287.大量のオマケ
「……」
「どうかな。損はさせないよ」
「うーん、やめとくよ」
「――ッ!」
ネプチューンの背後にいる二人の内、色っぽい美女の方――リルが眉を逆立てて怒った。
今にも俺に食ってかからんばかりの剣幕だが、ネプチューンが手をかざして止めた。
ネプチューン本人は今まで通り、いつもと変わらないニコニコ顔で聞いてきた。
「どうしてかな、理由を聞かせてくれると嬉しいかな」
「聞かせないと引き下がらないようだな」
「うん、だって、今回は僕も本気だから」
俺はため息を一つ。
「お前、困ってないから」
「困ってないとダメなの?」
「ダメなのって言うか……」
それを真顔で聞き返されると困る。
確かに意識的にやってる事ではあるけど、聞き返されると……。
俺はこの世界に転移してから、大抵は人助けで動いてきた。
頑張ったけど報われなかった人達。
誰かに搾取されてる人達。
見てるとついつい昔の自分を思い出してしまう、そういう人達に力を貸してきた。
それで行くと、ネプチューンは助けが必要だとは思えない。
報われない人間でも、搾取されてる人間でもない。
むしろ正反対の人間だ。
だから断ったんだが。
「それなら大丈夫」
「え?」
「僕、今すごく困ってるから」
ネプチューンはにっこりと、いつものような穏やかな微笑みを浮かべながら。
「テネシン」
といった。
「117番か」
「うん?」
「いやこっちの話……新しく生まれたダンジョンか」
俺のつぶやきに、リルとランが目を見開き、信じられない様なものを見た顔をした。
ネプチューンはそうならなかったが、逆にますますニコニコになった。
「あはは、やっぱりキミはすごい人だよ。まだ何処にも発表してない、ごくごく一部の人しか知らない新しいダンジョンの事をもう知っているなんてね」
「……」
うかつだったかも知れない。
117番、テネシン。
ニホニウムと同じ時に命名されたもの、だから知っていた。
こっちの世界での成り立ちは知らないで、名前だけ知ってたから反応したが、その反応がうかつだった。
「僕、いまそれの調査を任されててね。ニホニウムの時と同じように」
「すごいな」
「で、今すごくピンチなんだ。ぶっちゃけ僕じゃどうしようもなくてね、軽く呪いに掛かっちゃってる。だからキミに協力して欲しいんだ」
「ピンチなのか」
「うん、正直、キミだけが頼りなんだ。世界で僕以上の人間は君しかいないからね」「……」
ネプチューンを見つめる、真意が分かりにくい彼の本心を探ろうとした――があまり意味はなかった。
「ずるいなお前」
「そう?」
すっとぼけるネプチューン、彼が一人だけなら判断出来ないが、いつもつれているリルとランの表情が何よりも雄弁していた。
リルは「引き受けなかったら殺す」って怒りの顔をしてて、ランは「ネプチューンがどうにかなったらあたしも……」って悲しそう顔をしてる。
二人とも、本人よりも本人の事を心配している。
この場にその二人を連れてくるのは……ずるい。
「……はあ、わかった」
「いいのかい?」
「ああ」
「ありがとう! リル、ラン」
「分かった!」
「ふん……言うとおりにすればいいんでしょ」
リルとラン、二人は一斉に身を翻して、来た道を駆け出していった。
「何をするんだ?」
「下準備、まずは僕、ネプチューンがリョータ・ファミリーに入った事を喧伝しないとね」
「それは本当に必要なのか?」
「……うん」
「おい、今の間はなんだ」
まさかあの二人のも演技だったのか?
「えー、あはは、やだなあ。せっかくのピンチだしこれを利用してキミと仲間になってしまおうとかそんな事思ってないから」
「いっそ清々しいぞおい!」
思いっきり突っ込む、ちょっとだけ後悔してきた。
しかし。
ネプチューンはいつになく、真面目な顔になって。
「本当にありがとう……助かったよ」
「……お前、本当にずるいな」
たくましいんだかそうじゃないんだか。
その後、ネプチューンは「準備が出来たらまた来る」といって、ニホニウムから立ち去った。
俺は気を取り直して、器用の値をBまで上げてから、屋敷にもどると。
「ああっ、大変ですよリョータさん」
「どうしたイーナ、そんなに慌てて」
「外、外みて下さい!」
「外?」
俺はイーナに言われた通り、窓から外を見た。
「うおっ! なんだあの人だかりは……百人以上いるぞ」
「全員が冒険者で、ネプチューン傘下の人だそうです」
「ネプチューン?」
眉がひくっとした、いやな予感がした。
「ネプチューンがリョータファミリーに入ったって聞いて、自分達も加えろといってきてます。もう何人も『一生リョータのアニキについていきます』とか言って来てます」
「……」
眉をもんだ、頭痛がしてきそうだ。
熱烈に求められているが、さすがにこいつらまで受け入れたらキリがない。
そう思ってひとまず追い返したが。
数日後、リョータファミリー傘下のネプチューンファミリーの、その更に傘下という。
三次団体が山ほど誕生して、俺はますます頭を抱えたくなったのだった。