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250/611

250.場所取り再び、今度こそ……

 モンスターの村、リョータ。


 その外れに、ダンジョン・フォスフォラスがあった。

 舞い散る桜吹雪の中、ぽつんと浮かんでいるボーナスダンジョン。


 その入り口の所で村の住人であるユニークモンスターが二体護衛してる。

 それを俺、セル、そして実質の村長であるクレイマンが並ぶ様に立って、それに目を向けていた。


「ということで、これの管理はみんなに任せるから」

「任せてください、リョータ様のためなら、村のみんなは火の中水の中です」

「そこまで気負わなくても大丈夫だ。……これでいいか?」


 クレイマンに微苦笑でツッコミつつ、反対側にいるセルに聞く。


「文句のつけようがない。主がいなくなり、ドロップしなくなったダンジョン。それをダンジョンに立ち入る事のできないモンスターの村に預けて管理する。さすがはサトウ様、完璧な案だ」

「あのままシクロにおいてもいいんだけど、それだけじゃちょこちょこ運試しに入っていく冒険者もでてしまうだろうからな」

「うむ、このダンジョンはこの形が一番いい」


 セルはそういい、クレイマンを向いた。


「余と、サトウ様以外のものは誰であろうと立ち入らせないようにしてくれ」

「任せてください」

「月ごとに管理費を支払おう」

「え? いやそんな……」


 戸惑うクレイマン、俺はすかさず説得に入った。


「もらっとけ、護衛はちゃんとした仕事だ。それにセルの立場もある、フォスフォラスの管理ともなればちゃんとしとかなきゃならないだろう」

「はあ……」


 クレイマンは困惑した顔のままセルを見る。

 セルは静かに頷いた。


「……わかりました、頂きます。後でちゃんとリョータ様にも上納分を渡しますので」


 俺は無言で頷き、しかし更に苦笑いした。

 それこそ気にしなくていいことなんだが、それを言ってもクレイマン達は言うことを聞かないだろう。


 ボドレー・リョータで村のみんながユニークモンスター化して以降、モンスター達はますます俺を尊敬するようになった。

 もはや突き抜けて、「崇める」レベルまで行ってる気がする。


「ところでセルさん、一つ相談があるのです……こちらへ」

「ふむ? どうしたのかな」


 クレイマンはセルを連れて、少し離れた場所へ移動した。


「……というわけで……を……したいと皆が」

「なるほど……ならば……よろこんで……」


 距離が微妙に離れてて断片的にしか聞こえないが、クレイマンの提案にセルが乗り気になってる、って感じだ。


 なんの話なのかは分からないが、セルというバックがつくようになればこの村は安泰だ。

 なんの話だろうとまとまるのは歓迎すべき事――。


 ゴトッ!


 セルの袖から俺のミニチュア銅像が地面におちた。


 ……待て。


 お前ら……なんの相談をしてる。


     ☆


 シクロに戻ってきた。


 ぐるっと一周、散歩気分で街を一周した。

 フォスフォラスの一件で目に見えてものが減ったシクロの街も、ボーナスステージが消えた事で冒険者達がダンジョンに戻っていき、徐々にいつも通りに戻っていった。


「あっ、リョータだ」

「マジ?」

「本当だー」


 いきなり名前を呼ばれて、子供達が群がってきた。

 全員が小学生くらいの男の子、元気でわんぱくな少年が一斉に群がってきた。


 半ばもみくちゃにされて、「本物だぜ」とか、「なんでそんなに強いの」とか。

 少年がプロ野球選手を見かけたようなノリと熱意で囲まれた。


 戸惑いながらも、純粋な好意を向けてくる少年達の相手をした。

 サインとかも求められて、仕方なくそれっぽいのを書いてあげた。


「あれ、何してんのリョータ」

「今度はだれ――ってアリスか」


 やってきたのは仲間モンスター全員――新加入のメラメラも加えた全員を肩に乗せたアリスだった。

 彼女はもみくちゃにされてる俺を見て、不思議そうな表情をしていた。


「これは――」

「すげえ! アリスだぜ!」

「アリスって、あの新しい精霊付きか」

「マジかよ!? どれだ? どれが精霊なんだ?」


 少年達は一斉にアリスの方に向かって行った。

 俺にしたのと同じように、始球式のアイドルにするかのように群がっていく。


「おー、アリスも有名人だ」


 危機(?)がさった俺は、やけに冷静な目でアリスと少年達を眺めた。

 実際に囲まれた経験もあって、大丈夫だろうと思ったからだ。


 アリスも質問・握手・サインの三所攻めにあった。

 一通りそれをやった後、少年達は満足した様子で去っていった。


「ふう……」

「お疲れ、大丈夫だったか」

「あっ、リョータ。うん大丈夫だよ。でもびっくりしたよ。リョータもあれやられてたんでしょ?」

「まあな」


 苦笑いを浮かべつつ、肩をすくめる。


「そっか……うふふ」

「どうした、なんか嬉しそうだな」

「だって、ねえ」

「いやいや、何がだってねえなんだ」


 よく分からないぞ。


 よくわからなかったが、アリスは嬉しそうだった。

 だからいいか、って思った。


 ふと、風が吹いた。

 春の温かい風。終盤にさしかかった桜吹雪がますます勢いついた。


「綺麗だねサクラ」

「ああ、そろそろ終わりだけど……今が一番綺麗かもな」

「……ねえリョータ、もう一回花見しよ」

「え? 花見はもうした――」

「しようよ、あたし場所取りするから。今回はちゃんと場所取りできるから」

「前回もちゃんとしてたように見えたけど――」

「ねっ!」


 キラキラした瞳で俺を見つめてくるアリス。

 ふと、肩に乗っかってるメラメラが目に入った。


「そうだな、メラメラの歓迎会がてらもう一回やるか!」

「やった! じゃあ場所取りいってくるね!」


 アリスはものすごく上機嫌で、風の如く駆け出していった。


「よーし、頑張ろうねメラメラ!」


 桜吹雪の中、遠ざかっていくアリスの背中と喜びの声。

 なんで頑張るのか分からないけど、嬉しそうなアリスとメラメラを見て、何となくこれでいっか、とおもったのだった。

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