245.ソロでレイドボス
三日目になっても、フォスフォラスはシクロに存在したままだった。
冒険者達はますますボーナスステージのダンジョンに籠もるようになって、物の生産が完全に止まった。
ほかの街、つまり輸入でまかなう物はまったくいつも通りだったが、野菜とか果物、植物系の品物は完全に店頭から消えてしまった。
これに割りを食ったのが、冒険者じゃない家庭だ。
冒険者はフォスフォラスで大金を稼いでいる、ここぞとばかりに日夜問わずフォスフォラスに籠もって金を稼いでいるから、店頭から品物が消えても値段が高騰しても問題はない。
冒険者がよく使う酒場や食堂もそんなに影響はない。
あぶくゼニを手に入れた冒険者達相手だ、仕入れが高価になってもそのまま代金に上乗せすればいい。
人間ってのは不思議なもので、予定外の大金が手に入ると気が大きくなって散財するものだ。
それで割を食ったのが冒険者じゃない一般の家庭。
牛肉が100グラム100ピロ~200ピロといつもの値段なのに対し、キャベツ一個が1000ピロを越えるという超高騰っぷりになった。
☆
早くなんとかしなきゃ、と俺はフォスフォラスの最下階、地下20階にやってきた。
地下20階は、今までと違う光景が繰り広げられていた。
まん中がロビーのようになってて、放射線状にあらゆる方角にひろがった12の巨大な扉がある。
まるで城門の様な観音開きの扉に、カウントダウンのタイマーがついている。
その扉に群がって、冒険者達が徒党を組んで、攻撃をしかけていた。
剣や槍、ハンマーに己の肉体という物理系から、炎に氷、雷とあらゆる魔法に至るまで。
あっちこっちで、あらゆる攻撃が扉に向かって放たれた。
「不思議な光景だな」
「はじめて見る光景」
俺の横で、同行したレイアがいつもの平坦な口調で言った。
「ああ、初めてだ。冒険者がこぞってやってるって事は、あの扉がモンスターなのかな。でもモンスターの討伐にはみえないよな」
「破壊工作」
「それだよな」
苦笑いを浮かべながら眺める。
率直に感想がでたように、どこもかしこもモンスター退治ってよりは破壊工作、もしくは解体作業って感じだ。
だれも彼も、扉に全力で攻撃を加えている。
ふと、一つの扉に目がとまった。
カウントダウンのタイマーがそろそろ終わる。
10、9、8……0。
タイマーがゼロになって、扉がポスン、と気の抜けた音を立てて消えた。
扉の奥に空間があった、十畳くらいのそれなりの空間。
その中には、何もなかった。
「くそっ! 失敗かよ!」
「ためが間に合わなかった……」
「失敗するとドロップゼロ……。知ってたとは言えこれはつらい」
その扉に攻撃をしかけてた冒険者グループがものすごく気落ちしていた。
なるほど、制限時間内に敗れなければ何もでないのか――
ドゴーン!
「な、なんだ!」
ドゴーン!
ドゴーン!!
ドゴーン!!!
離れた所からものすごい轟音が響きはじめた。
そっちを見ると、別の冒険者集団が扉に向かって攻撃をしかけていた。
人数は十人、まだ攻撃をしてない冒険者は全員が何かしかの「溜め」ポーズをしてて、溜めた後の一撃を扉に向かってはなっていた。
タイマーは残り一分を切った、全員が溜めた攻撃を放った。
すると、扉がものすごい勢いでぶち破かれ、奥にさっきのと同じような空間が出来た。
ポン、と扉の残骸がきえて、奥の空間に札束の山が出来た。
ざっくり数えて二千万。
冒険者達が中に入って、山分けをはじめた。一人二百万だ。
「ここ、最高の場所ですね」
「ぼくのためは一回に30分かかるから、普段はあまり使い物にならなかったですけど」
「俺もそうだよ。いやあ、ゆっくり溜められるここ最高だ」
山分けした冒険者達は上機嫌だった。
「なるほど、チャージに時間がかかりすぎて、普段は使えない大技を持つ冒険者達か」
「そういう人達には天国」
「だな」
最下層の状況は大体分かった、俺もそろそろやらないと。
さっき失敗した冒険者達が気落ちして引き上げていく、それで部屋が一つ余った。
俺はその部屋の前に立って、ちょっと待った。
フォスフォラスをどうにかしなきゃいけない。
いつ消えるとも分からないのなら、ダンジョンの精霊――フォスフォラス本人にあうしかない。
そう思ってここにきた。
精霊に会うための正攻法、最下層でモンスターを倒すこと。
だからここにきて、扉――多分モンスターの扉の復活を待った。
ふと、後ろがガヤガヤしてる事に気づいた。
何事かと振り返ってみると――
「うおっ!」
いつの間にか冒険者達が集まってきていた。
12の――残った11の扉にそれぞれいた冒険者が集まってきて、取り囲んで、俺を見ている。
「どうしたんだ?」
「リョータさんがどうやってこれをぶち壊すのか知りたい」
冒険者の一人、エミリーブランドのハンマーを持ってるマッチョな男が言った。
彼と同じ意見――とばかりに半数以上が頷き、残った半数も目で同意見だと分かった。
「マスター、人気者」
「複雑だ」
そしてやりづらい。
しばらくして扉が復活した、俺はやりづらさを背中に置き去りにする様にして、深呼吸一つ、扉と向き合った。
「レイア」
「はい」
変形するレイアを装着し、小手調べに俺とレイア、合計6丁の拳銃から通常弾を連射。
一人弾幕といわんばかりの勢いで銃弾を思いっきり叩き込んだが、無数の銃弾で巻き起こった砂煙の中から姿を現わしたのは――
『無傷です』
「そうみたいだな。次、消滅弾行くぞ」
『はい』
レイアが装填する弾丸をかえる。
通常弾から全部冷凍弾にかえる。
そのまま冷凍弾を連射。
それを確認した俺は、火炎弾を連射。
レイアが撃った冷凍弾に追いつき、融合させて消滅弾にする。
レイアの精度は未だに100%とは行かない、撃っても絶対に融合弾になるとは限らない。
だからこうした、一種類の連射に専念してもらって、俺がもう一種類の方を撃って、融合させるというやり方だ。
「「「おおおおお!?」」」
傍から見ればレイアが撃った弾丸を全部俺が撃った(打ち落とした)形になったので、状況が分からずとも、歓声が上がった。
その無数の消滅弾が扉に当たる、いつもは空間ごと食いちぎる消滅弾が、ほとんど効果無く消えてしまう。
が、全くの無効化でもない。
『表面が削れたのを確認』
「硬いな」
『どうしますか』
「弾切れにならないとも限らない。全部通常弾で行こう」
『わかりました』
レイアは再装填をはじめる、最初と同じように通常弾を全拳銃に装填――そして連射。
俺も通常弾を連射、融合した貫通弾が一点集中で扉を攻撃。
数珠つなぎの爆音、まるで道路工事だ。
慣れてきたのでペースを上げると、爆音がさらに短い間隔になっていき――しまいには繋がってしまった。
パンパンパンパンパン……――ではなく。
パーーーーーーーーーーーン!
な音になった。
その音に混じって、観戦する冒険者達から歓声が上がる。
扉は徐々にえぐられていく、連射する貫通弾が少しずつ扉に穴を開けていった。
打ち込むこと数百発、時間で言えば3分程度だろう。
それくらいの連射の果てに、扉は貫通され、穴が空いてしまった。
その、直後。
ポン!
と扉がきえて、向こうの部屋らしき空間に山積みの札束がでてきてしまった。
「おおお!」
「すげえ、はええ!」
「一人でしかもこんなに短い時間で破るのかよ……」
周りが感嘆する中、俺はしばらく待った。
感嘆の言葉がしまいに疑問に変わっていく、誰もが「なんでお金を取らないの?」って疑問を持つようになった。
それでも待った。
下に続く階段、フォスフォラスへの階段がでるのを。
「だめか、レイア。リヴァイヴだ」
『はい』
俺は諦めてレイアに命令すると、アームの一本が伸びていき、山積みの札束に魔法を掛けた。
ドロップ品を瞬時にモンスターやハグレモノに戻す魔法、リヴァイヴ。
一瞬で札束が元の扉に戻った。
「えええええ!?」
「なんで? 戻すなんで?」
「お金いらないのか――」
ざわつく中、俺は扉に向かって手を伸ばして、「リペティション」と唱えた。
扉が再び札束に戻る。
「倒した!?」
「最終周回魔法じゃないか」
「一秒でかよ、すげえ……」
さっき以上に驚きと感嘆が飛びかう中、俺はまった。
待ち続けたが、階段はでなかった。
その後も驚嘆の中でリヴァイヴとリペティションを繰り返したけど、階段はでてくれなかった。
うーむ、どうしようか。




