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235.ユニークモンスターを産む

 ランタンダンジョン、地下二十階。


 屋敷の転送部屋をつかって、シクロから直接飛んで来たおれが見たのは、物々しい空気を醸し出す番兵だった。


 番兵は上下の階に続く階段の所を門番のように守っている。


「むっ、そこにいるのは誰だ!」

「えっと……」


 別にやましい事はないが、この空気はさてどうしたもうかと戸惑ってしまう。

 隠れる必要もないので普通に番兵の前に出ていったら。


「あっ――失礼しました!」


 番兵の若い男は直立不動でかかとを揃えた感じで、俺に敬礼した。


「サトウさんとは知らず怒鳴ってしまってすみません」

「いやいいんだ――って、俺の事を知ってるのか」

「はい! ボドレー・リョータのサトウ様ですよね。この階の護衛をしてる人間なら全員知ってます!」

「なるほど。なんで護衛してるんだ?」

「ボドレー・リョータは生産管理してるからです。免許がない人は買い取りしない風になってますけど、それだけだと闇市に流れてしまうので、生産現場から管理しようって事になりました。フィリン協会が決めた事です」

「なるほど」


 結構本格的に生産管理するんだな。

 こりゃもうちょっとしたら、シーズンごとに「ボドレー解禁!」がフィリンで――いやシクロでも流行りになるかもしれないな。


 ブランドの維持ってたいへんだな。


「仕方ない、ちょっと街の方に出るか。マオに言って免許をもらわないと」

「あっ、協会長から伝言を言付かってます」

「うん?」

「『リョータ様はいくらでもどうぞなの』、とのことです」

「いいのかそれで」

「言付けじゃないですけど、俺ら護衛にはこうも言ってました。『リョータ様が自分で飲むのはもちろんオーケーなの。売るとしても免許無しで高く売るならそれでいいの』……だそうです」


 至れり尽くせりだな。

 まあでも、


「分かった、お言葉に甘えさせてもらう」

「はい、どうぞ」


 俺は番兵の男に別れを告げ、モンスターを倒し、人数分(、、、)のワインをドロップさせてそれを屋敷に持ち帰った。


     ☆


 屋敷のテラス、俺は外に出て夜風に当たっていた。

 ワインをそれなりに飲んだせいで、耳の付け根が熱くて、体が火照っている。


「なにしてんのリョータ」


 中からアリスが出てきて、俺の隣にやってきた。


「ちょっと酔いを覚ましてたんだ。飲み過ぎたかもしれない」

「そうなの?」

「美味しい酒だったからな」

「うん、美味しいよね!」


 にこりと笑って、持ってきたワイングラスに口をつけるアリス。

 多分だけど、彼女のいう「美味しい」と俺の言う「美味しい」は意味合いが違う。


「本当に美味しいよねボドレー。さすがリョータ、すごいよ」

「そうか?」

「うん! ほらみんなも大喜びで飲んでるし」


 アリスの肩に乗っかってる仲間のモンスターの事だ。


 スライムのプルプル、スケルトンのホネホネ、小悪魔のボンボン、ニードルリザードのトゲトゲ、マスタードラゴンのガウガウ。

 SDサイズでデフォルメされたアリスの仲間モンスターが、彼女の持ってるグラスの中身をチロチロと舐めるように飲んでいる。


「この子達も、物食べるんだ」

「滅多にないけどね。でもすっごく美味しそうに飲んでる。やっぱりリョータのお酒だからかな」

「かもな」


 フィリンが生産管理をするって決めたほどのワイン、それを俺のドロップSで出した最高の品質。


「モンスターも虜にする酒か」

「ケルちゃんも美味しい美味しいって飲んでるよ」

「ケルベロスか、まあアイツは普段から飯とか食うからな」


 我が家の番犬、サーベラスのハグレモノ、ケルベロス。

 アリスの仲間モンスターとはまた別枠の存在だ。


「ねえねえ、今度また品種改良する時はあたしも一緒に連れてってよ。リョータが品種改良してる所見せて」

「そうだな……じゃあアリスが精霊付きになったらな」

「そうだね! 精霊付きじゃないとやっちゃダメになったもんね。うん! あたし頑張る!」

「ああ、頑張れ」


 意気込む我が家のサモナー、彼女もきっとそのうちどこかのダンジョンを制覇して精霊付きになるんだろう。

 なんとなく、そんな予感がした。


     ☆


「う……ん。ふわーあ」


 翌朝、朝日の中で目を覚ました俺。

 エミリーの家――もはやスキル名みたいにそういう(、、、、)効果が出ている最高のベッドの上で寝たおかげで、スッキリ快眠、完全に回復した。

 今日も一日頑張ろう――と思っていたその時。


 ふぁさ。


 毛むくじゃらな何かが俺の顔を撫でた。

 ふぁさ、ぱた。ふぁさ、ぱた――。

 知っている感触、犬の尻尾の感触だ。


「布団に潜り込んできたのかケルベロ……ス?」

「おはようご主人様」

「……」

「どうしたのご主人様?」


 目をあけて体を起こした俺を見つめるケルベロス(?)。


「お前……ケルベロスか?」

「うん、僕ケルベロス。ご主人様に名前をつけてもらったケルベロスだよ」


 それがどうしたの? と言わんばかりに小首を傾げるケルベロス(?)。

 俺はそいつの顔を掴んで、窓の方に向けた。

 鏡の機能も発揮している窓に映し出されたのは巨大なコッペパン、柴犬っぽい姿のケルベロス(?)だった。


     ☆


「ユニークモンスターだ」


 ダンジョン協会の会長室で、向き合ったセルが断言口調でいった。


「ユニーク……」

「……モンスター?」


 それを聞いた俺とケルベロス、視線を交換して、やはり首をかしげてしまう。


「なんだそれは? ユニーク……珍しいの方の意味のユニークだよな」


 セルは頷いた。


「突然変異種とも言う。ハグレモノが何かの拍子で、その種族の中で本人だけの見た目に進化する事がある」

「レアモンスターみたいなものか」

「違う。レアモンスターは同じ階層に住んでいるが、別のモンスターだ。スライムの変異種とスライムブロスは別物だ」

「つまりケルベロスは種族としてはサーベラスのままだけど……うーん」


 腕組みして首をかしげる。

 どういう表現が一番しっくりくるのかを考えた。


「世界でたった一匹だけの珍しいサーベラス、ってことか」

「その通りだ。しかし……いやはや」


 セルは巨大柴犬になったケルベロスを見た。


「まさかユニークモンスターになるとは、さすがサトウ様だ」

「うん? なんでさすが俺なんだ?」

「ユニークモンスターは99%がハグレモノから変化する。なぜなら人間の波動や魔力、生命力など――、つまり人間特有のエネルギーを浴び続けなければ変化しない。99%がハグレモノなのは、飼い主のエネルギーを浴び続けるからだ」

「ああ……ダンジョンのモンスターだとすぐに討伐されるからな」


 セルはうなずいた。


「とは言え飼ってるからと言ってそうそう変化するものでもない。100匹に一匹程度だ。しかも大抵は数年から数十年かかる。サトウ様がその犬を飼い始めたのは――」

「一年も経ってないな、まだ」

「やはりすごい、さすがサトウ様だ」

「にしても、なんでいきなり変化したんだ」

「サトウ様のエネルギーを大量に摂取したことは?」

「……ああ、ワイン。昨日ボドレーを大量に飲ませたんだ」

「それだな」


 俺は巨大な――ワゴン車くらいはある柴犬のケルベロスを見あげた。


 ユニークモンスター、柴犬のケルベロス。


 我が家の愛犬が少し進化した。

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― 新着の感想 ―
[一言]ワゴン車くらいはある柴犬のケルベロス…欲しい。
[気になる点] >にこりと笑って、持ってきたワイングラスに口をつけるアリス。 もはや、当たり前のように子供が飲酒しているなぁ。作者は設定を忘れがち。
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