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257.情けは人のためにならず

 街中を早足で回る。

 あっちこっちにスライムとかの弱いモンスターがいた。


 遭遇した傍らから片っ端に倒していく。

 ダンジョンの中だと鍛錬の為にあえて時間を掛ける事もあるけど、ここは外、街の中。

 時間を掛けるとそれだけ町の人に危険が及ぶ。


 一切時間を掛けないで、出会い頭ぶっ倒していった。

 使ったのは追尾弾。

 照準を合わせる必要がない、モンスターを認識したあとなら打てば勝手に追尾してくれる。


 リペティションは七文字を唱える時間がいる、対して追尾弾はトリガーを引くだけ。


 スライムの様な最弱級のザコなら、リペティションよりも追尾弾の方が早い。


 そうやって追尾弾を連射しながら街中で犯人捜しをしていると。


「おお、犯人発見」

「ネプチューン……それと……」


 遭遇したネプチューンにいきなり犯人呼ばわりをされた。

 彼はいつもの様に、恋人の様な二人、ランとリルを連れている。


 顔なじみの優男はいつもよりちょっと意地悪な笑顔を浮かべて、連れの二人に向かっていった。


「ほらね、言ったでしょ。犯人は現場に戻ってくるもんだって」

「ホントだ、すごいねネーくん」

「威張らないの。そもそもそれは私が教えてあげた話でしょう」

「そうだっけ。でもリルの物はぼくのもの、リル本人もぼくのものだから」

「ば、ばか。何を言ってるのよ」

「あたしは? ねーあたしは?」


 ネプチューンは二人といちゃつきだした。

 付き合ってられないので、俺は無視して再び歩き出そうとしたが。


「ちょっとちょっと、まってよ。無視するなんてひどいじゃないか」

「言っとくけど俺は犯人じゃないぞ」

「そんなの知ってるって。シクロ中のみんなそう。多分真犯人だけじゃないかな。こんなのでキミを陥れる事ができるなんて思ってるの」


 ネプチューンはいかにも面白がってそうな、ニコニコ顔になった。


「ねえ、一つだけアドバイスしてあげよっか」

「なんだ?」

「真犯人を見つけたらちゃんとお仕置きすること。けっして情けは掛けないこと」

「なんでだ?」

「情けを掛けると向こうのためにならないからさ」

「……ふむ」


 わかる様な分からないような話だ。


「あともう一つ」

「うん?」

「すぐに倒しちゃうからいけないんだよ。犯人はさ、キミの犯行だって言いふらして回ってるんだろ?」

「……あっ」


 俺はハッとした。

 うかつだった。

 そうだよ、そういうことなんだよ。


 あっちこっちに出ているモンスターのハグレモノを俺のせいだって言いふらしてるやつがいる。

 そいつは、被害を出して俺になすりつけようとしてるんだ。


 モンスターと出会って速攻で倒してたんじゃだめだったんだ。


「ありがとう、助かった」

「ふふ、有名人も大変だね」

「こんど礼をする」


 ネプチューンに別れを告げて、再び犯人を追いかけた。


 しばらくシクロの街中を走り回って、またモンスターを見つけた。

 今度は二体、テルル地下一階のスライムだ。


 即倒したい気持ちを抑えて、スライムに向かって行く。

 スライムはぴょんぴょんと跳ねて、俺に向かって体当たりしてきた。


 ペチッ、って脳内の擬音が聞こえた。

 一周回って新鮮だった。


 スライムに攻撃されるの、一年ぶりかもしれない。

 ある程度強くなって、経験を積んでからはまったくスライムからダメージを喰らわなくなったからな。


 ――って、平然としてる場合じゃないな。


「えっと……う、うわあああ」


 知りあいが見てたら恥ずかしくて死にそうな演技だった。

 棒読みの悲鳴を上げて、俺は地面に倒れ込む。

 スライムが群がってきた、俺に攻撃してくる。


 痛くはない、むしろうっかり反撃して倒してしまわないように我慢するのが難しいくらいだ。


 しばらく、倒れたままスライムの好きにさせて、たまに「うわー」「いてえ」

と悲鳴を上げて見せた。


 まったく慣れてない事、誰も見てないとは言え、顔から火が噴きそうなくらい恥ずかしくなった。


 が、その甲斐あって。


「ここにもモンスターがいたぞ! リョータ・サトウがまたハグレモノをはなったぞ!」

「来たか!」


 声の方を振り向いた。

 曲がり角から身を乗り出してる誰かが叫んでるのが見えた。


 俺は銃を抜き、倒れたままそいつを撃った。

 拘束弾。

 光の縄がそいつを捉える。


「な、なんだこれは!」

「リペティション」


 ハグレモノのスライムを魔法で倒して、ゆっくりとそいつに近づいていった。


 拘束弾で縛られているのは中年の男だった。


「お前……だれだ?」

「お前こそ何者なんだ!」


 男は怒鳴ってきた。

 名乗って、なんでこんなことやったのか聞こうとした、その時。


「ボス……」


 背後からため息交じりの、いかにも呆れた声が聞こえてきた。

 振り向くと、今度は知ってる顔だ


「マッティア」「マッティア!」


 ……え?


 もう一度振り向く、男は怒りの形相で、現われたマッティアを睨んでいた。

 マッティアの事を知ってる、そしてマッティアが「ボス」と呼んだ。

 これって……。


「前にいたファミリーのボスか?」


 聞くと、マッティアは苦虫をかみつぶした様な顔で頷いた。

 ああ、なるほど。

 そういう事なら、と話を一瞬で理解した。


「逆恨みか」

「はい。話を聞いてもしやと思って追いかけてたけど、まさか本当にボスだったとは……」


 マッティアは更にため息をついた。

 つまり、俺が儲けさせない為に、ランタン地下20階の周回方法を公開したのが効いたのはいいが、それで逆恨みをされて、こんなことになったってわけか。


「すみませんサトウさん、こんなことになって」

「いやあんたは悪くない」


 悪いのはあくまでマッティアの元ボスのこの男だ。


 適当な思いつきで事業を始めて、失敗したら部下の責任、成功したら手柄は横取り。

 そのくせただの商売敵に逆恨みしてこんなことをする。

 悪いのは完全にこの男だ。


 この男、なんだが。


「ちからが抜ける……」


 なんというか、バツを与える気もおきない様なしょぼい事件だった。

 結局こいつがやったのって、ハグレモノをばらまいて俺の名前を連呼しただけなんだよな。


 シクロの人間は誰も信じてなかったし、ばらまかれたモンスターも弱いものだった。


「なんでスライムとかだったんだ? モンスターは」

「そんなの! 強いモンスターだと私も危険だからに決まってるだろうが!」

「……」


 情けない事を力説する男。

 本当力が抜ける。


「どうしますかサトウさん」

「なんかもうどうでもいい気がしてきた。俺から何かをするつもりはない」

「いいんですか?」

「ああ」

「わかりました、ならしかるべき所に通報します」

「ああ」


 例え俺が脱力しても、街にハグレモノをばらまいたのはれっきとした犯罪だ。

 しかるべき所に通報する、それでいいのかもしれない。


「話は聞いた、余が判決を下す」

「うわ! セ、セル、いつの間に」


 急に現われたセルに驚く俺。

 相変わらず神出鬼没だな。


「街の騒ぎが起きた、協会長として座視する訳にはいかない」

「まあ、それはそうだろうな」

「ましてやサトウ様に罪をなすりつけようとする輩など」

「それは協会長が気にするようなことじゃ――」


 苦笑いする俺、次の瞬間、セルの袖から何かが地面におちた。

 重い音がしたそれは俺のフィギュア、しかもー―。


「なんで俺がスライムに攻撃されてる所なんだよ!」

「ご、ごほん」


 セルは俺のフィギュアを拾って袖に入れ直して、厳しい顔でマッティアの元ボスを睨んだ。


「セプトファミリーの領袖だな、貴様に判決を言い渡す」

「なっ、お、俺はちがっ――」

「今後、シクロの全買い取り屋に、セプトファミリーからの買い取りを禁ずる。ダンジョンの免許も取り消しだ」

「なっ――」


 セルが言い渡した判決はおそらくもっとも重いものだった。


「ま、待ってくれ! これは違うんだ!」


 拘束されたセプトは必死に違う――なにが違うのかと思ったが、とにかく違うと訴えた。

 しかしセルは一切振り向くことなく立ち去った。

 その背中は怒りが滲み出ているように見えた。


 えっと、これってやっぱり。


「あーあ。だから言ったのに」


 真横からネプチューンの声が聞こえてきた、いつの間にか彼もきていたみたいだ。


「ネプチューン」

「情けを掛けると向こうのためにならないっていったのに」


 ネプチューンはニコニコ笑いながら言ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 20階層はドロップ制限してる、というか品種改良?の依頼者が買い取ったんだから勝手に入る事すら出来ないんでは そんな所の効率情報を流しても、殆ど意味無いと思うけど このサブタイの「ために…
[一言] 情けは人の為ならずということですが 意味間違えてるのはわかっててのタイトルづけでしょうか? 情けはいつか周り回って自分に返ってくるから、 たくさん情けはかけましょう。 情けは他人の為ではな…
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