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286.レジェンド越え

 朝、起きて部屋を出る。

 窓から差し込まれる朝日を浴びつつ伸びをして、サロンに通りかかると。

 サロンの中で、セレストがぐたっとソファーの肘置きにもたれ掛かっていた。


「どうしたんだセレスト」

「あっ……リョータさん。何でも無いわ、ただの魔力嵐」

「ありゃ」


 魔力嵐。

 この世界の天気の一種で、出てる時は範囲内にいる人間はまったく魔法が使えなくなる。

 人次第では魔力嵐中に体調を崩す事もある。セレストがまさにそうだ。


「大丈夫なのか?」

「ええ、いつもの事だし、病気じゃないから大丈夫よ。今回はちょっと長いから、それだけが憂鬱だけど」

「長いのか?」

「ええ、予報では五日間続くって話よ」

「それは長い!」


 ちょっとだけびっくりした。

 5日間も続くなんて……今までで一番長いんじゃないだろうか。


「そういう季節だから、しょうがないわ」

「なんか梅雨みたいだな」

「それよりリョータさんこそ大丈夫なの?」

「うん?」

「最近顔が真剣。大事な事をしているんじゃないの?」


 俺はベタベタと自分の顔を触った。

 確かにニホニウムに会える目処がついたから、最近やる気になってる。

 それを見抜かれていたのか。


「どうだろうな」

「手伝いは必要?」


 セレストは体を起こした。真剣な表情だ。

 それがありがたくて、嬉しかった。


「大丈夫だ、なんとかする」

「……まあ、リョータさんなら大丈夫だわね」


 再び肘掛けにもたれるセレスト。

 信頼もあつかった。

 その信頼に応えるためにも、俺は今日も、ニホニウムに向かおうと思った。


     ☆


 朝ご飯の後、まずはプルンブムの所にいって、一通り世間話をしてきた。


 彼女に見せられたリョー様は更にパワーアップしていた。

 顔はますますイケメンで、着てる服装もどんどん洗練されていく


 一緒にミスコンとかそういうのに出たら俺完敗だろうなと思った。


 そんな事を思いつつ、プルンブムと別れてニホニウムに来た。

 ドラゴンゾンビを倒して周回する。


 基本は無炎弾で倒しつつ、カウント1の時だけ時の雫を使って乱射で倒す。

 途中から、カウント3以上は無炎弾を使わない、成長弾に消滅弾のコンビで倒すようにする。


 そうしてやり方を模索する。

 急がば回れ。

 カウント3以上で遠回りをしても、そこから何かひらめくかも知れない。


 3だからと言って2の無炎弾――という横着はやめた。

 そうして次々と倒して、器用の種で器用の値を上げていく。


 途中でちょっとズキッ、と頭痛がした。

 俺も魔力嵐の影響がちょっと出てる。


 MP、知性、精神。

 魔法を使うためのステータスが全部SSになってるから、魔力嵐の時はセレスト程じゃないけど体調に影響が出る。

 なにより――


「リペティション」


 魔法を唱えたが不発だった。

 最強周回魔法リペティション。

 周回における最強魔法ではあっても、それは魔法。

 魔力嵐の出ている日はまったく使えない。


 カウント1のドラゴンゾンビが現われた。

 時の雫をぶっかけて、銃を撃って倒す。


 器用の種を手に入れて――ホッとした。

 横着してリペティションを周回に組み込まないで本当に良かった。

 もしそうなら、五日間続く魔力嵐でなにもかも後回しにせざるを得ない所だった。


「やっぱりもう一つか二つ、選択肢を増やしとこう」


 3の時のパターン。

 4の時のパターン。

 5の時のパターン。


 数は少ないけどあえて99目一杯使ったパターン。


 全部、試してみようと思った。


 パチパチパチ、と拍手の声が聞こえた。


 ちょっと驚きながら振り向く、ニホニウムの地下二階以降はほとんど来る人がいないからだ。

 振り向いた先にはネプチューンと、彼の仲間であるリルとランの二人の少女がつきそっていた。


「すごいね、ここを安定して周回してる。しかも魔力嵐の中で」

「どうしたんだ? あんたがここに来るなんて」

「あはは、僕が途中でリタイヤをしたダンジョンを完全にクリアした人がいるって聞いてね」

「リタイヤ……?」

「ほら、ニホニウムが産まれたとき、僕たちが調べに入ったんだよ」

「…………おお」


 記憶の深淵からそれが浮上、ポン、と手を叩いた。


 一年以上前の事だ。

 まだ俺とエミリーがテルルの一階とか二階で頑張って、俺の能力がオールFだった頃。


 ニホニウムが「産まれて」、ネプチューン一家が調査に入ったという噂をそういえば聞いてた。


「そうだったな、すっかり忘れてた」

「実を言うとね」

「うん?」

「僕、ここをリタイヤしてたんだ」

「リタイヤ? そういえばさっきもそんな事いってたな」

「上の階は全部調査したけど、この階のカウント1と2が調査ができなかったんだ。どうやっても一撃で倒せなかったからね」

「そうなのか」

「うん。リル、ラン」

「はいはい、やればいいんでしょ」

「まっかせて」


 彼につきそう二人の少女が背後に、寄り添うようになった。

 ドラゴンゾンビが一体通りかかった。

 カウントは3。


 リルとラン、二人は歌うように詠唱する。


「ゴッドプレス!」

「デビルカース!」


 白と黒、二つの魔法がネプチューンにかかった。

 二つの光が彼をつつみ、白と黒の翼を作り出す。


 カウントが一気に2減って1になった。

 ネプチューンは無造作に拳を振った。


 強力な一撃、まだまだ余力を残した一撃がドラゴンゾンビを吹っ飛ばした。


「見ての通り、僕の切り札はこれだからね。3までは楽勝だけど、1と2は倒せないんだ」

「ああ、なるほど」


 前にも見たネプチューンの必殺技。

 純粋な火力ではまだまだ余裕はあるが、相性が悪すぎるな。


「でもさ、キミも冒険者やって長いから分かるでしょ。この階でカウント1だけ倒したのを確認できなくても」

「まあ、問題ないよな」


 俺が答えると、ネプチューンははっきりと頷いた。

 この世界は割とルールがガッチリしている。

 「ドロップS」と絡まない事象なら、100%と言っていいほど例外は生まれない。


 ネプチューンが1階からずっと調査してきて、この九階のカウント1と2だけ諦めてリタイヤしても、それはなにもおかしくない。


 正直に報告してもダンジョン協会――当時はクリントが会長か――は納得しただろう。


「だから来たんだ、僕が超えられなかったのをあっさり超えていった人の顔を見るためにね」

「そうか」

「すごいよ、キミは。ねえ、僕の仲間にならないかい」

「まだ誘うのか。何回目だこれ」

「そりゃそうだよ、だって僕キミの事気にいってるし」

「そういえばそれもずっと言ってるな……悪いな」

「それは残念。じゃあ――」

「うん?」

「僕をキミの仲間に入れてくれないかな。ほら、クリフとマーガレット、ああいうのみたいに」

「……は?」

「リョータファミリーの傘下にネプチューン一家がはいる。どうかな」


 そう話したネプチューンの目はすごく真剣だった。

 だったが、が。


「……まじ?」

「まじまじ」


 ノリは軽いがどうやら本気で、その証拠に背後にいるリルとランがぶすっとしていた。

 なんでネプチューンが誰かの下につくんだ、って顔だ。


 すくなくとも本人は本気みたいだ――マジかよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポイズン階層どうやって突破したんだよ・・・
[気になる点] >朝ご飯の後、まずはプルンブムの所にいって、一通り世間話をしてきた。 引き籠りのプルンブムに毎日会いに行ったところで、会話のネタは続かなそうだけど。 自分だったら、毎日会う約束ではなく…
[気になる点] リルとラン魔力嵐なのに魔法使えてます
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