280.道はある
ニホニウム地下九階。
今日も攻略の為にここに潜っていた。
ダンジョンの中で、瘴気をまとったドラゴンゾンビが静かに佇んでいる。
今までのモンスターと違って、戦闘前の行動がほとんどない。
それが巨体と、そして纏う瘴気と合わさって。
静謐なダンジョンの中で、えも言われぬ存在感を醸し出している。
俺は気を引き締めて、そのうちの一体に向かって行った。
「むっ」
攻撃をしかけようとした瞬間、ある事に気づいて動きが止まった。
「ぐおおおおお!」
隙あり! と言わんばかりの勢いで、それまで動かなかったドラゴンゾンビが攻撃してきた。
ドロドロとした体液が光る、巨大な口を開けて噛みついてくる。
「くっ!」
地を蹴って飛び下がるが、ドラゴンゾンビの動きが更に伸びてきて、がっ! と俺の体に噛みついた。
牙が肌に食い込む、万力の様に締め付けられて全身が軋む。
「う……おおおおお!」
深呼吸して、両手両足に力をいれて、噛みつくドラゴンゾンビの力と対抗した。
ミシッ! って音がした直後、一瞬だけ俺の体が大の字になって、ドラゴンゾンビのかみつきを解き放った。
そのまま着地、今度こそ地面を蹴って飛び下がる。
そして、見る。
勘違いではなかった。
まだ攻撃してないのにもかかわらず、ドラゴンゾンビの頭上にある数字が「2」を示していた。
「……まさか」
思い当たった節を確認するべく、目の前のドラゴンゾンビから逃げ出した。
逃げて振り切って、すぐに遭遇した別のドラゴンゾンビと向き合う。
今度は「4」とあった。
攻撃はしないで、更に別のドラゴンゾンビを探す。
探して回って、頭上の数字を確認していく。
ばらばらだった。
個体ごとに数字は2から5までのばらつきがあって、一定ではなかった。
「……周回が難しいな」
すぐにその意味と、その先の事を理解して、思わず愚痴の様な言葉が口からこぼれた。
周回で重要なのは行動をパターン化する事。
いかにシンプルに、揺らぎを減らして、ルーティンに仕上げていくのがいい周回パターンだ。
しかし攻撃可能回数にばらつきがあるのならそれも難しい。
「いや、二手で倒せるようなパターンを組めばいいのか」
そう思って、少し考える。
うん、そうだ。
一瞬難しく考えてしまったけど、例え数字は2から5までばらつきがあっても、全部一番小さい2で考えればいい。
5で猶予があるときも二手で倒してしまえば問題はない。
二手と言えば……最初に倒したヤツにやった蒼炎弾の融合、無炎弾がいいか。
よし、やってみるか。
二丁拳銃をぬいて、しっかりとそれぞれに蒼炎弾を込める。
いざドラゴンゾンビ――と意気込んだはいいんだが。
「1もいたのか!」
再開して、最初に出会ったドラゴンゾンビの頭上にあるのは「1」という数字だった。
完全に出鼻をくじかれた。
1もいるんじゃ無炎弾は使えない。
念の為に蒼炎弾を撃って、融合して無炎弾を作り出した。
数字が「0」になったドラゴンゾンビをそこに誘導するが、まったく効かなかった。
やっぱり0になると無敵になるんだな。
そういえば……。
「リペティション!」
0になったドラゴンゾンビに最強周回魔法を撃ったみた。
これも効かなかった。
最強周回魔法リペティションだが、それはこの世界にもともとあった魔法。
つまり、世界のルールの中にある魔法。
0になったドラゴンゾンビは無敵、故にリペティションもきかない。
魔法が使えない魔力嵐の時もリペティションは使えないんだしな。
もしかしてと思ったのが嬉しくない当たり方をしてちょっとテンションが落ちた。
数字が0になったドラゴンゾンビは現状倒しようがないから、ひとまずそいつから逃げだした。
このまま周回を開始しても行き当たりばったりで効率上がらないだろうな。
よし、まずはわりきって調査だ。
攻撃をしないで地下九階を回って、ドラゴンゾンビの数字を確認して回った。
小一時間攻撃しないで回って確認した。
カウント、攻撃可能回数は1から5までがあった。
一番多いのが3、1と2と4と5が大体同じくらいだ。
それ以外はなかった。
つまり、脳死周回をするには、一手で倒しきる必要がある。
結構強かったドラゴンゾンビ、それを一手で確実に倒しきるとなると……。
「リペティション、だよなあ」
つぶやいて、ため息をついた俺。
試しに1から5、全種類のドラゴンゾンビにリペティションをかけた。
どれも一撃で倒すことが出来た。当たり前の話だが。
0以外ならリペティションが効く。
つまり安定周回はリペティションで問題なく出来る。
それは……あまりなあ……。
リペティション周回は一番楽、どんな敵でも一番楽だが、だからこそ選びたくない。
何かあったときの為に力を発揮できるように、そこまで横着して脳死周回は避けたい。
「さて、どうするか……」
倒す事を考えないで、いろんな銃弾をドラゴンゾンビに撃ってみた。
通常弾、冷凍弾、火炎弾、雷弾、拘束弾、追尾弾、クズ弾、斬撃弾、三重弾。そしてゾンビだからって事で回復弾も一応。
一通り撃ってみたが、どれも上手く行かなかった。
加速弾も同じで、加速した世界の中でも攻撃をしたらドラゴンゾンビのカウントが即座に減って意味はなかった。
融合弾は試すことすらしなかった。それは二手でカウント1開始には使えない。
他になんか手はないか、なんか。
そう思って、特殊弾の他にも色々アイテムを確認して、その効果を一つ一つチェックした。
「……おっ?」
アイテムの中で、一年以上使っていない、懐かしいあるものを見つけた。
それを持って、考える。
うん、多分いける。
俺はそれを持って、ドラゴンゾンビの前に立った。
カウントは2、丁度いい。
「テストだ、時間短縮に1カウントもらうぞ」
そうつぶやき、ドラゴンゾンビに加速弾を撃ち込んだ。
撃った相手がものすごく速くなる加速弾、それをあえて自分じゃなくて、ドラゴンゾンビにうった。
ドラゴンゾンビのカウントが2から1になった瞬間――。
「――ッ!」
ドラゴンゾンビの姿が消えて、ズシッ、と全身に衝撃が来た。
加速したのだ。
そいつは加速して、目にも止まらぬ動きで俺に襲いかかった。
全身を滅多打ちにされる、ガードの体勢で、HPと体力SSで堪える。
嵐の様なドラゴンゾンビの猛撃を耐える。
やがて、プッ、とドラゴンゾンビの攻撃が急に途絶えた。
姿が消え、代わりに目の前に器用の種がドロップした。
「――よし!」
小さくガッツポーズ、狙い通り。
俺は久々に出したアイテムを見た。
ハイガッツスライムの宝石。
装備すると、喰らったダメージを相手に反射するアイテム。
時間がかかるから普段は使わないでほこりをかぶってるが、役に立った。
ドラゴンゾンビのカウントはあくまでこっちからのダメージの回数で、反射はカウントされない。
加速弾はすぐに結果を知りたかったから使ったが、それがなくても、カウント1のドラゴンゾンビはこれを使えば倒せる。
このやり方だと時間は掛かるが、それでもリペティションに頼らない周回の可能性をつかめた、探し当てられた事に俺は満足した。
が、まだまだだ。
「もっと考えて、つめていくぞ」
久しぶりに、やりがいを感じていた俺だった。