255.システム開発
ランタンダンジョン、地下二十階。
俺はフィリンの協会長である、マオ・ミィと一緒にここにやってきた。
周りを見回す、俺たち以外の冒険者はいない。
「貸し切りなの!」
マオはその小柄な体にとても似合ってる、無邪気な笑顔で言い放った。
「貸し切り?」
「そうなの。あなたの頼みだから今日はほかの冒険者を全部追い出して、貸し切りにしたなの」
「いいのかそんな事して」
「いいのいいの。あなたのお願いより優先度の高いことはこの世界に存在するはずがないの」
マオは無邪気な笑顔のまますごい事を言い切った。
存在しない、よりも更に上の存在するはずがない。
そこまで言い切ることが出来るのはすごいな。
☆
その時、シクロダンジョン協会、会長室。
セルとその部下が書類仕事をしていた。
「む?」
「いかがなさいましたかセル様」
「天啓を受けた」
「てんけい」
「張り合わなければならない、自分の信念を見せつけなければならないという天啓だ」
「よくは分かりませんが、頑張ってください」
☆
「――っ!」
「どうしたの? 怖い顔なの」
「いやいま、変な悪寒がしたんだが……気のせいか」
なんか自分の知らない所でとんでもない事が進行してそうな気がするけど、怖いから忘れることにした。
「それよりも、その剣をどうするの?」
マオは俺が握っている剣を不思議そうにみた。
「ちょっと調べたんだが、やっぱり冒険者が使う武器で、剣が一番多いらしい」
「はいなの、オーソドックスで誰にでも使いやすい武器なの」
「だからこれなんだ」
「よく分からないけど応援するの」
「ああ」
俺は剣を握り直した。
あまり手に馴染まない感触。
この世界に来てすぐにハグレモノで銃と特殊弾を手に入れたもんだから、異世界らしい武器をほとんど使ってこなかった。
だが、今はこれが必要だ。
地下二十階のモンスター、炎のくのいち。
露出の高いくのいち装束と、全身に纏う炎が特徴のモンスターだ。
炎のくのいちは俺に向かって疾走してきて、逆手に構えた忍び刀で斬りつけてきた。
剣で受け止める、金属音と火花が散る。
くのいちを押し返して、更に踏み込んで反撃の斬撃。
ザシュッ! 斬撃は纏っている炎ごとくのいちを斬り捨てた。
モンスターが消えて、酒がドロップする。
ボドレー・リョータとブランド化された酒を無視して、今の戦闘を復習する。
一通りやってから、次の炎のくのいちに挑む。
すぐには倒さなかった、相手に攻撃をある程度させて、それを見極める。
炎のくのいちはわかりやすかった。
突進からの攻撃は二パターンある、どっちの足が先に出るのかでかわる。
左足からかけ出した場合忍び刀の斬撃、右足からの場合は突進しながらの手裏剣だ。
そして後ろに回ったとき、なにもない時は振り向きの斬撃、ちらっと見たら手裏剣をまいてからの斬撃。
攻撃パターンを一通り見極めて、剣を使った最適化をしていく。
能力は抑えめ、想定は更にちょっと下げて力と速さがCを想定。
その能力値が出来る動きで最適化を組んでいった。
☆
「よし、これで20%近くの時間短縮だ」
「おめでとうなの」
マオはパチパチと拍手した。
「ずっとみてたのか?」
「はいなの! とても格好良くて、最後の方は踊ってるみたいになってましたから、見とれてましたの」
「踊りか、パターンを突き詰めていくとそうなるかも知れないな」
色々テストして組み上げた最適化のパターンを思い起こす、確かに踊りに見えるかもしれないと自分でも思った。
俺はあらかじめ持ってきた紙とペンを使って最適化したパターンと、オマケに炎のくのいちの攻撃全パターンを書き込んだ。
それをマオに渡した。
「これはなんなの?」
「剣を使った場合の、炎のくのいちの一番安全で早い倒し方だ。これを冒険者に無料配布してくれ」
「それはもったいないの、戦う素人のマオでも分かるくらい素晴しい動きだったの、ただで公開するのはもったいないの」
「ただだからいいんだよ」
俺はそう言って、更に紙を突き出した。
「……」
マオは真顔でじっと紙を見つめて。
「もしかして、どこかで理不尽な事が起きてましたの?」
「そうだな、向こうは理不尽だとも思っていないみたいだが」
マッティアの顔を思い出す。
マッティアがいたファミリー、そのボス。
顔も知らないが、やる事はゲスかったという事だけはわかったそいつの事を思い出した。
マッティアはやめて晴れ晴れとした顔をしてたが、俺がマッティアのためにつくったものがそいつの儲けになるのは我慢ならない。
だからこうしてやってきて、冒険者に一番使われている剣を使って動きを研究して、前の物よりも20%効率が上がるパターンを編み出した。
それを、無料公開する。
「何処の誰かはしらないけどご愁傷様なの」
「そうだな」
「でも自業自得なの」
「うん?」
「あなたがいるところで理不尽な事をしちゃダメってみんな言ってるの、なのにしたどこかのだれかさんの自業自得なの」
「そうだな」
そういう風になればいいな。
マオは俺の手からメモを受け取った。
「マオが責任もってこれをフィリンの全冒険者に広めるの」
「ありがとう、頼む」
「どういたしましてなの。むしろ光栄なの。リョータ・システムの協力者になれるなんて嬉しいの!」
「その名前はなるべくやめてくれると嬉しい」
恥ずかしいし。
とは言え、マオはやる気だから、任せる事にした。
しばらくして、ランタン20階用のリョータ・システムが広まって。
マッティアのいたファミリーが儲け損なったうえに、しょぼいやり方を売りつけようとした事を笑われ、信用を失ったという噂が聞こえてきたのだった。