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268.プルンブムフィルタ

 次の日。


 プルンブム一階、しばらく待ってると、ゲートが開いた。

 ゲートからイヴが現われて、俺の前に立った。


「お待たせ」

「ありがとう」

「気持ちはニンジンで」

「今夜山ほど用意する」

「ん」


 イヴは満足げに頷き、俺の手を取って、一緒にゲートをくぐった。

 まばゆい光に包まれた後、俺は屋敷の転送部屋にいた。


 イヴが開通してくれたゲート。

 これで、プルンブムの全階層にいける様になった。


「それじゃ」


 イヴは身を翻して、立ち去ろうとした。


「そうだ、イヴも行くか? せっかくだから彼女を紹介するよ」

「あのダンジョン、興味ない」

「そうなのか?」

「期待してたけど、ウサギの乳がなかった」

「ん?」


 言いたい事を言った後、イヴは今度こそスタスタと立ち去った。

 ウサギの乳って――兎乳って意味か?


 そんなものあるわけが――いや。


「ウサギって……哺乳類だっけ」


 小学校の時に飼育委員会でウサギ小屋の世話をしてた頃のことを思い出す。

 ウサギにも乳があって子供に授乳はする……が。


「ドロップ品にそれがあったら困るぞ」


 期待してたらしいイヴには悪いが、なくて良かったと俺は思った。


 俺は気を取り直して、転送部屋を使った。

 一度行ったことのあるダンジョンの階層なら無条件でいける、屋敷の転送部屋。


 プルンブムの部屋を指定して、光の渦がいつもの様に出来たのを確認して、そこに飛び込む。

 普通にやったら一日以上はかかる距離を、一瞬で転送された。


「おはよう」

「ほんとうに来た……」

「約束したろ」

「……うむ」


 プルンブムは嬉しそうに微笑んだ。

 やっぱり彼女は笑っているのが一番似合う。


「の、のう」

「うん?」

「もっと……そなたの事を聞かせてたも」

「俺の事?」

「そうじゃ……た、例えばあれじゃ。妾が押しつぶそうとしたとき耐えてたではないか」

「ああ、あれね」


 俺がダンジョン攻略用にいつも持ち歩いてるアイテムの一つ、アブソリュートロックの石を取り出した。


「これを使ったんだ。アブソリュートロックってモンスターからドロップしたアイテムで、使うと無敵モード……防御力がものすごく上がる」

「それでカメに押しつぶされずにすんだのかえ?」

「そうだ」

「すごいのう……あれはものすごい圧力がかかってたはずなのに……」

「倍々で増えてったからなあ」

「そういえば何かを撃ってたよな?」


 プルンブムの「よな」という語尾の耳さわりが良くて、ちょっとだけ聞き惚れてしまった。

 古風な貴人っぽい喋り方のそれはいつまでも聞いてたいって気分にさせられる。


 俺は彼女の質問に片っ端から答えていった。

 プルンブムは俺の事にものすごい興味をもってるみたいで、次々と聞いてきた。


「ふむふむ、それははじめて知ったのじゃ」


 常にまっすぐ俺を見て、答えたことに真剣に頷いた、時には大げさなくらいに驚いたり。

 反応が大きくて、話しやすかった。


「さて、そろそろおいとまさせてもらうよ」

「も、もうなのかえ?」

「また明日も来る。心配するな」

「し、心配など……」


 プルンブムは頬を染めて、俺から目をそらしたり、かといってまた見つめて来たり。


「そ、そなたが約束を違えぬ男なのは分かっておる」

「ありがとう。それじゃまた明日」

「うむ、また明日」


 互いに別れを告げて、俺は、彼女から髪の毛を一本もらって、ダンジョンをでた。


     ☆


 翌日。

 プルンブムの髪の毛をまずカスタムカート屋のオルトンに届けた。

 それを武器にいれてくれって頼んだ。


 モンスターの一部やそのものを加工して道具にするのが得意なオルトン。

 まずは、彼に武器の試作を頼んだ。


 話を聞いてくれたオルトンは、テストとして、通常弾にプルンブムの髪を合体させてくれた。


 これを俺がまず使ってみる。テストしてみることにした。


 そうしてから屋敷に戻って、いったんプルンブム一階に転送して、テトラミンにでた。


 分裂の対策であるプルンブム武器、今後はそれを冒険者に配給、もしくは販売する事になる。

 その事をどこか引き受けてくれる商人はいないか、それを探そうとした。


 が、ダンジョンからテトラミンにでた瞬間。


「ああ! リョータ様!」

「うん?」


 切羽詰まった声に振り向くと、そこにテトラミンの協会長、デールがいた。


 彼は汗だくで、必死な形相をして俺に駆け寄ってきた。


「どうしたんだ?」

「出たんです! ダンジョンマスターが!」

「なに!?」

「ダンジョンの中で暴れ回ってます。攻撃したら分裂するかも知れませんので、誰も手がでません」

「分かった。俺が行く」


 でたばっかりのプルンブムにまた入った。

 さっきは気づかなかったが、確かにダンジョンマスターがでている時のオーラがする、それにほかのモンスターもまったく見当たらない。


 こうしちゃいられない、と、俺はダンジョンを駆け下りていった。


 次々と駆け下りていき、地下15階にやってきたところで、そいつと遭遇した。


「……へ?」


 間抜けな声が出た。

 目の前に鏡があったらおそらくものすごい間抜けな顔をした男の顔が拝めただろう。


 目の前にいたダンジョンマスターは人型だった。


 成人男性で、プロテクターにジャケットを着て、二丁拳銃を持っている。


 まるで俺みたいだが……。


「俺、薔薇背負ってたりキラキラしてないよな……」


 脱力したままつぶやいた。

 アリスの召喚魔法で呼び出したりょーちんと同じように俺っぽいが、方向性はまるで違っていた。


 りょーちんは俺がぬいぐるみのようにデフォルメした外見だ。

 そのため愛嬌があって、見ていて変な気分にはならない。


 だけど、このダンジョンマスターは違う。

 一言で言えば、少女マンガの主人公――じゃないな。

 ヒロインの事をなんだかんだで好きになってしまう、万能超人男子みたいな感じだ。


 やたらとキラキラしたり、背景に薔薇を背負っていたり。


 なんというかもう、画風が違う世界だ。


 なんでこんなことに――などと悩む暇もなく。


 ダンジョンマスターは銃を構えて、銃弾を撃ってきた。

 まっすぐ飛んでくる、なんの変哲もない銃弾。

 それを弾き飛ばすと、今度は踏み込んで、肉薄して接近戦を挑んで来た。


 ちょっとほっとした。

 りょーちんみたいに俺と同じ強さだったら分裂も相まってやっかいだったが、速度もパワーもたいした事なかった。


 ステータス換算で、オールAって所だ。


 この程度なら倒せる。

 俺は攻撃にならない程度にダンジョンマスターを拘束して、たった一発だけ作ってもらって試作の弾丸、プルンブム弾をそいつの脳天にぶち込んだ。


「……うげ」


 自分っぽい顔をした少女マンガ風イケメンが脳天に銃弾を喰らって倒れていくのはあまり見てておもしろいもんじゃない。

 が、倒す事は出来た。


 俺っぽいダンジョンマスターがドロップしたのは鍵。

 錆びた鍵だ。

 それをとりあえず拾って、ポケットに入れる。


 ダンジョンマスターは倒れて、ダンジョンに再び普通のモンスターが戻ってきた。


 ダンジョンをでて、入り口で待っていたデールに報告した。


「もう大丈夫だ」

「おお! さすがリョータ様。この一瞬でダンジョンマスターを倒してくれてありがとうございます!」

「気にしないでくれ。それよりも相談したいことがあるんだ」


 俺は武器の事をデールに話した。

 プルンブム武器を使えばモンスターが分裂しなくなるって事を話した。


「なんと! そんな武器が!」

「明日に試作品第一号を持ってくる」


 プルンブム弾はさっき使ったけど、ほかの冒険者でも使えるという意味での本当の試作品は明日になる。


「それで、武器の流通と管理を頼める人がいる、頼めるか」


 聞くと、デールは何故かジーン、と感動したっぽい反応をした。


「お任せ下さい! 私が責任持ってなんとかします!」

「そうか?」

「はい! リョータ様に頼ってもらえるなんて……絶対になんとかします」

「わかった。じゃあ頼む」


 これでこの件はひとまず終了。さて今日もプルンブムの所に行くか。


 地下一階にはいって、ここに来た転送ゲートを使っていったん屋敷に戻って、そのままプルンブムの部屋に転送した。


「おはよう、今日も来たぞ」


 声を掛けるが、反応はなかった。

 よく見ると、プルンブムは一心不乱に何かを書いている。


 何を書いてるんだろう、そう思って近づいて肩越しに見たが。


「うおーい!」


 本日二度目の、変な声が出た。

 プルンブムが書いてたのは、俺。


 正確に言えば、少女マンガ風イケメンの俺。

 つまりさっきのダンジョンマスターだ。


 彼女は一心不乱にそれを書き切ってから。


「ダメじゃな……本人はもっと格好いいのじゃ……」

「いやそんな事はないぞ!?」

「ひゃあ!?」


 思わず盛大に突っ込んで、プルンブムを驚かせてしまった。

 が、あえて言おう。


 そんな事はないぞ、と。


 どうやら、プルンブムの(超美化)した俺のイメージが、ダンジョンマスターの姿を作り替えたようだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >どうやら、プルンブムの(超美化)した俺のイメージが、ダンジョンマスターの姿を作り替えたようだ。 そんなことができるなら、モンスターの分裂機能も何とかできそうなもんだけどな?
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