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218/611

218.亮太付き

 セレンダンジョン、地下一階。

 今日もレイアと一緒に成長弾のレベル上げをしていた。


 俺が成長弾で撃って、レイアがリヴァイヴで戻して、俺が成長弾で撃つ――。

 いつも通りのレベル上げの作業……なのだが。


 ざわざわ。


 周りはいつも通りじゃなかった。


 普段は冒険者達がそれぞれのやり方でモンスターを狩って周回しているダンジョンだが、今日は何故か俺たちを遠巻きにしてこっちを見つめている。


 それも一人や二人じゃない、十人二十人というレベルだ。


「一体どうしたんだろう」

「私が見られてます」

「そうなのか?」


 驚き、手が止まってレイアを見つめてしまう。

 レイアは少し顔を赤らめて、答える。


「さっき聞こえました。『あの子がレイア・セレンなのか』、って」

「……ああ、なるほど」


 納得した。

 ここはセレンダンジョン、そしてレイアはダンジョンの精霊・セレンから名前をもらった新しい精霊付き。

 注目を集めるのは当たり前かもしれない。


 念の為にレベル上げの手を動かしつつ、耳を澄ませてみた。


「あれが精霊付きか……やっぱり違うよな、オーラが」

「嘘おっしゃい、何も分かってないでしょ」

「いやでも精霊に認められるのはすげえよ。俺ずっとあの子が無限に魔法を使えるのが気になってたけど、それが精霊の加護なのかもな」


 レイアをうらやましがったり、憧れたりする冒険者は少なくない。

 中には鋭い者もいて、レイアの加護をぴったり言い当てていた。


「マスター」

「――うん? どうしたレイア」

「私に命令を」

「命令?」


 いきなりどうしたんだとレイアを見る。

 すると普段と同じ表情が乏しいままだが、瞳がまっすぐ俺を見つめてて何かを訴えかけてくる。


 なんだか分からないけど、とりあえず何か命令しとくか。


「そうだな、じゃあ少しペースを上げようか。倍速くらいで」

「分かりました」


 レイアは手元に集中した。

 今までは反復作業って事で、だいぶだらだらでやるようになっていた。

 何日も同じことを繰り返せばそうなる。

 こういうだらだらにならないためにニホニウムの時はついでに修行もやってたんだけど、さすがに成長弾の要求回数が多すぎて作業にならざるをえなかった。


 そのペースを上げた。


 レインボースライムがドロップした瞬間にレイアがリヴァイヴをかけた。

 ドロップ品が現われる一瞬、ほとんど見えない程度の速さだ。


「……」


 俺はそれに合わせた。


 リヴァイヴをかけた瞬間、レインボースライムに戻った瞬間成長弾を撃って倒した。

 スライムが現われる一瞬、ほとんど見えない程度の速さで。


 リヴァイヴ、撃つ。

 リヴァイヴ、撃つ。


 二人とも全力でやった。

 すると、何も見えなかった。

 ドロップ品もスライムも何も見えなく、そこの映像――空間がブレ続けているという風に見えた。


 それがよかった。

 ここまでの数日間のマンネリを打破するやり方、スピードの限界の追求。

 俺は集中した。

 周りの雑音がまったく聞こえなくなるくらい集中した。


「ペースアップした、すごいな」

「精霊付きに命令したぞ? あいつなにものだ?」

「しらないのか? あのリョータファミリーのリョータ・サトウだよ」

「えええええ!? あの?」


 集中して、いわゆるゾーンに入った感覚で。

 周りの声がまったく聞こえてこなくて。


 この日、成長弾が通常の倍近く成長して、レベル15になった。


     ☆


 夕方、転送部屋を経由して、アウルムを迎えに行く前にモンスターの村によった。

 最近使ってないからストックがあって、故に加速弾の回収を後回しにした。


「リョータさん!」


 村にやってくると、クレイマンと他のモンスターが俺を見つけてやってきた。


「お疲れさん、どうした、みんな揃って」

「お願いがあります」

「お願い?」


 何か起きたのか? と眉をひそめた。

 クレイマンを始めとするこの村の住民であるモンスター達が、全員揃って真剣な顔をしている。


「何かあったのか?」

「リョータさんの名前を下さい」

「名前?」

「はい! この村の名前にリョータさんの名前を」

「それって……」


 俺はモンスター達を見回して、彼らが住む村を見回した。


「この村を『リョータ』にしろってことか?」

「はい!」


 言葉を話せるモンスターはクレイマンと口を揃えて、しゃべれないモンスターは鳴き声をあげた。


 この村に俺の名前を……リョータ……。


「いやいやいや」


 慌てて両手を交錯するように振った。


「それはすごく恥ずかしいぞ。自分の名前が村になんて」

「ダメですか?」

「そもそもなんでそんな事を急に思ったんだ?」

「私が説明するわ」


 モンスター達の向こう、村の奥からセレストが現われた。


「セレスト、来てたのか」

「ええ、仕事の指導でね」

「なるほど」


 この村は俺の斡旋でインドールのゴミ処理をしている。

 そしてセレストは俺の仲間になる前はゴミ処理の仕事をしている。

 その指導に来てたってことか。


「それは分かったけど、どういう事なんだ?」

「世間話で精霊付きの話をしたの。レイアにセレンの加護がついて、名前をもらったって。そうしたらこの村も加護が欲しいって話になったのよ」

「村?」

「ええ。ここはモンスターの村、リョータさんの威光で迫害をされずに済んでる」

「ああ」

「それをもっとはっきりするために、村の名前を『リョータ』にしたら? という話になったの」

「つまり……ケルベロスの首輪か」


 頷くセレスト、期待の籠もった眼差しを向けてくるモンスター達。


 この村のモンスターは、形式上全員俺のペットだ。

 ハグレモノは基本暴れるから討伐されるものだが、誰かが責任もって管理か飼育……ペット扱いにすれば討伐から免れる。


 それがケルベロスであり、この村であるわけだ。


「なるほど……」

「リョータの名前にすれば、ますますこの村に手出しする者はいなくなるわ。リョータに正面からケンカを売るバカでも無い限りは」


 そう言い切ったセレスト。確かにそうかもしれない。

 モンスターたちをみる、全員からお願いの目で見られた。


 そういうことなら……断れないな。


「分かった。今日からこの村は『リョータ』だ」


 言った瞬間、歓声があがった。

 バンザイをするモンスターもいる。


 必要だからやったのはいいけど、やっぱり村に自分の名前をつけられるのは恥ずかしいな。


「ふふ」


 セレストが微笑む。

 この時俺は、セレストの微笑みを誤解していた。


 この村のために出したアイデアが通ったための微笑み、だと思っていたが。


 後日セルに。


「さすがサトウ様。名前を与える側になるとは」


 と尊敬の目で見られて、ようやくセレストの微笑みと真の企みに気づいたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、何で装備品のレイアの方が「あのレイアか!」ってなって主人の方が分からないんだよ・・・お前どういう情報を手に入れたの?「レイアって装備品の姿をしてるんだ!」って情報を知ったんなら「…
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