表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
266/611

266.俺を信じろ

 階段を降りた先の部屋に、一人の女の子がいた。

 見た目は幼く見える、アリスと近い感じで、十四、五歳くらいの女の子だ。


 髪は地面まで垂れるほど長く、服装は「和」な感じ――十二単に近いものだ。

 ひな人形か昔の日本のお姫様。

 そんな感じの女の子。


「プルンブムか?」

「人間が……また(わらわ)をたぶらかしにきたのかえ」


 その子――ロケーション的に間違いなく精霊プルンブムの女の子は、敵意を剥き出しにして俺を睨んでいた。


 が、それで一つわかった。

 プルンブムは俺を避けるためにモンスターをなくしたんじゃない。

 人間を拒絶する為にそうしたのだ。


「たぶらかし? 昔人間と何かあったのか?」

「しらを切る気かえ?」


 プルンブムは手を振り上げた。

 瞬間、風圧が俺を襲う。


 腕をクロスして踏みとどまる――が。


「がはっ!」


 全身の至る所に痛みが走った。

 みると、これまでのプルンブムダンジョンに存在していた魚系のモンスターが、どこからともなく現われて、俺に体当たりをしていた。


「待ってくれ! 俺の話を――」

「去ね! 人間と話す事などないのじゃ!」


 激高したままのプルンブム、更に手を振りかざす。

 二度目の攻撃、意識を瞬時に周りに切り替えた。


 複数のモンスターが四方八方にでてきて、俺を取り囲んだ。


 地面を蹴って後ろに飛びつつ、二丁拳銃を抜いて成長弾と通常弾を発射。

 体当たりしてくるモンスターを迎撃、打ち落とす。


「やったな……」

「くっ!」


 このままではらちがあかない。

 とっさに特殊弾を撃つ。


撃ったのは拘束弾。

 光の縄がプルンブムを拘束した。


 手を振り上げようとして、動かないプルンブムは、より激しく怒った目で俺を睨んだ。

 かなり強烈な拒絶の意志を持った眼差しだ。

 ふつうなら気後れそうになるその目を見つめ返して、聞く。


「何があったんだ? 聞かせてくれ。場合によっては力になれるかもしれない」

「ほざくな人間、どんなに耳に心地良いことをさえずろうとも、結局は裏切るのがそなたらであろう」

「……裏切られたのか?」

「そうじゃ!」


 更に激高する、目から火を吹きそうなくらいカッと見開く。


「その話を聞かせてくれ」

「……よかろう。そこまで言うのなら、そなたら人間の罪をとくと思い知るが良い」


 プルンブムは激高した瞳のまま、俺の質問に応えて、話してくれた。


「かつて、一人の男が妾の所にやってきた。強くて、勇敢な男じゃった」


 手練れの冒険者って事か。


「妾が人間とあったのはそれが初めてじゃ。その男は妾に色々人間の事を話してくれた。妾の知らない世界を教えてくれた。お返しに妾も、このプルンブムでだけ発揮する力を授けたのじゃ」


 精霊付きにしてあげたのか。


「男はいったん帰ると言った」


 うん?

 なんか……話の風向きが変わったぞ?


「またくると言った。絶対にまた来ると約束した。妾はそれを信じて送り出した――じゃが!」


 猛るプルンブム、怒りと同調した風圧が俺を襲う。


「ヤツは戻ってこなかった。わらわの与えた力を使うだけ使って、一度も戻ってこなかったのじゃ――そう、死ぬまでな」

「……最近死んだのか」

「そうじゃ。妾が与えた力が戻ってきたのじゃからな。これでわかったじゃろ? そなたら人間は簡単に約束を破る生き物じゃ」

「それは違う」

「何が違う!」

「その人は戻りたくても戻って来れなかったんだよ。人間がここに来るのはすごく苦労するんだ」

「でたらめを! ヤツは『普通にやってたら来れた』と言っていたぞ」

「それは運がよかったのを自覚してないだけ――」

「言うにことかいて!」


 ますます怒りのボルテージが上がっていくプルンブム。

 嘘は言ってないが、それが逆に彼女を刺激した。


「例えその人がそうだったとしても、俺はそんな事しない。言うことは絶対に――」

「もう二度と騙されたりしないのじゃ、そなたら人間に!」


 プルンブムは手を振り上げた。

 とっさに身構えた。モンスターは飛んでこなかったが、代わりにカメがプルンブムの前に現われた。


「リペティション!」


 最強周回魔法、リペティション。

 一度倒したモンスターを無条件で倒す最強の魔法――だが効かなかった。

 よく見たらカメの甲羅はさっきのやつと色が違う。別のモンスターか。


 違うモンスターだが、能力は似ていた。

 カメはさっきのヤツよりも高速に、一秒に一回のペースで倍々増殖した。

 銃を撃つ、硬さは勝るとも劣らない。

 これは止められない――と思ったその時。


 目の前に階段が現われた。

 上に戻る階段は、倍々増殖のカメの中に現われた。


「妾の前から消えろ! 人間」

「――っ!」


 リペティションが効かない、硬さも同等で、約五倍の速度で増殖するカメ。

 それが意味する結果は――。

 俺は歯ぎしりして、プルンブムが出してくれた階段を駆け上がった。


 階段をでるとダンジョンの外に出た。

 ふう…… ひとまず引き上げて対策を練ろう。


 そう思って、身を翻して、ダンジョンを背にして歩き出した――が。


「……」


 思いとどまる、踏みとどまる。

 首だけ振り向き、ダンジョンをみる。


 それは……だめだ。


 プルンブムは人間に裏切られたと思っている。

 ここで引き下がったら、彼女は本当に「ほらやっぱりそうだった」って思ってしまうだろう。

 引き下がれない、会いに行かなきゃいけない。


 分かってもらわなきゃいけない。


 俺はダンジョンに戻っていった。

 一気にプルンブムダンジョンを駆け抜けて、最下層にやってくる。


 街にのこった二本だけのヤギミルク、一本使ったから、正真正銘の最後の一本になったミルクを置いた。


 ハグレモノが孵って、リペティションで瞬殺。

 階段がでた。


 降りて、増殖するカメがいたけど、それもリペティションで瞬殺。


 再び、プルンブムの所に戻ってきた。


「なっ、そなたなんのつもりじゃ」

「話を聞いてくれ」

「ええいうるさいわ!」


 プルンブムは再びカメを出した。

 すぐに倒せないカメ、ものすごい勢いで倍々増殖するカメ。


 階段がまだでた。


「去ね!」

「帰らない」


 俺は静かに、しかしはっきりと言い放った。

 プルンブムはたじろいだ、迷いが見えた。


 その間もカメは増殖を続け、プルンブムの部屋を埋め尽くした。


 アブソリュートロックの石、そしてHPと体力SS。

 無敵モードを発動して耐えることにした。


 ミチッ――。


 体の芯からいやな音が聞こえてきた。

 無敵モード+HPSS+体力SS。


 それでも体が軋むほどの圧力。


「がはっ」


 血を吐いた。口の中に鉄の味が充満した。


「な、なぜそこまで……」


 絶句するプルンブム。


「お前みたいなのを見過ごせない」

「わ、妾みたいな……?」

「こんな所にいる、会いたい人にも会えない、すれ違いで心を痛める不遇な環境にいるのを強いられる」


 プルンブムをまっすぐみる。


「そんなの、見過ごせない」

「――っ!」

「だからどうにかする。それに比べればこんなのなんともない――」


 言葉が途切れた。

 目の前が霞む、意識が遠くなる。

 その間も増殖がつづくカメ、圧力が強くなるのを感じる。


 プルンブムはもちろん影響を受けないが、体がぐちゃぐちゃになりそうなくらいの圧力が俺を襲った。


 限界が来る、意識を手放し――。


 ギリッ!

 歯を食いしばる。気力を振り絞って、意識をつなぎ止める。


「俺を、信じろッッ」

「――ッ!」


 言い終えた瞬間、ふらっ、と足元の感覚がなくなった。


 限界を超えてしまった、ここまでか――と思ったが。


「……本当に?」


 プルンブムの、弱々しい声が聞こえる。


「え?」

「ほんとうに、信じて良いのか?」

「……ああ」

「また会いに来てくれるのかえ?」

「来る。俺が来れない日もあるかも知れないけど、そういう時は仲間に来させる」

「なか、ま?」

「ああ、なんだったら外にも連れ出してやる」

「それは……別によいのじゃが……」


 そうつぶやくプルンブム。

 アウルムと似ているようで、ちょっと違う。


 彼女は外の世界に興味はほとんどないみたいだ。

 誰かが訪ねてくる。

 それだけが望みみたいだ。


「……わか、った」

「え?」

「そなたを……信じてみる」

「……ああ、信じろ」


 俺はふらつく足元を必死で踏みとどまって、プルンブムに強く言いきった。


 彼女は、まるで雪が溶けたかのような。


 やさしい、笑顔を見せてくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] え、精霊なら精霊の部屋への入りにくさを把握してるはずでしょ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ