282.限界を超えた男
屋敷の地下室であぐらを組んで、新しい弾丸を手に持ってじっと見つめた。
効果を考えて、とりあえず強制ドロップ弾――もうちょっと縮めてドロップ弾と名付けた。
この弾を撃つと、当ったモンスター相手はドロップS基準のドロップを一回する。
倒す倒さないにかかわらず、弾一発につきドロップS1回分ドロップする。
どんな相手に使っても効果は一緒だけど、この弾の真価はレアモンスターにこそ発揮すると思った。
ポケットの中から錆びた鍵を取り出す。
合計で、七本。
ダンジョンマスター・リョー様一体からドロップした分だ。
ドロップ弾六発+通常のトドメで、計七本。
リョー様は出現率高いから、この七本の鍵は今一つありがたみがないが。
これが例えばセレンにダンジョンマスター・バイコーンが出たとして。
ドロップ弾を百発、簡単に用意できる百発を持っていけば、バイコーンホーンを百個、ものの一瞬で集められる。
こんな風に、なかなか現われないレアモンスターにもっとも威力を発揮するだろう。
ドロップ弾の性能がわかり、この先使いどころもおおよそ固まった。
他に何かないか、と頭の片隅で考えつつ、錆びた鍵を七本ともハグレモノとリペティション経由で黄金の鍵に変えてから、地下室を出た。
外は夕方、そろそろ仲間達が帰ってくる頃だ。
帰ってきたらみんなにこの鍵を渡そう。
あの部屋の鍵、仲間達には一人一本渡そうと決めていた。
「――♪」
ふと、遠くから上機嫌な鼻歌が聞こえてきた。
鼻歌に誘われていってみると、キッチンに入った所でエミリーの後ろ姿を見つけた。
「おー……」
「あっ、お帰りなさいなのですー」
思わず漏れてしまった声に気づいて、エミリーがこっちに振り向いた。
130センチのまるで子どもの様な小柄な姿だが、エプロンを着けて夕日の中のキッチンにいるその姿は温かくも神々しい。
一年以上一緒に暮らしているのに、思わず見とれてしまったほどだ。
「ヨーダさん、どうしたですか?」
「え? ああいや……その」
少し考えて、とっさに一つ前の感想を口にした。
「包丁捌きすごいなって」
「ありがとうなのです」
エミリーは嬉しそうに微笑んで、再び前を向いた。
まな板の上で包丁が舞う、静かな踊りでまな板上のキャベツを千切りにしていく。
「達人だなあ」
あらためて見るとその感想が自然と口から出た。
流れる包丁捌き、パッと見てまったく早いと感じないが、キャベツの千切りは次々と切り出されて、横のボウルにふんわりと積み上げられる。
バトルマンガ風に言えば静の剣、明鏡止水の域ってやつだ。
超熟練した動きで、エミリーはキャベツを千切りにしていく。
「いつもみんなのご飯作ってくれてありがとうな」
「お料理は大好きなのです」
「そうか、ありがとう」
エミリーはえへへ、と笑いながら今度はイモの下ごしらえを始めた。
「ジャガイモか」
「はいです、取れたての新鮮なジャガイモなのです」
「取れたてって事は、エミリーがとってきたものなのか?」
朝ご飯の時のことを思い起こす。
報告、って程じゃないが、仕事に出かける前の朝ご飯で、みんなが何となく今日はどこそこに行く、って宣言してる。
今日は誰もジャガイモの産地に行くとは言ってなかったはずだ。
「はいです。みんなの分を親子スライムからとってきたです」
エミリーはそう言った後、困った顔で微笑んだ。
「私もうちょっと強くならないとダメなのです。もうちょっと仲間が増えると、分量に足りさせるための親子スライムの硬さが上がって倒せなくなりそうです」
「ああ、そういうモンスターだったな」
親子スライム。テルルダンジョン地下6階に生息しているモンスター。
親子って名前だが、実際は一体のモンスターだ。
つれてる「子」たちを先に倒せば倒す程、最後に「親」を倒した時のドロップがその数に応じて増える。
しかしその分、「親」の硬さというか、防御力も上がる。
倒せるギリギリの硬さまで「子」の数を調整するのがテルル六階攻略、周回のポイントだ。
「……む?」
「ヨーダさん、どうしたです?」
「……」
「ヨーダさん?」
エミリーが小首を傾げて俺の顔をのぞき込む。
そんなエミリーに反応する暇もなく、俺の頭にある事が、ある光景をひらめいていた。
その光景がはっきりとまとまった瞬間、俺はパッと身を翻して走り出した。
「ヨーダさん!?」
エミリーを置き去りにして、廊下を駆け抜けて転送部屋に駆け込む。
転送ゲートを起動、テルル地下6階を指定した。
実質全てのダンジョンの入り口だからここに止めてある魔法カートを押して、光の渦の形をしたゲートにとびこんで、一瞬で目的の階層に飛んで来た。
テルル地下六階、たくさんの冒険者と、たくさんの親子スライムがいた。
その中でフリーの親子スライムを一体捕まえて、戦闘に入った。
まずは成長弾の連射、「子」を全部倒して、ドロップと「親」の硬さを最大にした。
次に拘束弾を撃つ、体力と精神――防御力はSクラス相当になったが、他の能力は変わってない親スライムはをあっさりと拘束。
魔法カートを押して、親スライムに横付けする。
そのまま二丁拳銃を押し当てて――ゼロ距離から連射。
ドロップ弾と回復弾を交互で連射した。
ドロップ弾を撃った――倒さなくてもドロップをさせるドロップ弾を撃ち込むと、最大の量でジャガイモがドロップされた。
ドロップS+最大硬度親スライム。
山ほどのジャガイモがドロップして、そのまま横付けした魔法カートで屋敷の出張所に転送する。
回復弾を撃った。
通常弾程度のわずかなダメージを受けた親スライムを回復させる。
更にドロップ弾を撃った、山ほどのジャガイモがほぼノータイムでドロップした。
それを屋敷に転送。
更に回復弾――。
ドロップ弾と回復弾を交互に連射、山ほどのジャガイモを魔法カートで出張所に送る。
強制ドロップからの回復、それを繰り返す。
目算で――秒間数十キロのジャガイモを生産した。
普段から横着しないで「ほかのやり方」をって考えていたから、パッとひらめいたやり方。
それでテンションが上がって、更にペースを上げようとすると。
「ヨーダさん! ちょっと待つのです!」
「エミリー? どうしたんだ?」
いきなり現われて俺を止めるエミリー。
キッチンから慌てて追いかけてきたのか、エプロンを着けたままだ。
「早すぎてエルザさんがパンクしちゃってるです」
「あっ……」
エミリーの制止、その光景が一瞬で頭に浮かんで、俺は苦笑いした。
どうやら生産速度が速すぎて、ファミリー全員の買い取りを担当してたエルザの処理速度の上限を超えてしまったようだ。
初めてのことだったので、俺はひらめいたこのやり方に満足した。