276.上限アップ
「リョータさん!」
屋敷自室、次の仕事にでかけるための準備をしてると、セレストが慌てて駆け込んできた。
「どうしたんだ?」
「プルンブムにダンジョンマスターが出ました。倒してもらえるかしら」
「分かった――うん?」
承諾して、部屋をでて転送部屋に向かおうとした俺だが、ふとある事を思い出す。
「どうしたんですか?」
「プルンブムのダンジョンマスターって……前にみんながさくっと倒さなかったっけ」
「ええ、ブロマイドをみんなで一枚ずつ使って倒しました。でも最近ブロマイドの使い道がどんどん研究されてて、それで高くなって……」
「だれも気軽には使わなくなったのか」
「……」
セレストは小さく頷いた。
まあ分かる。俺も元の世界でゲームをやってた頃は、エリ○サー使えない症候群だったからな。
高価なアイテムを惜しむ気持ちはわかる。
「わかった、そういうことなら俺が一番適任だろう」
俺は早足で歩き出して、転送部屋に向かった。
「階層は?」
「私が戻ってきた時点では三階にいたわ」
「よし」
プルンブムの全階層を踏破したので何処へでも転送可能だ。
転送部屋で行き先をプルンブム三階に指定して、ゲートを開いて即飛び込んだ。
一瞬で空気が変わった、ダンジョンマスターがいる空気。
周りをぐるっと見回すと――いた。
他のモンスターがいなく、冒険者達も退避した後のダンジョンの中に、ダンジョンマスター・リョー様がいた。
「………………」
気のせいだろうか、リョー様の頭身が上がっている。
ざっくり九頭身、もうどこから見ても完璧な少女マンガ主人公だ。
「…………かっこよさも上がってるのがすごい複雑なんだが」
少女マンガチックでありつつ、男の俺の目から見ても普通に格好いい主人公だ。
リョー様の見た目はプルンブムが書いてる絵そっくり――つまりプルンブムの画力がまた上がったって事になる。
「おっといかん」
リョー様が俺に気づいて、銃を構えてきた。
ちなみに水平に構えた横打ち、これまた様になって格好いい。
「リペティション」
格好良くなったリョー様がどういう動きをするのかが気になったが、ダンジョンマスターはほっとくとその時間分全冒険者が損をするから、さくっとリペティションで倒した。
体が脱力する。
リペティションは敵の強さに応じて消費MPが変動する、ダンジョンマスター級はMPがSSでも一発で空になってしまう。
無限回復弾を注射のように自分に撃ち込んで、MPを回復する。
「おっ、鍵だ」
消えたリョー様は錆びた鍵をドロップしていた。
鍵を拾って、ゲートを使って屋敷に戻った。
転送部屋で待っていたセレストが俺を出迎える。
「お帰りなさい」
「ただいま、倒してきた」
「ありがとう、やっぱりリョータさんだけが頼りだわ」
「セレストはこれからどうするんだ? 戻るのか?」
「ええ」
「そうか。いらん気遣いだとは思うが気をつけろよ」
リョー様がそうだからというのもあるが、プルンブムは他のダンジョンと違って、モンスターが成長――いや進化しているように感じる。
それに、ダンジョンマスターの出現頻度も高い気がする。
多分それらは全てプルンブムの気分次第。
そのうち通常モンスターが魚から進化して、ダンジョン内が俺の見た目をしたモンスターに埋め尽くされる日がくる可能性もある。
……考えすぎだな、うん。
まあそんな訳だから、モンスターが強くなるかも知れないと思って、一応セレストにそんなことを言ってみた。
「ありがとう、気をつけるわ」
セレストは頬を桜色にしながら、大人っぽく微笑みながら転送部屋のゲートを使ってプルンブムに戻った。
さて、俺は地下室に行くか。
予定を変更して、テストがしたくなった。
それには、まずはこの錆びた鍵を金の鍵にしなきゃだ。
廊下を歩いて、地下室に向かう。
セレストの部屋の前を通ると、ドアが半開きなのに気づいた。
「不用心だな……」
そうつぶやいて、ドアノブに手をかけて、ドアを閉めようとした。
ふと、スキマから部屋の中が見えた。
セレストが越してきた時から変わらない、意外と女の子趣味な部屋。
相変わらずぬいぐるみが色々飾られている――だけではなかった。
並べられたぬいぐるみたち、そこに、ドアのスキマからちらっと見えた場所に、リョー様が二体立っていた。
棒立ちのリョー様、ブロマイド召喚で敵がいないからマネキンのように動かないリョー様。
なぜ、リョー様が――
「……見なかったことにしよう」
いろんな想像が頭の中を駆け巡っていった瞬間、俺はそうする事にした。
セレストがなんのためにそうしているのかはわからない、が。
「だから最近プルンブムに通ってるし、ダンジョンマスターの事を知らせてきたのかあ。うん、わかったぞ」
ちょっぴりだけ白々しく棒読みに成りながら、俺はドアをしっかり閉めて、地下室にやって来た。
錆びた鍵を地下室の奥において、距離を取る。
そしてダンジョンマスター・リョー様に孵った瞬間、何もさせずに即リペティションで倒す。
錆びた鍵が、黄金の鍵になった。
これで二本目。
前に取った、最初の一本を取り出して、二本持った状態で黄金の鍵をひねる。
するとドアが出た、例の部屋に繋がるドアが現われた。
ドアの上に「02」という文字が出た。
やっぱり、鍵一本につき数字が1増える仕組みか。
あとはこの数字の意味だな。
俺はいったん地下室を出て、屋敷の中で声を上げた。
「だれかー、誰かいないか」
「はいですー」
すると、サロンからエミリーがひょこっと顔を出してきた。
「エミリーいたのか」
「はいです、今日はおうちの掃除なのです」
「そうか。悪いけどテストに付き合ってもらえないか」
「もちろんオーケーなのです。何をすればいいです?」
「これを」
そう言って、鍵をひねる。
エミリーとの間に例のドアが現われた。
「わ、びっくりしたです」
「この中に入ってくれないか」
「わかったです」
エミリーはなんら躊躇することなく、ドアを開けて中に入った。
あまりにもあっさり過ぎて、色々言っておきたいのが間に合わなかった。
まあいい、それよりも数字だ。
ドアの上の数字は、エミリーが入ったことで「02」から「01」になった。
「リョータさん、呼びましたか?」
今度はエルザ、仕事柄常にこの屋敷にいるエルザが現われた。
「エルザ、悪いけどテストに付き合ってくれないか」
「はい。そのドアで何かすればいいんですか?」
「話が早くて助かる、中に入ってくれればいい。既にアリスが安全だと確認してる」
「分かりました」
「中にエミリーがいるかどうかを確認してくれ」
「はい」
あっさり引き受けてくれたが、エミリーほど即で飛び込みはしなかったので、一応注意事項をいっておいた。
エミリーと同じように、ドアを開けて中に入る。
すると、数字が「01」から「00」になった。
どうやら、数字=鍵の数は同時使用人数みたいだった。