274.肖像権と使用料
「大変、大変ですリョータさん!」
昼間、プルンブムの一件が終わって、一日だけ休日にしようとサロンでくつろいでたら、エルザが慌てて駆け込んできた。
「どうしたんだ?」
「リョータさん、魔法カート誰かに貸してませんか?」
「魔法カート? いや貸してないはずだけど。どうしたんだ?」
「そうですか……あの! ちょっと来て下さい」
なんの事かはわからないが、エルザの様子がただ事じゃないから、とりあえずついていくことにした。
一緒にやってきたのは屋敷の広間、『燕の恩返し』の出張所になってる場所。
中に入ると、エルザは小走りで一つの端末の前に走っていった。
マスターロックとスレイブロックを使った、アイテムの転送装置。
俺の魔法カートと繋がっている転送装置だ。
「みて下さい!」
すぐにエルザが慌てる理由が分かった。
そこからお金が飛び出して――転送されてきたからだ。
「500ピロ玉……どうして?」
「わかりません。リョータさんの魔法カートから転送です、ここは。だからリョータさん何か知らないかって思って」
「ふむ」
あごを摘まんで考えた。
何も心当たりはない。
少しその場にとどまって様子を見た。
すると、お金は次々と転送されてきた。
全部が500ピロ玉、それが不定期に飛び出して来る。
「まるで打ち出の小槌みたいだな」
「低レベル、ここにいた」
「イヴ――ってどうしたんだそれ」
出張所に入ってきたイヴはリョー様を一体連れていた。
バニースーツ姿のウサギと少女マンガ風主人公のリョー様。
組み合わせがだいぶシュールだった。
「この低レベルもどきは不良品、使えない」
「不良品?」
「ニンジンまずい」
「…………ああ、ダンジョンでブロマイドを使ってニンジン狩ろうとしたのか」
イヴが小さく頷いた。
自力でリョータニンジンを生産しようとしたが、ブロマイド召喚のリョー様はドロップSじゃないから、そのニンジンが狙った物よりも美味しくなくて気に入らない、ってことか。
「それを使ったことにまずびっくりだ」
「ウサギはニンジンのためならなんでもする」
「本当になんでもしそう」
俺がいうと、イヴはふてくされた感じでリョー様にチョップをした。
モンスターがいないから、無抵抗でチョップを受けたリョー様。
一撃で倒され、消えてしまう。
「リョータさん! お金が!」
「え?」
エルザの声に振り向く、転送装置から500ピロ玉が一枚飛び出して来るのが見えた。
「このタイミング、まさかあれの?」
「どうしますかリョータさん」
「ブロマイド、ある?」
「はい、今日セレストさんから買い取った分が」
「一枚くれ。代金は俺の口座から引いて」
「はい!」
エルザは一度机の方に戻って、色々書き込んで処理し、ブロマイドを一枚持って戻ってきた。
それを受け取って、リョー様召喚。
即、倒してしまう。
すると、
「リョータさん! また出ました」
「……これが消える瞬間にでるのか」
もう一枚ブロマイドを購入して、今度は召喚の後、ついでにもやしからスライムのハグレモノを孵して、攻撃をさせた。
リョー様はスライムを一撃で倒した後に消えて、またまた500ピロ玉を出した。
「どうやら間違いないようだな」
「はい、でもどうして……」
「うーん」
俺とエルザが顔をつきあわせて、一緒になって首をひねった。
考えても一向に分からない――そんな中。
「たっだいまー。プルンブムちゃん面白い子だね」
出張所にもう一人の仲間、アリスがやってきた。
彼女はいつもの様に陽気に、肩に仲間のモンスターを乗せてやってきた。
「アリス、今プルンブムっていったか?」
「うん! ちょっと遊びにいって来たんだ。そしたらね、メラメラとプルンブムちゃんがすっごく意気投合しちゃったんだ」
メラメラ。
アリスの肩に乗っかってるモンスターの一体、デフォルメされた人魂の様なモンスター。
その正体はフォスフォラスダンジョンの精霊、フォスフォラスその人だ。
「意気投合? そうか精霊同士だもんな」
「うん! それでメラメラとプルンブムちゃんが力を合わせてさ」
アリスはそう言って、ブロマイドをとりだした。
だいぶなれた手つきでリョー様を召喚した。
そのリョー様を、デフォルメしたモンスター達がよってたかってたおした。
またまた、500ピロ玉が転送されてきた。
「リョータのこれ――リョー様だっけ。一回使われるごとにリョータに使用料が払われることになったんだ。しょーぞーけん? だっけ、ただで使うのはダメだってメラメラ言ってた」
「……それでか」
フォスフォラス。
金をドロップするダンジョンの精霊。
そのフォスフォラスとプルンブムが協力して、ブロマイドを進化させた。
「わわわ、すっごーい! あっちこっちでリョータ――じゃないや、リョー様が使われてるね」
アリスは今もちょこちょこ転送されてくる500ピロ玉を見て、手を叩いて喜んだ。
リョー様が使われる度に使用料が俺に支払われる――なんて事よりも。
「精霊同士が手を組んだのって、史上初じゃないのか?」
「そうなのメラメラ――おお、そうみたい!!」
やっぱりそうか。
リョー様ブロマイド。
俺が知らないところで、史上初の快挙を成し遂げていた。