246.亮太にしかできない
数十回チャレンジしたけど、結局精霊・フォスフォラスに繋がる階段は最後まででなかった。
夕方、上がりの時間になった。
仕方ないから最後にドロップした二千万の札束を持って、転送ゲートから屋敷に戻った。
「お帰り!」
「うお!」
夕焼けにそまる屋敷の転送部屋で、アウルムが俺を出迎えた。
腕の中には人形のように、抱っこされてるミニ賢者のミーケがいる。
「お帰りなさい」
「ただいま。どうしたんだ二人とも」
「リョータにただいまって言いたかったの!」
アウルムはものすごくテンションが高かった。
「俺にただいま?」
「人間って、ただいまとかお帰りとか言うんでしょ? いままでリョータに連れ出してもらってたばかりだから、全然いえなくてさ」
「なるほど」
同棲カップルがあえて外で待ち合わせデートするようなものか。
「うふふー、リョータのおかげでまた一つ経験しちゃった」
「よかったですねアウルム様」
「あなたのおかげでもあるわね。これプレゼント!」
アウルムはそう言って手をかざす、手のひらがパア、と光った後、ミーケの体に黄金のアクセサリーがついた。
また、増えた。
ユニークモンスターとして、自分と自分が触っているモンスターのダンジョンと階層の移動が自由になったミーケは、外に出たいアウルムのパートナーになっていた。
そのアウルムからことあるごとにミーケに感謝してお礼をしてたら、今やミーケは全身黄金のアクセサリーまみれになったわけだ。
十本の指全部に指輪、もしくは二次元アイドルの追っかけの様なフル装備な感じだ。
そんなミーケとアウルム、仲が良いのは間違いない。
「ただいまって言ってもらえるのは嬉しいな、ありがとう」
「それはあたしの台詞。リョータがいなかったらあたしはずっとあそこにいたまんま。だからありがとう」
「そうか」
頷き、微笑みあう俺とアウルム。
帰宅してまずは一息つこうと、俺はサロンに向かって歩き出した。
アウルムはミーケを抱きかかえて、俺の横についてくる。
「うーん」
「なんだ?」
「リョータ、なんか元気ない?」
「ああ、ちょっとダンジョン攻略が上手く行かなくてな」
俺はフォスフォラスの事を簡単に説明した。
「そっかあ……」
「どうにかなるって思ったけど、増長してたのかもな」
「そんな事ない」
「え?」
アウルムが足を止めた。
俺も立ち止まって彼女に振り向いた。
立ち止まってまっすぐ俺を見つめてくるアウルム。
口調は静かそれ程強くないが、はっきりとした意思を感じる。
「リョータだったら出来る」
「そうか?」
「うん、というかリョータじゃないとだめ。あたしが保証する」
にこり、とアウルムは微笑み。
「このあたしがね」
世界にある118のダンジョン、その一つを統べるアウルム。
ものが全てダンジョンからドロップするこの世界で、アウルムの様な精霊は神にも等しい――いや神そのものと言っていい存在。
そのアウルムが俺を認めてるといった。
「そうか、ありがとう」
「それはあたしの台詞だってば」
アウルムは笑って、再び歩き出して、俺の横に並んできた。
「あっ、ヨーダさんがいたです」
「どうしたエミリー」
廊下の向こうから、エミリーがパタパタと走ってきた。
「お客さんなのです」
「客?」
「レベッカさんが来てるのです」
「何でまた……」
レベッカ・ネオン。別名「ザ・パーフェクト」。
あらゆる能力がすべてAで、その上ダンジョン産まれということもあり、118の一つのネオンダンジョンを完全攻略し、精霊から「ネオン」を名乗る許可をもらった精霊付きの一人だ。
「……ああ、そうか」
俺は思いだして、アウルムとミーケを見た。
「どゆこと?」
「前に来た時の会話を思い出した。彼女は俺に『アウルムの人?』って聞いた。で、今のアウルムはミーケだろ?」
「はい、私です」
「新しい精霊付きに会いにきたのかもな」
「はいです。それとヨーダさんにも言いたいことがあるって言ってたです」
「文句かな。この手の人は『私に許可無く変わるってどういう事?』って言ってきそうだ」
「会わない方がいいかな」
アウルムが少し首をかしげて、聞いてきた。
「そうだな……どうするか……」
「あたし代わりに会っとく?」
「うお! 帰ってたのかアリス」
背後から声を掛けてきたアリスに苦笑いしながら聞いた。
「うん、今帰った。レベッカ・ネオンでしょ。あたしちょっと興味あるんだ」
「興味?」
「同じダンジョン産まれだから」
「ああ、なるほ……ど?」
同じダンジョン産まれ?
「あれ? どうしたのリョータ」
「固まってしまったです」
「……アリス!」
「はひっ!」
俺はアリスの肩をつかんで、至近距離から彼女の目を見つめた。
「ど、どうしたのリョータ」
「アリスって、100%ドロップだよな」
「そうだけど……」
「でもモンスター達のドロップはC相当だったな?」
「うん、あたしがタイミングを――ひゃん!」
「来てくれ!」
俺はアリスの手を掴んで、来た道を引き返した。
「ヨーダさん?」
「どこ行くのリョータ」
「悪い、ちょっと試したいことがある。レベッカは任せる」
そう言って、アリスを引っ張ってズンズンと廊下を進む。
「どうしたのあれ」
「分からないです……でも、生き生きしてたです」
「――だね」
☆
フォスフォラス、最下層地下二十階。
金庫のドアがぶち破るのに時間掛かるということもあって、ここはほかの階層に比べて人が少ない。
俺はアリスを連れて、開いてるドアの前に立った。
「どうだ?」
「タイミングって事?」
「ああ、すごくレアなタイミングを感じるか?」
「あるね」
「早! そんなに早くわかるもんなのか?」
「あたしもいろんなダンジョン行ってるからね」
アリスはにやり、とイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「いろんなパターンを知ってるのさ。ここは……面倒臭いやつだね」
「というと?」
「タイミングが常にあるけど、超短いんだよね。一秒を――うーん、一万分の一くらいのタイミング?」
「そりゃでないわけだ」
常に一万分の一くらいの確率じゃな。
「それにそのタイミングじゃ――おしえて俺が倒す訳にもいかないな」
「んー、大丈夫だと思うよ?」
「え?」
「見てて」
アリスがそう言うと、一歩前に出て、金庫のドアに向き合った。
何をするのか分からないが、任せてみよう。
「りょーちん!」
アリスは切り札の召喚魔法を使った。
りょーちん、デフォルメされた俺だ。
能力は全部俺と同じ、ただし一日に一回、そして30秒間しか呼べないという、正真正銘の切り札。
「いくよりょーちん」
りょーちんが頷き、銃を抜いて扉を攻撃しはじめた。
俺がやったのと同じように、二丁拳銃での貫通弾連射だ。
それを無造作にやっている。
なるほどまずは削って、トドメのタイミングを計るのか――。
「でた」
「うぇ!?」
思わず変な声が出た。
扉が普通に貫通され、普通になくなって――普通に下に続く階段がでた。
「え? こんなにあっさり?」
「りょーちんとあたしはつながってるからね、タイミングを普通にあわせたらこうなるのさ」
「すごいな……」
「なにいってんの?」
アリスが呆れた様に言う。
「すごいのはリョータ。あたし、ほかの子ださなかったじゃん?」
「ああ、そういえば」
「リョータだけでやらないと無理だったんだよこれ。みんな出すよりリョータ――りょーちんだけでヤッた方が成功率たかかったんだから」
そういうものなのか。
「さて、これが階段だね」
アリスは改めて、という感じで階段に向き直る。
俺も階段を向く、それを見る。
フォスフォラスの部屋に続く階段、ようやくでてきてくれたぞ。