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227.三つの炎

 会長室の中、マオは俺の真横に座っている。

 それまで真ん前でテーブルを挟んで座っていたのが、テールをどかしてまで俺の横に座ってきた。


「あの……会長?」

「なんですの?」

「なんですのというか、なんで俺の横に?」

「気にすることないの」

「気にするなって言われても」


 この状況で気にしない方が難しい。

 マオはニコニコと、キラキラした目で俺を見つめてくる。


 原因は――俺が「Aのマックス」だって分かってからだから、それだろうな。

 そのせいで懐かれた(、、、、)だろうな、とはっきり分かる。


 それはそれでいいとして、俺は咳払いして、話題を変えた。


「そういえば、ダンジョンマスターがでるのはいつ頃なんだ?」

「二日後、ランタンの20階なの」

「その予報は確かなのか」

「お酒がそう言ってるの」

「うん? どういうことだ?」


 マオの言葉に首をかしげると、立たされたテールが答えた。


「会長はお酒の品質からダンジョンマスターの出現時期が予想出来るッス。的中率百パーセントなんッスよ」

「そうなのか?」

「なの!」


 マオはVサインをした。

 こうしてみるとただのかわいい女の子だが、そんな特技まで持ってるのか。


「ダンジョンマスターがでる時期が近づいたりすると品質が上がったりするのか? いや下がるのか?」


 ダンジョンそのものを支配しているダンジョンマスター。

 たまにしかでない事から、


・ダンジョンに何かが溜まりきった所で産まれる

・ダンジョンから何かがなくなったところで出てきて補充する


 という、二つのパターンを予想した。

 マナとか精気とか、そういうものを想像してる。


 だが――


「違うの。ダンジョンマスターがでそうになった時はこう、お酒がガーってなって、むーんな匂いがおノンノンなの」

「君をミスターと名付けよう」


 なるほど分からん、という言葉が脳裏に浮かんだ。

 完全に感性型、天才肌の仕事だ。


 ともあれ、百パーセントだって言うのならそれはありがたい。

 だからこそエリックがこの計画をたてたんだろうな。


 ならば当日は――って計画を頭の中で練りだしたその時。

 マオが更に俺を見つめている事に気がついた。


 さっきよりも更にキラキラ目、何かを期待しているって感じの目だ。


「どうしたんだ?」

「明日になったらでる時間もわかるの」

「近づいてくると細部もわかるようになるってことか」

「なの!」


 頷くマオ、何かを期待する様な眼差しはますます強くなった。

 俺は少し考えてから。


「じゃあ、分かったら一番に教えてくれないか」

「マオに任せるの!」


 彼女は大喜びして、パッと飛び上がってぐるっと一回転した。


 どうやら相当懐かれたみたいだ。


     ☆


 夜、フィリンの街の宿屋。

 広い部屋を取った俺は、対角線上にビールを置いて、遠く離れて待機した。

 しばらくして、ビールから炎の足軽がハグレモノに孵った。


「いけね! ――リペティション」


 慌ててリペティションを使った。

 炎の足軽が纏ってる炎が壁を少しこがしてしまった。


「ワインにすればよかった……」


 反省しつつ、ハグレモノのドロップを確認。

 炎の足軽がドロップしたのは銃弾だった。


 まったく新しい、いままで見た事のない銃弾。


「特殊弾か……ならまずは量産だな」


 俺は宿を出て、街中をぶらついた。

 酒造の街、フィリン。

 一番ランクの低い安酒がただで飲めるように、街の至る所で提供されている。


 樽に入ったいろんな酒を見つけた。

 ビールは……炎の足軽は多分まずい、これからやる事を考えたら多分引火する。

 俺はワインの入ったタルを確認して、それを担いで街からでた。


 街から離れて、人気の無い所でタルを置いた。


 そして距離を取る。

 しばらくすると、タルの中から氷の足軽が孵った。


「リペティション!」


 魔法を使って、氷の足軽を倒した。

 ポーチに新しい特殊弾が入った。


 すぐにまたタルから氷の足軽が出てきた。


 タルのお酒、まるで命の水だ。

 そこからモンスターが次々と孵って出てくる。


 銃弾は使わなかった。

 ビールにしなかったのもそれだ。

 ワインに銃、それで引火するとは思わないが、酒をタルごと持ってきて、次々とハグレモノを孵すという手順上、引火させる可能性のある行動は避ける。


 この場合のリペティションは横着じゃなくて、最適解だ。


 孵ったそばからリペティションで倒して、ポーチで特殊弾をゲット。

 孵る度にタルの中の酒が減っていった。


 やがてタルの中身が空っぽになって、最後の一体の氷の足軽になった。


「数は溜まった、テストするか」


 酒がなくなったので、遠慮無く銃を抜き、新しい特殊弾を装填する。


 それを込めて、氷の足軽に撃った。

 命中した瞬間、氷の足軽が燃え上がった。


 ただの火炎弾じゃない、青い炎だ。


「アルコールか」


 なるほどと思った。

 中学くらいの時に授業の実験で使ったアルコールランプの事を思い出した。

 その時の炎がこういう色だが、


「それよりも更に青いな」


 炎の赤やオレンジというった色はまったく含まれない、完璧な青。

 (あお)といってもいい位だ。


「さしずめ蒼炎弾ってところか」


 もう一発撃ってみた、比較用に火炎弾も撃ってみた。

 赤と蒼、隣り合う二種類の炎は壮観だ。


「……」


 二種類の炎が消えた後、俺は再び銃を構えた。

 片方に火炎弾、片方に蒼炎弾。


 両方同時に撃って、軌道を重ねて融合させる。


「あれ? 何も見えないって熱っ――!」


 融合した瞬間何も起こらないと不思議がっていたが、次の瞬間にものすごい熱が襲いかかってきた。

 コンサートなんかでの炎の演出があるが、あれは遠く離れてても熱が一瞬で襲ってくる。


 あれの百倍近い熱が襲ってきた。


 とっさに腕をクロスしてガードしつつ、地面を蹴って大きく飛び下がった。


 距離を取って熱から離れて、気づいた。

 何もないわけじゃない、融合弾が発生した空間が歪んで見える。

 陽炎。真夏の炎天下で道の光景が歪んで見えるのと同じで、それよりも遥かにゆらゆらして景色が歪んでいる。


 火炎弾と蒼炎弾の融合弾。

 見えない炎は、とんでもない熱量を出す融合弾のようで。


 試しに近くの木にそれを撃ったら。


「……おいおい、やばすぎるだろこれ」


 灰すら残らず、見えない炎が一瞬で何もかもを焼き尽くしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >的中率百パーセント 前の話では99%だったような >試しに近くの木に 草木も存在しない世界では?
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