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273.プルンブムとの逢瀬

 テトラミンの街、『燕の恩返し』支店。


 次々と持ち込まれてくる買い取り品、プルンブム産の様々なミルク。

 その買い取り品と冒険者で、店内はものすごく賑わっていた。


「はい、買い取り金額の二万ピロです」


 店員の一人が冒険者にお金を渡して、代わりに武器を受け取った。


「あれは?」


 俺は横に立っている、一緒に目の前の光景を眺めている、テトラミンダンジョン協会長のデールに聞いた。


「リョータ様が用意してくれた武器、しばらくの間レンタルのみにする事にしました。まだ数が少ないので、買い取りだと持ち主がダンジョンに行かない日もあるので」

「なるほど、貸し出して、買い取りの時に返却するって事か」


 デールははっきりと頷いた。


「最初は武器の数が少ない間の応急処置だったのですが、これが免許としても機能してますので、今後もこのまま行こうかと思ってます」

「なるほど」


 俺は頷いた。

 いい方向に作用しているのなら何よりだ。


「ふう、今日も稼いだ稼いだ」

「飲み行こうぜ」

「おう! 今日はちょっといい店に行こうぜ」

「賛成」


 俺たちの横をすり抜けて、店の外に出る冒険者の一団。

 やりとりがものすごく景気が良かった。


「おお……少し前からはとても想像出来なかった光景……」


 それを聞いたデールが感極まっていた。


「よかったな」

「はい! 実は昨日すごい話も来ているのです」

「すごい話?」

「銀行がこの街にも支店をだしたいって打診が」

「へえ、すごいじゃないか」


 俺は素直に感心した。


 数多くの商人の中でも、銀行ほどストレートに金のにおいに敏感な所もない。

 それがこの街に目をつけたってことは、テトラミンの更なる発展に確信を持ったからなんだろう。


 すくなくとも、金の流れが増えるって事だけは間違いない。


 今は、とりあえずそれで十分だろう。


「リョータ様」

「うん?」

「本当に! 本当にありがとうございます!」


 デールは俺の手を取って、力強く握り締めて、何度も、何度も頭を下げた。


 デールに頼まれた事とは違ったけど、テトラミンはもう大丈夫だな。


     ☆


 転送部屋を経由してやってきた、プルンブムの部屋。


「おお、よくぞ来てくれたのう」


 いつもの様に、手元に視線をおとして何かを書いているプルンブムが、顔を上げて、笑顔で俺を迎え入れてくれた。


「よく俺が来たことがわかったな」

「ふふ、当然じゃ」


 何が当然なのだろうか。

 最初の頃は声を掛けていた。声を掛けると顔を上げてくれる……当たり前の光景だ。

 何日か経ったころには声を掛ける前から顔を上げるようになった。

 足音とかで判別してるんだろうか。


「そなたの気配は、天と地がひっくりかえろうとも見逃さぬ」

「ちょっと大げさなんじゃないのか?」

「そんな事はない!」


 プルンブムは強く主張した。


「そなたの存在を感じ取るだけで、こう、胸がじんわりと温かくなるのじゃ。これほどの甘美な物をむざむざ見逃すなどあり得ぬこと」

「そうか。それよりも……今日は何を描いてるんだ?」

「うむ、そなたは冒険者といったな」

「ああ」


 頷く俺。


「様々なダンジョンにいき、様々な難事件を解決したと聞く」

「まあそれなりに」

「それを書き留めているのじゃ。他のダンジョンなど知らぬから、ほとんどが空想で補完しているがのう」

「へえどれどれ……って、マンガになってるじゃないか」

「ほう、これマンガというのか」

「しかも上手い! 独学でこんなにかける人はじめて見たぞ」


 プルンブムが書いてる物は、プロのマンガ家に勝るとも劣らない程のクオリティをした生原稿だった。

 一枚や二枚じゃない、かなりの量がある生原稿。

 クオリティと量、両方兼ね備えた原稿の山は、印刷して製本してしまえばもうマンガになるレベルだ。


「ああ、俺がやたらと格好いいのはそのままなんだな」


 マンガに描かれている俺はやっぱり少女マンガの主人公だった。


「何度も言うが見た目通り描いてるだけなのじゃ」

「そ、そうか……お? これは……お前か」

「う、うむ」


 プルンブムは頬を染めて、微かに頷いた。

 マンガに登場してきたヒロインはプルンブム本人だった。


 こっちは脚色無し、ほとんど彼女そのままでそっくりに描かれている。

 もっともプルンブムはものすごい美女だから、そのままで「リョー様」を上回る位の存在感がある。


「ほうほう……これってもしかして……エミリーの話か?」

「う、うむ。そなたが話してくれた物語を書いてみたのじゃ」

「なるほど」


 ちょっと面白かった。

 マンガは、俺とエミリーが出会った物語だ。


 スライムからドロップされたらしいという俺の異世界転移から始まって、エミリーに竹槍を借りて、必死にダンジョンで稼いで、最初のアパートを借りた話。


 自分がやった事がマンガになる、なかなか無い経験で、ちょっと面白かった。


「あれ?」


 マンガは、エミリーが俺に「一緒に住もう」といった所まで描かれている。

 話はここで終わりだ、このエピソードはプルンブムにここまでしか話していない。


 なのに、原稿には次のページがある。


「どういう――」

「うわああああ!」


 プルンブムは大声を出して、俺の手から原稿をひったくった。


「ど、どうしたんだ?」

「なんでもないのじゃ」

「そうか? じゃあそのマンガの続きを――」

「これはだめじゃ」

「え?」

「こ・れ・は・だ・め・じゃ」


 プルンブムはものすごい怖い顔で俺を睨んだ。

 出会ったころを彷彿とさせる、人間嫌いで侵入者絶対殺すマン的な顔だ。


「お、おう、わかった」


 俺は引き下がった。

 そこまで嫌がられちゃ無理強いする事もない。

 マンガの読みかけで先が気になるのはむずむずするが、しょうがない。


「……こんなの見せられぬのじゃ。妾の妄想、こんなはしたない女だと知れば嫌われる……」


 プルンブムはぶつぶつと何かをつぶやいていた。


「どうした、大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃ! それよりももっと話を聞かせてたも」

「うん? ああそうだな」


 俺は彼女の向かいに座った。

 原稿を見ないように意識して、彼女だけをまっすぐ見みつめた。


「今日はなんの話をしてくれるのじゃ?」

「そうだな……順番的に、次はアウルムと出会う所だな」

「アウルム……妾と同じ精霊じゃな」

「ああ」

「何をどうやった、聞かせてたも!」


 プルンブムは俺に詰め寄ってきた。

 キラキラする瞳、わくわくする表情。


 はじめて彼女とあった時からは想像もつかない、生き生きとした表情。


「ほんとうによかった……」


 デールに誘われたのがきっかけだが、ここにきて本当に良かった。


 俺は満足しつつ、嬉しそうに笑うプルンブムとの一時をすごしたのだった。

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