258.軟投派リョータ
テルル地下一階。
この日は効率的な周回のために、モンスターを倒していた。
マッティアの一件でランタン20階のやり方を二回更新したが、自分が普段通ってるダンジョンはやり方が古いって事に気づいた。
それでテルル一階に来ている。
「ふっ!」
スライムを掴んで、少し離れた所においてる魔法カートに投げる。
レイアが守っている魔法カート。
スライムはその真上に到着した瞬間、じゅわっと溶けて、そのまま消えてもやしになった。
ドロップしたもやしは魔法カートの中に落ちた。
スライムを掴んで投げる、体当たりをしてくるのを受け止めて投げる、飛んで来たのをダイレクトボレーで蹴り飛ばす。
その場その場のやり方でスライムを魔法カートに飛ばした。
魔法カートの上には無炎弾――火炎弾と蒼炎弾の融合弾を撃ってある。
スライムはそれに触れた途端即死して、ドロップが魔法カートの中に入る。
「どうだ、レイア」
「計算中……前のやり方に比べて、ほんのわずかに効率が劣っています」
「やっぱりダメか」
「マスターが敵モンスターに向かって行くまでは効率が上回っています。その後の復活待ちがロスになっていると推測します」
「探しに行けないからな、無炎弾は撃ったらそこに固定だから。かといって無炎弾を移動する度に使ってちゃそれはそれで――」
「はい、更に効率が下がると思われます」
「だよな。無炎弾をちょうどいい高さにうって、その真下に魔法カートを置かないといけないからな」
そこにロスが生まれる。
例え融合弾の発生精度あげてもまだロスな気がする。
「このやり方で、私が魔法カートを押せれば効率は上昇すると思われます」
「ふむ……」
俺はあごに手をあてて考えた。
確かにそれは効率が高そうだ。
レイアがカートを押して――いやこの場合合体して、アームでカートを引っ張ってきた方がいいか?
そのカートの上に敵を投げて倒せれば効率は更にあがる。
問題は無炎弾が動かない事なんだよな……。
「きゃっ」
離れた所から聞こえてきた小さな悲鳴が思考に割り込んできた。
顔見知りの女魔法使いがスライムに攻撃されて負傷した。
特に何も考えずに、無限回復弾を彼女にうった。
「ありがとうございます」
彼女はぺこりと頭を下げた。
そのまま戦ってるスライムの周りをぐるぐる回る。
スライムは紫色をしていた。
彼女の戦闘スタイルだ、毒魔法を使って、割合のスリップダメージで倒すやり方。
毒にかかったスライムの周りで手を出さないでぐるぐる回る。
しばらくして、スライムがじゅわ、と溶けてもやしをドロップした。
いつ見ても不思議な倒し方だ。
スリップダメージ――継続ダメージで倒れたモンスターは、何もされてないのに急に死んだ風に見える。
俺にはあわないが、結構やってる人が多い戦法だ。
割合の継続ダメージをいれた後は身を守ればいいのだから、少し格上の相手でも安全に倒すことが出来る。
この世界の冒険者は安定周回第一だから、この戦法を使う冒険者は一定の割合でいる。
さっきの女冒険者のほかにもやってる者がいた。
すぐそばで別の男が同じように毒魔法を掛けて、防御と回避に専念している。
スライムは跳んだり跳ねたりして、男に攻撃をしかけるが、身を守る事に集中した冒険者にたいしたダメージは与えられない。
やがて、スライムはまた急にって感じで倒されて、もやしがドロップされた。
「ああっ!」
男は困った様な声をあげた。
毒ダメージでスライムが死んだのは天井に飛んで、反動で飛んでこようとした瞬間だ。
その場所で倒れたスライムがドロップしたもやしは、半分近く天井に引っかかった。
「とれないなあれ……もったいねえ」
男は口惜しさを出しつつも、しょうがないと諦めた。
俺は、天井のもやしを見つめた。
「マスター? あのもやしが欲しいのですか」
「いやそうじゃない」
そうとだけ言って、俺はもやしを見つめた。
毒ダメージで急に死んだように見えて、天井にドロップが引っかかったスライム。
おもむろに地面におちていた小石を拾って、人のいない方角に投げつける。
回転を掛けて飛んでいった小石はとちゅうで急降下した。
縦の変化球だ。
そうだ、こうやって力の加減次第で……。
「レイア、魔法カートを押してついて来い」
「分かりました」
レイアは何も聞かずに、とにかく忠実に命令を守るって感じで、魔法カートを押してついてきた。
スライムとエンカウントした、早速飛んで来たので、それを手のひらで受け止め、掴んで、レイアの方に向かって投げつけた。
飛んでいったスライムは途中で破裂して、もやしをドロップした――が勢いが足りなくて、魔法カートの手前でやられたからもやしがカートに入らなかった。
「済みませんマスター」
「いやいい、レイアのせいじゃない。むしろそのまま同じペースを維持してついて来い」
「わかりました」
レイアは忠実に言いつけを守った。
同じペースでついてくる魔法カートに、今度は身を屈んでツッコミ、ひったくるようにスライムを掴んで、アンダースロー気味に投げた。
投げた瞬間力をコントロールして、魔法カートの上空に辿り着いたタイミングでやられるようにする。
二回目は勢い余って魔法カートを飛び越えてしまったが、三回目はちゃんと魔法カートの上空でスライムが倒されて、もやしがカートに直接入った。
「さすがマスター」
「まずはカート等間隔でやる、ついてこい」
「はい」
はっきりと頷くレイアを引き連れて、スライムを投げる作業にはいった。
掴んで投げる、毒ダメージから思いついた、時間差で倒れるように投げる。
最初は入ったり入らなかったりしたが、徐々にコツを掴んで、百パーセントに近い入り方をするようになった。
確実に入るようになってから、50体近く投げていれた後、レイアに聞く。
「レイア、効率は?」
「1.1倍上がっています」
「1割増か。よし、ペースを上げる。タイミングは俺で合わせるから、レイアはとにかくついて来い」
「わかりました」
レイアのカートを押す速さが一定じゃなくなったからまだ外れることがあったが、一回はコツを掴んだから、今度はあっさりと調整する事ができた。
掴んで投げる、投げてカートの上で倒れるようにする。
速度とタイミングをその場の最適な、即興のようにした結果。
「どうだ!」
「最初の1.3倍です」
「よし、もうちょっと上げてみよう」
「はい」
テルルで、更なる効率化を図った一日だった。