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262.シャッター街とハグレモノ

 テトラミンに向かう道中、馬車の中。

 俺は、一緒についてきたイヴとセレストに聞いた。


「よかったのか、一緒についてきて」

「低レベル一人では行かせない」

「……え?」


 ものすごく真剣な顔をするイヴに見つめられて、たじろいでしまう。


「それってどういう……」

「アウルムのせい」

「アウルム? なんでそこで彼女の名前が」

「あれにチビがついた」

「ミーケの事か」


 イヴは小さく頷く。


「送り迎えがなくなったから、低レベルは長居しても大丈夫になった」

「確かにそうだな」


 今までは、どこかに出張(、、)していっても、早く帰らないといけないって思いがどこかに働いてた。


 アウルムをダンジョンから屋敷までの送り迎えが出来るのは俺だけだったからだ。

 だから依頼とかを達成したらなるべくすぐに屋敷に戻ることにした。


 問題解決後の観光とかのんびりとか、そういうのを全部切り上げてきた。


 今ならその心配もない。

 テトラミンがどんな街なのかは分からないが、問題解決した後に少し長めに逗留するのもアリかなって思う。


「いたっ」


 イヴにチョップを食らった、おでこがヒリヒリした。


 イヴのチョップは多段ヒットだ。

 あまりにも早すぎて一回しか当ってないように見えるが、本当は一回で何発もやられてる。

 それは扇風機の羽根みたいに、ある程度の速さ=本気さになると逆に遅く見える現象が起きる。


 今のチョップはだいぶ遅くて、痛かった。


「低レベルがいないとニンジンがなくなる」

「なるほど」


 苦笑いする。

 イヴのそれはアウルムの理由と似ていた。


 彼女は俺のドロップSで生産されるニンジンが大好きだ。

 俺が長く戻らないと、彼女は大好きなニンジンにありつけない。


「だからついてきたのか」

「そう」

「でも向こうはニンジンドロップないぞ?」

「ニンジンがないなら低レベルを殴ればいい」

「わかった可及的速やかに問題解決してもどるよ」

「ん」


 イヴは満足げに頷いた。

 今度はセレストの方を向く。


「セレストは?」

「調べて見たのだけど、テトラミン地方は魔力嵐が少ない所らしいわ」

「そうなんだ?」

「ええ、それなら力になれるかも知れないと思ってね」

「そうか、ありがとう」

「どういたしまして」


 セレストは少し顔を赤らめて、微笑んだ。

 セレストがついてきてくれるのなら心強い。

 ありがとうの一言じゃ感謝しきれないくらい心強いぞ。


「なんかお礼をしないとな。何かして欲しい事はあるか?」

「仲間よ?」

「だからって甘えっきりなんじゃ俺の気が済まない」

「そう。じゃあ考えておくわ。思いついたらお願いする」

「ああ、そうして」


 セレストは心なしか、嬉しそうに顔をほころばせた。


 同行する二人の仲間と一緒に馬車に揺られて、テトラミンに向かった。


     ☆


「ひひひーん」


 馬のいななきが聞こえて、馬車が止まった。


 幌を明けて、顔を出して御者に聞く。


「もうついたのか?」

「いや」


 御者は首を振って、前方を見た。

 俺も前を見た。


 たくさんの馬車や人々が集まっている、まるで隊商のようだ。

 集まりの向こう、馬車で三十分位って所の距離に街が見える。


 大半の人間はそっちに視線を向けているが、進もうとしていない。


「どうしたのかしら」


 顔を出してきたセレスト。


「さあ、ちょっと聞いてみよう」

「ええ」

「イヴは?」

「ウサギはニンジンがないと働かない」


 すがすがしいくらいの基準で断られた。

 ちょっと話を聞くだけだから、と。

 イブを置いて、セレストと一緒にとまっている人々の所に向かった。


「どうしたのか?」

「いやあ参ったよ――おお、リョータさんじゃないか」

「ああ」


 頷く俺。

 話しかけた男は俺を知っていた。

 俺は向こうの名前を知らないが、その制服に見覚えがある。


 買い取り屋『燕の恩返し』の制服だ。

 それを見て、彼に話しかけたのだ。


「何かで足止めを喰らってるのか?」

「いやあ、予想外ですよ。今のままじゃ俺たち、街にすらはいれないですよ」

「……?」


 男の、苦笑いと期待のない交ぜになった表情を見て、俺は疑問に小首を傾げたのだった。


     ☆


 テトラミンの街、その入り口。

 やってきた俺とセレスト、そしてついてきた燕の恩返しと、ほかの買い取り屋とかの人達。


 入り口に立つと、状況がすぐに分かった。


 テトラミンは人が住めるような環境じゃなかった。

 街中はモンスター達がうろうろしていて、若干の地獄絵図になってる。


「なんでこんなことに」

「多分、街の運営資金が尽きたのよ」


 セレストは多分と前置きしながらも、ほぼ断言する様に言った。


「ゴミの処理が出来なくなったのよ」

「そういえばフランケンシュタインがおおいな」


 フランケンシュタイン、この世界でゴミから孵るハグレモノだ。


「そうか、セレストは元々ゴミ処理業者に働いてたんだったな」

「うん。街から金が支払われなくなると、私たちもただ働きをするわけにはいかないから、こうなってしまうのよ」

「なるほどな」


 俺はここに来るまで、地方のシャッター街――シャッターがことごとく降りてる商店街の様な寂れ方を想像していた。


 実際は想像とはまったく違った、この世界で街が寂れるとこうなってしまうんだな。


 背後をちらっと見た。

 商売をしに来た彼らの中に、戦闘員はいなかった。

 だから街に入れなかった。


 俺の視線に気づいたセレストが言った。


「多分ここまでの惨状を想像してなかったんだと思うわ」

「なるほどな。いやでも土地の買い占め……は実際に来なくてもできるか」


 それこそ机の上で、書類を右から左へ移動するだけで出来そうなことだ。


「なら、まずはこれを一掃する所からだな」

「手伝うわ」

「じゃあサポートを、俺の討ち漏らしを頼む」

「分かったわ――銃は使わないのかしら」

「ああ」


 俺は頷き、自然体で歩き出した。

 無造作に歩いて、ハグレモノの群れの中に突っ込んでいく。


「リペティション」


 最強周回魔法、リペティション。

 一度倒した事のあるモンスターを、問答無用で倒してしまう魔法。


 この魔法を使うと、同じモンスターの二度目以降は「結果を見る」のと同じことになる。


 俺は進みながら、何も確認しないで、とにかくリペティションを撃ちまくった。


 モンスターが次々と消える。

 フランケンシュタインを中心に、俺が倒した事のあるモンスターが次々と消えて行った。


 倒した事がなくて、消えないモンスターは。


「イラプション!」


 セレストが大魔法で片付けていく。


 俺が無視したモンスターの中には強いモンスターもいるのかも知れないが、それでも。

 出会った頃よりも遥かに強くなったセレストに、完全に任せる事にした。


 まるで油汚れを落とした洗剤のように。


「「「おおおおお!」」」


 俺とセレストは感嘆の声のなか、テトラミンに巣くうハグレモノを一掃していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 600頁もあるのに間延びなどを感じず次の展開が常に気になる展開の小気味良さが素晴らしいです。 多くの小説が200項前後で完結してますが、まだまだ飽きが来ず読み進めてます。楽しい内容ですね!…
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