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269.精神○時○部屋

 夜、屋敷の地下室。


 夕食の後、俺は一人でこそこそ地下室に来た。

 地下室の一番奥、離れた場所にポケットから出した鍵を置く。


 プルンブムのダンジョンマスター、彼女(プルンブム)が10000%美化した俺っぽいヤツがドロップした鍵。

 あれから色々試したが、アイテムとしての効果はまったく無かった。


 ならば通常効果は捨てて、ドロップSでハグレモノにして強化・再生してみようと判断した。


 だから一人で地下室にやってきた。

 仲間達を避けて、こそこそと。


 なぜなら――。


「あー、リョータここにいた」

「何をしてるのよ、エミリーがクッキーを焼いたわよ。さあ、さっさとサロンに戻ってお茶をするよ」


 陽気コンビ、アリスとアウルムが現われた。

 アウルムがミーケと組むようになって、行動に制限がなくなってからは、二人は一緒に行動する事が多くなった。


 どちらも陽気で直情的な性格で、かつ可愛らしいモンスターを連れ回してる。


 まるで姉妹、それか長年の親友のように仲良くなった。


 その二人が俺を探しにきた――最悪のタイミングで。


 奥においた錆びた鍵が時間経過でハグレモノに孵った。


「わわわ、この空気って」

「ダンジョンマスターね。邪魔になるタイミングにやってきちゃったね」


 と、二人は空気を感じ取り、申し訳なさそうな表情をした――のも、ほんの一瞬だけのこと。


「なにあれ、あははははははは」

「ぷっ……リョータ? リョータよねあれ」

「リョータがキラキラしてる、バックに薔薇背負ってる。ぎゃはははは」

「笑っちゃだめよ……ぷぷっ」


 10000%美化俺、ダンジョンマスターの姿をはっきり視認すると、二人は盛大に笑い転げた。


「あーおかしい……りょーちん!」


 何故か、アリスは召喚魔法「オールマイト」でりょーちんを呼んだ。

 この瞬間、俺と俺のパチモノ二体、合計三人が地下室に存在した。

 一堂に会すこの光景、なかなか強烈だ。


「なに、どうしたのいきなりその子呼んで」

「いやさ、こっちのこの子、いかにも『りょーちん』って顔じゃん?」

「そうね、どこからどう見ても『りょーちん』って顔ね」


 意気投合するアリスとアウルム。どうやらネーミングセンスも一緒みたいだ。

 いかにも『りょーちん』顔ってどういう顔だ――と思ったが分からなくはない。


「だからさ、あれ、なんて名前なのかなって思って」

「そりゃあ……ねえ」

「だよねー」


 アリスとアウルム、二人は意味深に頷き合ってから。


「「リョー様」」


 ユニゾンした。


 おっふぅ……って感じだ。


 こういう事になりそうだと思ったから、こそこそやってたのに、結局見つかっていじられる羽目になった。


「りぺてぃしょん……」


 俺はがっくりきて、最強周回魔法でリョー様を倒した。

 ハグレモノリョー様が消えて、黄金の鍵をドロップした。


 最初の錆びた鍵と形は一緒だが、色が黄金色になって、キラキラと光り輝いていた。


「ありゃりゃ、倒しちゃったよ」

「もうちょっと見たかったのに。ねえ、そういえばリョータって召喚魔法とか使えた?」

「え? どうだろ、なんで?」

「使えるのならさ……白馬呼び出して乗せると似合うじゃん?」

「乗りそう! あっ――バイコーンいるじゃん!」

「白い二角獣! リョー様とバイコーン。いいね、似合うね」


「やめてお願い」


 俺はますますがっくりきた。

 二人の盛り上がりが今はつらい。


「白馬なくてもすごく絵映えするけどね」

「ねー、有名な画家を呼んで描かせたい。あっ、彫像とかもいいかもね

「彫――はっ!」」


 俺はパッと駆け出した。

 地下室からでて、廊下に飛び出した。


「――」


 窓の外にセルがいた。

 目があった彼はシュバババ、って感じで逃げ出した。


「……マジかよ」


 俺は絶望した、そして諦めた。

 この世界で造幣権利を支配している一族の、その更に重鎮。

 セル・ステマ。


 ものすごく偉い人だが、何故か俺の大ファンで、ことあるごとに俺の「活躍」を銅像とかフィギュアにしている。


 多分見られた。


 リョー様、フィギュア化決定!

 なんて、ラノベ風の告知が頭の中に浮かんだ。


 俺は肩を落として、トボトボと地下室に戻った。


「おかえり、どしたの」

「せるガイタ……」

「って事は銅像化決定ね!」

「なんで嬉しそうなんだ……」


 あきらめがゴールまで到達して、一周回って笑いがでた。

 あっちの事はもうどうしようもない、忘れよう。


 こっち――アリスとアウルムの事も忘れよう。

 仲間だし……うん忘れよう。


 それよりもドロップ品だ。


 俺はリョー様がドロップした、黄金の鍵を取り出した。


「それがさっきドロップしたアイテムだよね」

「ああ」

「どういうものなの?」

「わからん。錆びた鍵から黄金の鍵に変わったから、パワーアップしたんだろうけど……元も知らないからな……」


 俺はなんとなく、鍵を持って、解錠するかのようにひねってみた。

 すると――ドアが現われた。


 だだっ広い、何もない屋敷の地下室にドアが現われた。


「なにこれ! 秘密の部屋っぽい!」


 アリスは大興奮した、肩に乗ってるモンスターたちも可愛らしく盛り上がった。


 一方で、俺はドアをじっくり観察した。

 部屋のまん中に、まるでサンプル品のようにドーンと立っているドア。

 ドアの上に数字があって、電卓の様な書体で「01」と表示されていた。


「01……どういう意味なんだろうな」

「一人だけ入れるってことかな」

「それか一回だけ入れる――普通に考えたらこの二つのうちのどれかだな」

「入ってみよっか」

「待て、アウルムは後だ」

「なんでさ」

「ドアがダンジョン属性って可能性もある。ミーケがいるとは言え、そういう場合危険が伴うかも知れない」

「……ちぇ」


 アウルムは唇を尖らせながらも、聞き分け良く引き下がった。

 ダンジョン属性ってのは俺が今作った言葉だが、精霊である彼女はダンジョンの出入りで消滅するっていうことを本人もよく分かってるから、すぐに理解した。


「じゃああたしかリョータだね」

「そうだな」

「よし、あたしがいこう」

「いいのか?」

「うん! なんかさ……すっごいわくわくするにおいがするんだ」

「なるほど」


 やっぱりダンジョン属性なのかなって思った。

 ダンジョン生まれのアリスは、ダンジョンのいろんな事を「におい」の違いで嗅ぎ分けられる。


 彼女がそう言うからには、ドアの向こうはダンジョンかそれに類する空間の可能性が高い。


「だからあたしに行かせて」

「分かった。気をつけてな」

「うん! じゃあアウルムちゃん、いってくんね」

「大丈夫だったら次はあたしだからね」

「りょーかい! ほいじゃ!」


 アリスはテンション高いまま、ドアを開けて中に入った。

 彼女が入って、ドアが自動的に閉まった途端。


「01」が、「00」になった。


「減ったね」

「人数か回数か、これだけじゃ分からないな。01と00って事は増やす事も出来るのか、どうやってだ?」

「リョー様ときゃっきゃうふふを繰り返すとか?」

「それしかないか――ってその表現やめっ」


 つっこみつつ、可能性の一つではあると思った。

 あのダンジョンマスターを倒して、鍵を増やして人数の上限を増やす。


 ほかには日数経過か。

 毎日1とか2とか、数が増えたり回復したりするパターンだ。


 そのあたりも詳しく検証を――。


「たっだいまー!」


 ドアの中に入って約一分、アリスはハイテンションで戻ってきた。


「早かったな、どうだったなか?」

「それがね、ってかね、あたし中にはいってどれくらいたった?」

「どれくらいって……」

「……一分かそこら、かな?」


 俺はアウルムと互いを見て、頷き合った。


「ふっふふーん」


 それを聞いたアリスはますますハイテンションになった。


「なんと! あたし、中に一日いたんです!」


 アリスは腰に手を当てて、もう片方の手を突き出してVサインをした。


 ――って、中に一日?


「どういう事なのよ」

「中に説明文があったんだけど。なんか中の一日は外の一分ってことらしいんだ」

「うーん、よくわからない」

「……いや」


 よく分かるよ。

 夢の様な、俺くらいの歳の男の子なら一度は夢見る、夢の様な部屋だ。


 ドアの上に表示された「00」。

 このドア、いや部屋の事を。

 もっとよく知りたい、俺は強くそう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出した本人が何で入らんの?どう考えても状況的におかしいやろ。それをおかしいと思わず書けるところがわからんわ。
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