そういうことならぼくの方を優先してよ。テネシン、なんとかしてくれるって約束でしょう」
「そうだったな――」
「サトウ様」
「うおっ!」
「ひゃっ、ま、また?」
またアウルムと一緒にびっくりした。
今度は反対側からセルが現われた。
「どうしたんだセル」
「余との約束を果たしてもらいたい」
「お前との? ああ、造幣ダンジョンをどうにかするって」
「うむ」
「政治的な何かはクリアしたのか?」
「つつがなく」
「なるほど」
ネプチューンとセル。
二人とした約束、それを同時に果たせと要求してきた。
こうなってみるとアウルムに感謝だな。
「頼むよ、もうキミしか頼れないんだ」
「これは世界に大きく影響する話、是非ともサトウ様の力を借りたい」
二人とも強く俺を見つめて、頼み込んできた。
さて、どっちから行くか。
ネプチューン、そしてセル。
俺は二人を交互に見つめてから。
「テネシンはどこだ?」
といった。
「ありがとう、キミが来てくれたらもう解決したも同然だよ」
その瞬間ネプチューンが満面の笑顔で喜び、セルが苦虫をかみつぶした顔をした。
セルには申し訳ないが、気になる。
今まで一度も無かった、リルとランが一緒じゃないネプチューンの登場。
その事が気になって、ネプチューンの方を選んだ。
テネシン、どういうダンジョンだろうか。