253.三重弾発射
ダーン!
ニホニウム地下八階、三つ首のゾンビを通常弾で倒した。
ゾンビの三つの首はそれぞれ無敵、反射、弱点となってる。
無敵はいくら攻撃しても無駄で、反射はダメージがそっくりそのまま帰ってくる。
弱点の首を攻撃しなきゃ倒せないようになってて、三択を外すと首の内訳がシャッフルしてやり直し。
そのままだと三択だが、どういうわけか追尾弾は「反射」の首に向かって飛んでいくから、追尾弾を撃って着弾するまで、追尾弾が狙う以外の二つで二択になる。
無敵と弱点ならいくら攻撃しても問題はない、最悪やり直しなだけだ。
追尾弾を撃って、その弾よりも早く残った二択の首を攻撃。
何体か倒して、運の種をポーチで集めて、転送ゲートで屋敷に戻った。
地下室に入って、待っていたレイアと合流。
「たのむな」
「わかりました」
レイアは淡々と頷く。
俺はポーチの中から、触らないように気をつけて、種を一粒出す。
「リヴァイヴ」
レイアが魔法を掛けた。
復活という名の、ドロップからモンスターに戻す魔法。
ダンジョンの外だから、運の種はハグレモノに孵った。
ダンジョンの中同様追尾弾を撃って、二択にしてから残った首を吹っ飛ばす。
無敵に当たった、やり直して、もう一回追尾弾からの二択で――今度は普通に倒した。
見た事のない、新しい弾丸がドロップした。
それを拾い上げる、さてどんな弾なのか――。
「マスタ-」
「うん? どうしたレイア」
「どうしてリペティションを使わないのですか。その方がずっと早いです」
「リペティションか、こういうことだろ?」
俺はもう一つ種を出して、レイアにあごをしゃくった。
レイアは無言で頷き、種に魔法を掛けた。
「リヴァイヴ」
「リペティション」
被せ気味で俺も魔法を使った。
種がほとんど過程をすっ飛ばすようにして、一瞬で銃弾になった。
ただでさえこの世界のモンスター討伐は生産の側面が強いのに、これじゃますます生産だ。
回数をこなせばサシミに菊を載せるレベルの作業になる。
「これをなんでしないのかっていいたいんだろ?」
「はい」
「こいつはありがたいモンスターなんだ。追尾弾より早くしないといけないから高速の戦闘の慣れ、二択の選択を一瞬でする判断力、失敗したときのリカバリー。こいつとの戦いはこの三つの能力が同時に鍛えられる。リペティションでサボるのはもったいない」
「なるほど。マスターは努力家ですね」
「努力家というか、凝り性というか。タイムアタックは好きだった、アイテムをめっちゃ使うカートレースのゲームでも、アイテムじゃなくて自分のゴースト相手に延々と走ってたな」
「よく分かりませんが、すごいと言うことだけはわかりました」
他人に余計な事は一切話さないレイア、俺もついつい安心して向こうの事とかを話してしまう。
それを「よく分からないけど分かった」という納得のしかたをするレイアの反応がありがたくて、ついついまた話してしまう。
「さて、それはいいとして……この新しい銃弾だな」
「効果を試しますか」
「ああ。多分なんかの特殊弾だろうからな」
俺は新しい特殊弾を銃に込めた。
レイアは地下室の隅っこに積み上げられてる花を持ってきて、リヴァイヴをかけた。
アルセニック産の花、モンスターはアルセニックのモンスターだ。
アルセニックのモンスターらしく、頑強そうな岩で、まったく動かない。
「どうぞ、マスター」
「ありがとう」
俺は動かない岩のモンスターに向かって新しい弾丸を撃った。
問題なく着弾した後――
パァーン!
爆発音がこだまして、岩が砕け散った。
「爆発、だけですか」
「……レイア、もう一回頼む」
「わかりました」
レイアは余計な事を聞いてくることなく、黙って新しいモンスターを用意した。
リヴァイヴで即再生したモンスターに新しい弾丸を撃ち込む。
パァーン!
また爆発音がして、岩が粉々に砕け散った。
「……」
「どうですか、マスター」
「もう一回だ」
「はい」
三度、モンスターを設置する。
特殊弾を撃つ前に、自分とレイアに加速弾を撃った。
「マスター?」
「一緒に確認してくれ」
「わかりました」
頷くレイア、俺は特殊弾を撃った。
加速した世界の中で、銃弾はのろのろと飛んでいく。
それが岩のモンスターに着弾して。
パパパァーン!
「爆発が三回しました」
「だよな」
やっぱり気のせいじゃなかった、普通の速度で三回聞こえた様な気がしたけど、確信はなかったから、貴重な――一日で一発しか出ない加速弾を二発使って確認した。
「もう一回頼む、加速してる間に」
「わかりました」
レイアはものすごくテキパキに動いて花からリヴァイヴしたが、ハグレモノに孵る速度が普通であまり意味はなかった。
加速する世界の中でゆっくり孵る岩に特殊弾を置くように打ち込む。
パパパァーン!
また、爆発音。
四回目になる爆発音。
「音が違うよな」
「そうですか?」
「わからないのか?」
「はい」
「そうかもしれないという前提条件でもう一回聞いてみよう」
「はい」
五回目のテスト、リヴァイヴからの瞬殺、そして耳を澄ませる。
レイアをみた。
「はい、ちょっと違います。二回目だけちょっと変です。何故なのでしょう」
「一回目と三回目は外から、二回目は中から爆発してるんだと思う」
「そうなのですか?」
「音の出方というか籠もり方というか、それが違った」
「そうなのですか? よくわかりません」
レイアは分からないというが、間違いないと俺は99%確信した。
あとはなぜそうなのだが……。
「レイア、もう一回だ」
「はい」
時間的にはこれが加速弾のラスト。
レイアがセットした岩に、俺は銃弾を連射。
「マスター? それは通常弾では?」
「そうだ」
俺が撃った通常弾は6発。
三つのルートに分けて、それぞれ1、2、3と撃った。
加速する世界の中で、2発と3発は並ぶ様にしてぴったりと。
あたって融合弾にならないようにぴたっと後をついて行くようにうった。
一発の弾丸は岩にめり込んだ。
二発連続で着弾した所は爆発を起こした。
三発同時の所は、同じように爆発が起きて、飛び散る破片が文字通り粉々になった。
「やっぱりそうか」
「どういう事ですか?」
「衝撃をほぼノータイムで連続して当てると、前の攻撃でもろくなったところで新しい衝撃がいって、それで普通よりも効果が高くなるんだ。この特殊弾はそれを三回、三重の衝撃を同時に出して破壊力を最大限にしてるんだ」
「なるほど、よく分かりません」
「加速弾を手にいれたあたりから二重弾の構想はあったけど、こいつはセルフで三重弾ってところだな」
新しく手に入れた特殊弾、三重弾。
破壊力は今までの弾丸の中でもトップクラスだった。




