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272.ブロマイドの新たな使い道

「あれ? マーガレットじゃないか」


 この日、プルンブムの部屋からダンジョンの方に出ると、知っている顔に遭遇した。


 金色のふわふわヘアーに清楚な赤いリボン、お淑やかな見た目にとてもよく似合っている純白のドレス。

 腰にある大きな白いリボンを揺らしながら大剣を振るってモンスターにトドメを刺している。


 マーガレット。


 この世界でもっとも俺と似ている、リョータファミリー傘下、マーガレットファミリーのリーダーだ。


「リョータ様!」


 俺の事に気づき、振り向いた瞬間、マーガレットは華やいだ表情で駆け寄ってきた。

 その背後にはいつもの通り、姫を守る四人の騎士が付き従っている。


 確か名前は――ラト、ソシャ、プレイ、ビルダーだったっけ。

 ……誰が誰なのかは実はよく知らない。

 本人達が意図して、「姫様を影からお守りする」に徹して、各々の個性を消しているからだと思う。


「お久しぶりですわ!」

「久しぶり。プルンブムに来てたのか」

「ええ、噂を聞いて。これは是非来なければと思ったのですわ」

「噂? マーガレットを来させるような噂ってなんだ?」


 ここ最近プルンブムダンジョンとテトラミンに深く関わってるけど、それっぽい事に心当たりはない。


 マーガレット姫、空気缶とツアー権を商品にしているアイドル冒険者。

 ミルク――畜産ダンジョンプルンブムとは縁がないはずだ。


「それは――」

「姫様、次のモンスターが現われました」

「いけない、そろそろでしたわね」

「露払い、させて頂きます」


 騎士の一人――どの名前の人なのかは覚えてないけど、毎回四人のうちのリーダーっぽく振る舞っている人が恭しく頭を下げた。


「ちょっと待ってくださいね」

「それはいいけど」


 どういう事なのかと不思議がっていると、マーガレットたちはモンスターに向かって行った。

 相変わらず完成された戦法である。


 先行する四人の騎士が攻撃をしかけて、モンスターを弱らせる。

 その見極めは完璧だった。

 四人がものすごい猛攻をしかけたと思ったら、ある瞬間ピタッと攻撃の手が止む。

 攻撃されたモンスターはというと、ヘロヘロで誰の目にも分かる瀕死だ。


 それをマーガレットが更に一歩踏み込んで、大剣をぶん回す。


 能力の一枚目がオールFで、全冒険者中最弱。

 しかし二枚目のドロップがオールAで、全冒険者中最強のドロップ率。

 マーガレットは「トドメに特化」する事で光る冒険者だ。


 大剣が瀕死のモンスターを切り裂いて、アイテムがドロップした。


 牛乳じゃなくて、リョー様ブロマイドだ。


「やった! 出ましたわ!」

「「「「おめでとうございます」」」」


 ブロマイドを手にして大喜びするマーガレット。

 それに対し、四人の騎士はさっと片膝をついて、頭を垂れた。

 相変わらず「姫と騎士たち」が美しく完成されたファミリーだ。


「なんだ、それ目当てだったのか」

「はい、そうですわ」


 マーガレットはリョー様ブロマイドを大事そうにしまった。


「使わないのか?」

「そんな! 今使うなんてとんでもない!」

「そうなのか?」


 じゃどんな時に使うんだろうと不思議になった。


「はい! さあどんどん行きますわよ。ラト、ソシャ、プレイ、ビルダー」

「「「「はっ」」」」

「それではリョータ様、申し訳ありませんが……」

「ああ、邪魔して悪かった。またどっかで」

「はいですわ」


 マーガレットが去っていくのを見送った俺。


「本当、なんで使わないんだろう」

「最近使わない流れが出来たんですよ」


 いきなり横から声を掛けられて、驚く俺。

 デールがいつの間にか横に来ていた。

 ちょっと驚いたが、すぐに落ち着いて、聞き返した。


「使わないって、なんでだ?」

「あれを様々な冒険者が使っていくうちに一つの特性が発見されまして。召喚されたリョータ様――」


 リョー様だけどな。と心の中で突っ込んだ。

 あの少女マンガチックなのがストレートに自分だって言われると恥ずかしい。

 『リョー様』ならまだ別キャラだと言い張ることができる。


「――は、一番近くにいるモンスターに一撃を加えて、その直後に消えるんですよ。 モンスターがいなければ、攻撃も消えることもなく、その場で棒立ちになってしまう」

「へえ、そうなのか」

「それを利用して、警備用に転用する動きがあるんです」

「……ああ」


 俺は納得した。


 リョー様はアイテムじゃない。ブロマイドならアイテムだが、リョー様はそうじゃない。

 ブロマイドからは元の宙に浮く魚モンスターが孵るが、リョー様はハグレモノに孵らない。


 そして強大な攻撃力があって、更にモンスターが現われるまで棒立ちで、見つけた瞬間攻撃をしかけるから、自動警備ロボとして使える性能だ。


「それでブロマイドそのものもかなりの値段で売れるようになって、使わずに換金する人が増えました」

「なるほど、マーガレットもそうなのかな」


 彼女が使わずに仕舞ったのを、何となく納得した。


     ☆


 ゲートを経由して、屋敷に戻ってきた。

 さて次はアウルムを経由して、リョータの村で加速弾を回収してくるか。


 なんて、思っていると。


「ありがとう! セレストさん」

「お礼を言われるまでもないわ。ちゃんと報酬をもらっているもの」

「はい、ありがとうございます」


 離れた所から仲間の声が聞こえてきた。

 とても聞き慣れた声ですぐに誰なのかが分かった。

 セレストと、エルザの二人だ。


 話の内容が気になって、転送部屋を出て、声の方に向かって行った。


 屋敷の奥の部屋、『燕の恩返し』の出張所にエルザはいた。

 既にセレストはどこかにいった後みたいで、エルザは一人で部屋の中にいた。


 ポン、とドロップ品が転送されてきた。

 山ほどの花だ。


 多分エミリーのドロップ品だろう、それが魔法カート経由で転送されてきた。

 それをテキパキ集計するエルザ、数字を台帳に書き込んでいる。


 『燕の恩返し』出張所。

 リョータファミリーの収穫はカスタムの魔法カートを通してここに転送されて、専属で派遣されたエルザがそれを集計する。


 そういえばエルザが仕事する所ってあまりみたことがない。


 他の仲間達は一緒にダンジョンに行くこともあって、普段どうしてるのか大体分かる。

 エルザはそうじゃないからあまり知らない。

 普段はどうしてるんだろう?

 それが気になって、声を掛けるのをしばらく待って、観察しようと思った。


 ――が。


「リョータさん」

「うわっ! ってセレスト。まだいたのか」


 背後からいきなりセレストが現われた。


「ええ、それよりもリョータさん、ちょっとお願いしたい事があるの」

「お願いしたい事? わかった、なんだ?」

「一緒に来て」


 仲間から頼まれごととあっては断る訳にはいかない。

 俺はセレストの誘いに乗って、身を翻して、一緒にこの場から離れた。


「武士の情け……いいえアフターサービスよ」

「どうしたんだセレスト、振り返ってぶつぶついって」

「いいえ、なんでもないわ。さあいきましょう」

「ああ」


 改めて、俺はセレストと一緒にこの場から立ち去った。


     ☆


 亮太とセレストが立ち去った後の、『燕の恩返し』出張所。


 つい直前まで見られていたことを知らないエルザは、転送が一段落したところで、彼女はセレストから入手してもらった物を取り出した。


 今、一番人気でホットな商品。

 プルンブム産の、リョー様ブロマイド。


「リョータさん……」


 エルザは頬を染めて恥じらいながら、ブロマイドを使った。

 少女マンガタッチの亮太――リョー様が召喚された。


 リョー様は召喚されたあと、周りにモンスターがいなければ棒立ちをしてしまう。


 『燕の恩返し』の出張所。

 当然ながらモンスターはいなくて、花をバックにしょったリョー様はキラキラと動かずにいた。


「うふふ……」


 そのリョー様を見て、更に恥じらって微笑むエルザ。

 彼女はそっとリョー様を座らせて、自分もその横に座って。


 一人っきりの仕事場で、エルザはリョー様に膝枕をして、うっとりとしてしまう。


 ごくごく一部の間で、リョー様をこのように使う人が増えているという……。

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