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240.黄金のリョータ

 シリコンダンジョン、地下一階。


「次、アルセニックにも行ってみよう!」

「はい!」


 一人と一体。

 少女に抱っこされてるモンスターは風の如く下の階層から駆け上がってきて、そのまま風の如くダンジョンの外に飛び出してしまった。


 その姿を目撃したシリコンの冒険者は一様に不思議そうな顔をした。


「いまのって……ミニ賢者、ってモンスターだよな」

「いや違うだろ。なんでモンスターが階層跨いだりダンジョン出られたりするんだよ。あの可愛い女の子のぬいぐるみと腹話術だよ」

「いや違う。ここだけの話、あれリョータ・ファミリーの新顔だぜ」


 一人物知りの冒険者がいたので、そこにいる冒険者が全員注目した。


 みながシリコンダンジョンに通い慣れてる冒険者だけあって、全員が片手間でモンスターを倒しつつ話に耳を傾けている――というなんとも不思議な光景になった。


 事情通の物知りがその視線に気をよくして、ちょっと得意げに説明を続けた。


「ユニークモンスター、って知ってるだろ。あれがリョータが飼って進化させたユニークモンスター。自分と自分が触ってる最中のモンスターで階跨ぎとダンジョンの出入りが出来るらしいんだ」

「「「えええええ!?」」」


 冒険者から驚きの大合唱が起きた。


「うそだろ、ハグレモノがそんなこと出来るのか」

「ユニークモンスターは知ってるけど、それでもモンスターだろ?」

「はあ……やっぱりリョータ・ファミリーってすげえな……」


「ふふん」


 みんなの驚きがよっぽど心地よかったのか、事情通の冒険者が更に鼻をならして、得意げ&意味深に笑った。


「なんだよその笑い方」

「今の、ミニ賢者を抱いてる少女がいただろ」

「ああ――ってまさか!」

「そうか、触ってる最中のモンスターもってことだから、あの子もモンスター」

「じゃああれもユニークモンスターって事か」

「ふふん」


 更に得意げに威張る事情通――だったが。


「もうそれは分かったから! 全部さくっと教えろよ」


 今度は「そーだそーだ」の大合唱が起きた。


「せっかちだな、わかったよ。あの子、アウルムって話だぜ」

「アウルムって……精霊付きか?」

「そういえばリョータ・サトウは前からアウルムをコントロールしてたな」

「でも精霊付きはリョータじゃなかったか?」

「じゃなくて――あれがアウルム本人」

「……え?」

「精霊そのもの」

「えええええ!?」


 その場にいる、事情通をのぞいた全ての冒険者が一斉にシリコンの入り口にぱっと振り向いた。


 全員がおどろきと感動、そして尊敬の瞳をしていた。


     ☆


 夜、風呂からあがって、台所にいって冷たいものでも、って思っていたら。


「リョータ!」

「うわっ!」


 いきなり真横からタックルされた。

 とっさの事で踏ん張ってどうにか尻餅をつくのを免れた。


「いきなり何するんだ……ってアウルムか」

「ありがとうリョータ! 本当にありがと」

「うん、ああそういうことか」


 抱きついてくるアウルム、その横にミニ賢者のミーケがいるのが見えた。


「その様子だとだいぶ満喫したみたいだな」

「うん! この街の全部のダンジョンに行ってきた!」

「そうか」


 アウルムをアウルムダンジョンからつれだしてミーケに紹介すると、彼女はエミリーの夕飯を完全に忘れて、ミーケを連れて出かけて行った。


「楽しかったみたいだな」

「うん! ほかのダンジョンをはじめて見た!」

「そうか。悪かったな、今までつれてけなくて」


 アウルムをダンジョンから連れ出したのは元々、彼女が「外の世界を見たい」という願いを持っていたからだ。

 これまでにあった精霊は皆、それぞれ違う願いを持ってる。


 アルセニックは食欲を、セレンはまあ性欲を。

 アウルムは深窓の令嬢かってくらい、外の世界を知りたがっていた。


 だから俺はドロップSと屋敷の転送部屋を使ってアウルムから連れ出したのだが、ほかのダンジョンには連れて行かなかった。


 理論上それも出来るのだが、ダンジョンに入るたび、階層を跨ぐ度に魔法であっても一回殺して金塊をドロップさせて、それからハグレモノに孵すって手順が必要だ。


 そこまでは――って事でしてやれてなかった。


「ほかのダンジョンも面白いね!」

「そうなのか」

「うん! 赤い雪とか降ってた」

「ダンジョンスノーか。そういえばアウルムにはなかったかな」


 ハイテンションでほかのダンジョンの事を話すアウルム。

 オモチャ売り場にいる子どもみたいなテンションだ。


「それならランタンとかも気に入るかもな」

「どういうの?」

「それは行っての楽しみだ。ミーケ、後で転送ゲート使って連れて行くから、明日にでもアウルムを――」

「今夜行きたい!」


 アウルムが俺の言葉を遮った。

 よほど行きたいんだな。


「わかった。ミーケは大丈夫か? 疲れてないか?」

「大丈夫です。アウルム様のお役に立てて嬉しいですし、それに」

「それに?」

「これ、リョータ様に」


 ミーケはごそごそと何かを取りだし、俺に渡した。


「金塊か、一キロあるな」

「アウルム様からもらいました。これをリョータ様に」

「いや、それはお前が持ってろよ。お前が稼いだものなんだから」

「でも」

「いいんだ。それよりもアウルム、ミーケはこれから『ミーケ・アウルム』って名乗ってもいいよな」

「もっちろん! ずっと友達だよねみーちゃん!」

「は、はい!」


 アウルムのテンションに逆に押され気味のミーケ。

 これくらいハイテンションなら、後は大丈夫だろ。


 ずっと懸案の一つではあったんだ。

 俺が出張してる間、はじめての場所に行ってる間、どうしてもアウルムをダンジョンにほったらかしになってしまうのが気になってた。


 それをミーケが解決してくれたことがほっとして、素直に嬉しかった。


「リョータ様」

「うん? どうしたミーケ、そんな申し訳なさそうな顔をして」

「アウルム様を案内してる間にいろんな人が言ってるのを聞いてました。ごめんなさい、本当なら『アウルム』はリョータ様なのに」

「それこそ気にするな」


 名前なんてたいした事じゃない。


「なに? リョータにあたしの加護がなくなると困るの?」

「人間社会でそう見られるのは困るかもなって事だな。俺は気にしないが」

「だったら、わかりやすくこうしよう。この屋敷リョータのだよね」

「うん? ああそうだけど?」

「じゃあさ――」


 アウルムは手をスゥと差し出して、パチン、と指を鳴らした。


 シーン。


 何も起こらなかった。

 いや何も起こらないはずがない。

 この世界では精霊はある意味神だ。そして彼女らは特殊な能力を持っている。


 そのアウルムが何かをしたそうにパチンと指を鳴らして、それでなにも起こらないはずがない。


 何がおこったんだ? と、思っていると。


「あはははははは、なにこれ、あはははははは」


 屋敷の外から笑い声が聞こえてきた。

 アリスの笑い声だ。


 俺は窓をあけて顔をだして。


「どうしたんだアリス」

「それはこっちの台詞だよリョータ。何これ、アウルムちゃんがなんかしたの?」

「なんかしたのはしたけど……」


 どういう事だとますます困惑する俺。

 アリスが一目でわかる位、アウルムが何かをした。

 それがなにか――って思った途端。


「うおっ!」


 思わず声が上げるくらいびっくりした。


 ちらっと見えたので、更に身を乗り出して振り向いてみた。

 それではっきりと分かった。


 一部しか見えてないけど、多分全部(、、)そうなんだろうって推測出来る見た目だった。


 屋敷の外壁が、完全に黄金になっていた。


 頭を引っ込めて、アウルムに聞く。


「これをやったのか」

「うん、色々黄金にかえた。本当に加護があるのがリョータってわかる様にしたよ」

「なるほど」


「あははははは」

「これは立派なのです」

「低レベルのくせに生意気な」


 窓の外から次々と仲間達の声が聞こえてきた。

 秀吉ばりの黄金屋敷に感動してるのか――と思っていたら。


「余、参上。ううむこれには負けてしまうな」


 セルの声までも聞こえてきた。

 ……負ける?


 何となく悪い予感がして、もう一度窓から体を乗り出した。

 すると屋敷の庭、その一角で仲間達とセルがあつまっているのが見えた。


 全員が取り囲んでいるものがある、それは俺の形をした等身大の黄金像だった。


「銅像からパワーアップしてる!?」


 悲鳴に近い声をあげてしまった。

 セルが「負けた」って言ったのはやっぱりこういうことか。


 俺は慌ててアウルムに像だけでも引っ込めようと言おうとしたが。


「リョータ様……格好いいです」


 ミーケがキラキラした目で、窓枠に小さな体をぶら下げて黄金像を見つめていた。


 まるで子供の様な純粋な瞳に水をさす事ができなくて、アウルムにやめてくれ、と言えなかった。


 こうして、わがリョータ・ファミリーは。

 黄金屋敷と黄金像。

 そして、ユニークモンスターかつ精霊付きの仲間が新たに加わったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ダンジョンスノーが赤いとありますが、赤いのはダンジョンが死ぬときの雨で、雪は白色では??
[気になる点] 以前黄金の屋敷って却下されてませんでしたっけ?
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