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216.とんでもない要請

 シクロダンジョン協会、会長室。

 エミリー、レイアを連れて、久しぶりにここにやってきた。


 あの後、家に帰ろうとしたらセルからの使いの者が来て、話があるからって呼ばれて来たのだ。


 会長室の中、俺とエミリーは座ってて、レイアはそうしたいって主張したため俺の横に立ってる。

 俺たちの向かいに、セルが座っていた。


「レベッカ・ネオンとお会いしたと聞いた」

「耳が早いな、というかそれってよびだされる程の事なのか?」

「ザ・パーフェクト、ネオンの名前とネオンダンジョンを支配する女、世界一位。それほどの女がシクロにやってきた時からマークはしていた。そしてサトウ様と接触を持った。気にしないではいられないものだ」

「世界一位と三位なのです、ちょっとすごい現場だったです」


 エミリーがいい、セルが頷いた。

 なるほど、そう考えると確かに、ダンジョン協会長のセルは注目すべき状況だな。


「何を話したのか、差し支えないのなら教えて欲しい」

「俺に興味をもったから会いに来たらしい」


 別に隠す程の事じゃないから、素直に話した。


「……なるほど」

「精霊付きって知ってるか?」

「彼女がそうだと認めたのか?」


 眉を微かにひそめるセル。


「今までは認めてなかったのか?」

「公言はしていない、しかしそうだろうと皆思っている。サトウ様と同じように」

「ああ、俺も公言はしてないもんな」


 というかそういう分類があるのをついさっき知ったばかりだし。


 知らなくて公言はしてないけど、アウルムのルールを度々変えたんだから、なるほど多分世界中の冒険者には精霊付きだって認識されてるんだな。


「そうか……やはりそうだったか」


 レベッカがネオンの精霊付き、加護を受けている。

 公言してるのとしてないのじゃかなり違う――と言わんばかりにあごに手を当てて、考え込むセル。


「何を悩んでいるのかは知らないが」


 ふと、レイアが口を開いて、セルに言った。

 セルは顔を上げて、


「どういう事だ?」

「向こうは一人、こっちは三人。精霊の加護が何かを決めるのであっても問題はないと思う」

「三人? ……まさか」


 ハッとして、俺たちを順に見ていくセル。


「セレン」

「アルセニックなのです」


 レイアとエミリーがそれぞれ答えた。

 セルの顔がますます驚きに染まる。


「まさか……ファミリーに精霊付きが三人も?」

「そういう事になるな」

「……さすがサトウ様だ。いつも余の想像を軽く上回ってくる」

「いや、別に俺がすごいって訳じゃ……」

「ヨーダさんがすごいのです」


 エミリーが俺の言葉を途中で遮った。


「ヨーダさんがいなかったら、私おじいちゃんと会えてなかったです」

「私もセレンの加護を受けていない。マスターがいてこそだ」

「それは……そうか」


 エミリーとアルセニック、レイアとセレン。

 確かに二人が言うとおり、精霊に引き合わせたのは俺だ。

 俺がいなかったら精霊とは会えなかったはその通りだろう。


「実質三人の精霊とコンタクトを取ったという訳か……さすがサトウ様だ」


 近いうちにニホニウムとも会う……のは言わないでおいた。

 言ってしまうとますますすごいすごいと驚かれそうだから。


「……」


 ふと、セルはうつむき加減になって、考え込んでしまった。

 威厳のある顔をしかめての思案顔。本気で何かを考え込んでるようだ。


「どうした?」


 聞いてみるが、返事はない。


「難しい顔をしてるのです」

「なんかまずいことでも起きたのか?」

「かもしれないのです。ヨーダさんにお願いするか考えてるに違いないのです」

「あぁ……そうかもなあ」


 エミリーの言うとおりかもしれない。

 何処まで本気なのか分からないが、セルは「亮太教信者」的に振る舞っている。

 どんな難事件でも俺に頼めばなんとかしてくれる、と思っている節がある。


 今回もそんな雰囲気がした。

 そして話の流れから察するに。


「他の精霊ともコンタクトとってくれ、ってとこか?」

「可能性大なのです」

「シクロの全精霊制覇を要請されると予想」


 レイアの予想はかなり本命っぽかった。


 アウルムのいきさつをセルはよく知っている。

 レベッカがネオンを支配しているように、俺もシクロの全ダンジョン、テルル、シリコン、アルセニック、ビスマス、ボーラン、そしてセレン。

 シクロにある六個のダンジョンを全部制覇すればシクロの生産量――ひいては税収が上がると考えるのは当然のこと。


「それを要請してくるかも知れないな」

「可能ですか、マスター」

「やってみないと分からないけど……たぶんな」


 何となく確信に近いものを感じている。

 精霊に会うのはそう難しい事じゃない、あってどうなるかって話だ。

 それをひっくるめて、多分、と思った。


 俺たちがあれこれ言い合いながら、たっぷりと数分間考え込んだセル。


 彼は顔を上げて、まっすぐ俺を見つめた。


「サトウ様、お願いがある。これから折衝や政治があるのだが、もしそれが上手くいったら……」

「いったら?」


 ごくり、って音が聞こえた。

 隣のエミリーが生唾を飲んだ音だ。

 そうなるくらい、セルの表情は鬼気迫るものがあった。


「余の一族がコントロールしているダンジョンの精霊にあってもらえないだろうか」

「……は?」


 予想外過ぎる話が出てきた。


「ステム家がコントロールしてるダンジョンって……金か?」

「うむ。そこの精霊にあってほしい」


 この世界のあらゆる物はダンジョンからドロップされる、金もそうだ。


 紙幣も、硬貨も、全てダンジョンからドロップされる。

 それをコントロールしているのがセルの家、ステム家だ。

 つまりステム家はこの世界における日銀的な家だ。


 真顔のセル、俺にそのダンジョンの精霊と会ってくれって言ってきた。

 予想外だし……ものすごい話だ。


「うわあ……ヨーダさんすごいです……」


 目の前でセルが真顔になってて、横でエミリーが舌を巻いていた。


 でかすぎる話に一瞬気後れしたが、セルの顔が――。


「どうしても必要なのか」

「うむ」


 真剣すぎる顔がはっきりと頷いた。

 そういうことなら断れないな。

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