224.サケとサカナ
ランタン地下二階。
地下一階と同じように、忍者屋敷っぽい内装のダンジョンだ。
ここにも大勢の冒険者がいて、モンスターと戦っている。
そのモンスターは上の一階と同じ足軽、ただし髪の色や鎧、持ってる槍などは「氷属性」で統一している。
いわば氷の足軽、上が炎の足軽だって事を考えれば――
「しばらくは属性足軽シリーズかな」
と、推測してみた。
推測なのは相変わらず前情報を仕入れてこなかったせいだ。
訓練してあらゆる状況に対処出来るように自分を鍛えてる一環で、前情報無しでダンジョンに来るのがほとんどだ。
氷の足軽とエンカウントして、銃を抜く。
通常弾より強くなった成長弾でヘッドショット、眉間を撃ち抜く。
パシャン! と液体がぶちまけられた。
ワインの香りだ、どうやら地下二階の氷の足軽はワインをドロップする様だ。
瓶を持たないまましばらく歩き回って足軽を倒す。
エンカウントした足軽を捕まえて、至近距離から成長弾で脳天をぶち抜く。
パシャン! とドロップしたワインの一部を手ですくった。
色が透明から黄金色に近い、白ワインだ。
何体か氷の足軽を倒し続けた。
全部が白ワインだ。
ランタンダンジョン、地下二階。
氷の足軽のドロップは白ワインで決まりだな。
それが分かったことだし、次は地下三階に行こう、と思ったその時。
「ぐわっ!」
「出たぞ!」
「誰か早くみつけて始末しろ!」
急に、ダンジョン内で悲鳴と怒号が響き渡るようになった。
出た、って言葉に俺はダンジョンマスターを連想したが、そうじゃなかった。
ダンジョンマスターの出現ならダンジョン内から他のモンスターが完全に消える。
しかし今はそうなってない、目の前に氷の足軽が現われている。
ダンジョンマスターではないが、氷の足軽の持ってる武器が違った。
それまでは槍を持っていたのが、火縄銃を持っていた。
それを構えて、うってきた。
サッとよけた、弾の速度はそれなりだが、よけられないほどじゃない。
「おいおい」
俺はちょっと苦笑いした。
足軽が弾の装填をしだした。
一発しか撃てない上に、装填に時間がかかる火縄銃。
それを氷の足軽はもたもたやっている。
槍に比べて実質弱体化じゃないか、と思いつつゆっくり銃を構えて成長弾でそいつをぶち抜いた。
武器に変化はあったが、ドロップの白ワインはまったく一緒だった。
俺は更に歩いて回った、何が起きたのかが知りたくて。
「むっ!」
広い空間――というか部屋っぽいところにでた。
そこには冒険者が一人に対し、氷の足軽が二十を超えている。
氷の足軽は火縄銃を撃った。
単発で装填極遅の火縄銃だが、数は驚異だ。
鉛の弾が一斉に冒険者に飛んでいった。
冒険者は怯えた顔をしてる、反応しきれてない。
「ちっ!」
二丁拳銃に通常弾をフルで装填して、連射した。
氷の足軽集団が撃ってきた弾を全部空中で打ち落とした。
が、それだけで終わらなかった。
次の斉射がすぐに来た。
これも数の暴力だ、信長の三段撃ちの如く連射が飛んで来た。
更に通常弾を込めて、全部撃ち落とす。
「す、すげえ……」
さっきまで怯えていた冒険者が目を丸くしていた。
俺は銃弾を全部撃ち落としつつ前進する、すると、足軽の向こうに別のモンスターが見えた。
足軽と似ているが、ちょっとだけ格好が偉そうなヤツだ。
「なんだこいつは」
「そいつがレアモンスターの足軽大将、そいつを倒せば足軽たちは槍にもどる」
「なるほど」
最初に聞こえていた「見つけて倒せ」っていうのはこういうことだったのか。
通常弾で火縄銃の三段撃ちを打ち落としつつ、火炎弾と冷凍弾で消滅弾を撃った。
速攻しないとややこしくなる状況、初手から安定して大ダメージを与えられる消滅弾を使った。
それは効果的だった。
消滅弾は足軽大将の上半身を丸ごと呑み込んだ、たおした。
足軽大将が消えて、何かをドロップした。
それと同時に足軽達の武器が火縄銃から槍にもどった。
「戻ったぞ!」
「誰かしらんがありがとう!」
あっちこっちから感謝の言葉が聞こえてきた。
火縄銃の足軽。
一体だと弱体化したように感じられたが、集団だとバッチリ強くなっていた。
レアモンスター足軽大将、こいつが出てくるとダンジョンの難易度があがるな。
そんな事を思いながら、足軽大将がドロップしたものを拾い上げた。
ネックレスだった、魚の形をモチーフにした銀のレックレスだ。
「なんだこれは」
「足軽大将のドロップ品だ。珍しい物だけど、あんまり使えないものなんだ」
怯えてた冒険者が答えてくれた。
「使えないもの?」
「それをつけて足軽を倒してみろ」
「ふむ」
言われた通り、ネックレスをつけて氷の足軽を一体撃ち倒した。
パシャン――って聞こえるのかと思ったらそんな事はなかった。
ポン、と聞き慣れた音がして、一切れのチーズがドロップした。
「チーズ?」
「そいつをつけてると、ドロップが酒じゃなくて酒のつまみになるんだ。もちろん階ごとに違うけど、ここに来てる奴らにとって酒じゃなくてつまみがドロップされてもうれしくないんだ」
「なるほど、だから使えないものか」
「そういうことだ」
冒険者はそう言って、最後にもう一度「すげえ、ありがとう」といって、自分の周回に戻っていった。
俺は拾い上げたチーズをじっと眺めてから、口の中に入れた。
まあ、美味しい。
うん? 白ワインにチーズ? ってことは?
ある予想をして、俺は地下一階に戻った。
ランタンダンジョン、地下一階、炎の足軽。
魚のペンダントをつけて、そいつを倒す。すると枝豆がドロップされた。
白ワインにチーズ、ビールに枝豆。
割と面白いペンダントだった。