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291.世界の運命を背負ったリョータ

 ニホニウムダンジョン、地下一階。

 襲ってくるスケルトン相手に、成長弾一発をきっちり撃ち込んで倒す。


 倒したスケルトンは、いつもならドロップするはずのHPの種を落とさなかった。


 ニホニウムがダンジョンにいないせいで、俺なら能力アップの種をドロップしてたのが、それさえも出なくなった。

 いや、それは問題じゃない。


 問題はこのダンジョンの通常ドロップ(、、、、、、)だ。


 ニホニウムを「必要とされる」ダンジョンにするためには、普通の冒険者でも普通にドロップする様にしてやらないといけない。

 どうすればいい、って考えた時真っ先に出たのが「品種改良」。


 ダンジョンの生態を変えるダンジョンマスターを利用して、モンスターとドロップそのものを変えるやり方だが、ニホニウムはそれが使えない。


 正確には「被害が大きすぎて使えない」のだ。


「……噂をすればなんとやらだな」


 空気が一変して、ニホニウムのダンジョンマスターが現われた。


 身長は160センチで、見た目は女。

 髪は2メートルくらいあって、それが地面に垂れている。

 素っ裸の姿はその髪の長さと相まって不思議な空気をまとっている。


 無表情に青白い肌、ほんのりと放っている燐光。

 このダンジョンのアンデット系とおなじ性質なんだろうと思わせる外見だ。


 俺はそいつに向かって行った。

 接近するなり放ってきたかぎ爪状の手のひらに狙い澄ましたカウンター。

 拳に肉を引き裂く感触が伝わってきた。


 ニホニウムのダンジョンマスター。

 普段は実体がないが、攻撃する瞬間だけ実体化する。

 それを狙って攻撃するのが唯一の攻略法だ。


 昔はだいぶ苦労したが、全能力カンストした今は問題ではない。

 向こうの攻撃にあわせて、実体化する一瞬にカウンターを次々と叩き込んでいると、五発目で早くもそいつを倒せた。


 ダンジョンマスターが消えて、空気が戻る。


 引っ張らなかった――品種改良にひっぱれないのは、こいつが出てる時ニホニウムだけじゃなくて、シクロ全域のドロップが止まってしまうからだ。

 もともとダンジョンマスターが出てる時はほかのモンスターが消える。

 ニホニウムの場合、それが更に広域化して、シクロ全体に影響が出る。


 品種改良に時間をかけようもんなら、その間シクロのあらゆる生産が止まってしまう。

 さすがに……それは出来ない。

 だから偶然現われたこいつも瞬殺した。


     ☆


「それは呪いであろう」


 シクロダンジョン協会、会長室。

 訪ねた俺の説明を聞いたセルが一言そう言った。


「……そう思うか」

「サトウ様の話を聞くかぎり、精霊と人間の精神構造はすこぶる近いと推測できる。であればこう推測するのも至極当然」


 一拍おいて、セルが真顔で言う。


「自分の苦しみを他にも――その気持ちを具現化したのがニホニウムのダンジョンマスターの能力であろう」

「……なるほどな」


 分からなくはない、自分が苦しいから相手にも自分と同じように苦しめって気持ち。

 人によってはそれを良くないと咎めるだろうけど、こっちの気持ちの方が俺は理解できる。


「サトウ様が望むのなら」

「うん?」

「余の権限で、一日シクロの生産を止められるがどうだ?」

「そんな事をしたら大変だろ」

「強めの日蝕とすれば問題はない。それに」

「それに?」

「サトウ様は自分を過小評価しすぎておられる。いまやダンジョン再生工場とも目されているサトウ様。ニホニウムのためにそれをするというのなら誰も文句は言わない」

「持ち上げすぎだ」


 俺は苦笑いした。


「そうでもない、早速ニホニウムに様々な人間が群がったのはサトウ様も知っているだろう」

「そんなにか」


 来てる、始まってるのは知ってたけど、セルの口ぶりからしてかなりの事になってるみたいだ。


「動物、植物、鉱物、魔法、特質。あらゆるジャンルの人間が注目している」

「植物――シクロだけじゃないのか?」

「ニホニウムはこれまで何もドロップしなかった。植物以外の可能性も期待されていても不思議はなかろう?」

「なるほど」


 むしろ……特質だな。

 能力アップの種はこっちの世界の人間にはドロップしないものだから分類されてないものだけど、俺の中での分類は特質系だ。

 ニホニウムを立ち直らせた後、ダンジョンドロップが特質系になる可能性が十分に考えられる。


「余の所にも話が来ている」

「え?」

「サトウ様に女をあてがって取り入ろうとする輩が現われた。取り次いで欲しいと言われたよ」

「女、あてがう」


 自分でもびっくりする位平坦な声だった。

 意味は何となく分かるが、自分の事で現実味がない。


「絶世の美女を、あらゆる種族を一人ずつ、しかも全員清き乙女だとか」

「大げさ過ぎる」

「それが世間のサトウ様に対する評価だ」


 セルはニヤリと笑った。


「サトウ様はもはや、一挙一動がすべて世界を動かせる程の立場と名声を持っていると自覚した方がいい」

「だからもちあげすぎ」

「さらりと精霊と世界の運命を背負い込んでそのようなことをいうのがいかにもサトウ様らしい」

「世界?」

「サトウ様が失敗すれば」


 セルはますます、さっき以上ににやりと笑った。


「ニホニウムの捨て鉢で、世界中からドロップが消える可能性もあるのだが?」

「……おおぅ」


 言われてみればそうだ、その可能性はある。

 いまでもダンジョンマスターでシクロの生産を止めるくらいだ。

 ニホニウムがヤケクソになったらそうなる可能性は確かにある。


「少し考えがあまかった」

「なに、問題はない。どのみちサトウ様なら最後は成功させてしまうのだから」

「だから持ち上げすぎ」

「……ふっ」


 口角を持ち上げてフッと笑う。

 どういう事なのか? って思っていると会長室のドアがノックされた。


「お話の所失礼します。サトウ様のご家人がお見えです」

「俺の?」

「リョータ!」


 会長室に駆け込んできたのはアリスだった。

 彼女は肩に仲間のモンスターを乗せて、肩で息をしている。

 息の荒さは、モンスター達がぎゅっとしがみついてないと今にも振り下ろされそうなくらいだ。


「どうしたアリス」

「大変、大変だよ。なんかプレゼントがきた」

「プレゼント……あ」


 セルをちらっと見る、彼は「ほらな」って得意顔になっている。


 が。


 状況は俺の予想を上回っていた。


「いろんな所からきすぎて屋敷が埋まっちゃいそうなんだよ」

「やり過ぎだろ!」


 あの屋敷が埋まるほどの贈り物って、どんだけなんだよ。

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