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214.真の支配者・エミリー

 朝ご飯を食べた後、皆がそれぞれダンジョンに出かけて行く時間。


「たのもー!!」


 屋敷の外から大声が聞こえた。


「お客様なのです?」

「たのもーって、なんか古風だわね」


 小首を傾げるエミリー、微苦笑するセレスト。


「なんか面白そう、あたし出てくる」

「あたしもー」


 アリスとアウルム、二人は一斉に食堂を出て、表に向かった。

 こうなると俺も行かざるを得なかった。


 他のみんなはともかく、アウルムは俺がアウルムダンジョンに送って行かなきゃ行けない。

 彼女が戻ってくるまで俺もダンジョンにいけないから、付き合うしかない。


 それを理解しているエルザがちょっと苦笑いして。


「みんなで見に行きましょう」

「そうだな」


 頷き合って、俺たちは少し遅れて表に向かった。


 屋敷の玄関を出ると、アリスとアウルムと対峙している一味の姿を確認した。

 先頭に若く、ふんぞりかえっている男。

 その後ろにパーティー、仲間らしき男が三人。


 全員が同じような装備をしているパーティーで、先頭の男だけ装飾が派手でいかにもリーダーって感じだ。


「リョータ」

「この人あなたに用事があるんだって」

「お前がリョータ・サトウか」


 リーダーの男は俺を見てにやりと笑って、一歩前に進みでた。

 そのまま俺をまっすぐ見つめて、ふんぞりかえったまま名乗った。


「俺はフィリップ、フィリップ・クラウン」

「ハイランカーのフィリップ?」

「知ってるのかセレスト?」


 振り向き、名前を聞いた瞬間声をあげたセレストに聞く。


「ええ、世界で一番レベルが高い男よ、たしか――」

「ふっ、255だ」


 フィリップは誇らしげにいった。


 へえ、レベル255か。結構すごいな。

 今まで見た中で一番レベルが高いのがマーガレットの99だ。

 レベルの上限は人それぞれだから、99が最高ではなく100を越える人間もいるだろうと思ってたけど、やっぱりいたか。


「で、そのフィリップさんが俺に何の用だ」

「宣戦布告だ」

「はい?」

「リョータ・サトウ。去年はどうやらこの街で一番稼いだ男になったらしいな」

「はあ、まあ」

「だがそれも終わりだ、この俺が来た以上、お前の時代は終わりだ」

「えっと……それってつまり、俺よりも稼ぐって事? シクロで」

「その通りだ」


 フィリップが言うと、彼の仲間達が一斉によいしょをはじめた。


「さすが若!」

「ひゅーひゅー」

「向こうがもう若にびびってますぜ」


 そのよいしょで更に気をよくして、更にふんぞりかえってしまうフィリップ。


 俺は少し考えた。

 それは……なんというか。

 別にいいことなんじゃないのか?

 稼げる人が街にやってくるってことは税収も上がるからな。


「そうか、がんばれよ」

「ふっ、負け惜しみか」

「はい?」

「そうやって舞台に上がらないから負けにはならない、という風に持っていきたいのだろうがそうはいかない。はっきり言おう、お前がどう言いつくろったところではっきりと数字にでる。勝敗は誰の目にも分かるくらいはっきりでるのだ」

「はあ……」


 なんか勘違いしてるな。

 別にいいけど、面倒臭いからもう帰ってもらうか。


「話はそれだけか? だったら俺たちもそろそろダンジョンに行くから、今日はこれで――」

「ふっ、そうやって逃げるつもりだな」


 いやいや。


「お前達も可哀想だな、こんな腰抜けに騙されているなんて。しかしこれで分かっただろ? 悪い事は言わない、早いうちにこの男の元からさった方がいいぞ。なんなら俺が仲間にしてやる」


 ビシッ!


 フィリップがとうとうと高説を垂れているなか、空気が固まってひび割れた様な空耳が聞こえた。


 いや空耳じゃない、よくみると仲間の何人かは割と切れてる。


 セレストの周りに陽炎が揺らめき、エルザは怒りだけで人が殺せそうな目をしている。

 一番怖いのはレイアだ。彼女は出会ってから今までで一番の笑顔をしていた。

 普段笑わない人の笑顔ってこんなにも怖いのか。


「若、どうやらこの人達みんな洗脳されてるっぽいですぜ」

「ふむ? たしかにそういう顔をしている。……よし、リョータ・サトウよ」

「え?」

「俺と勝負しろ」

「……はい?」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。


「今すぐ俺と勝負しろ。この場でお前のバケの皮を引っぺがしてやる」

「ああ、そういうことね」


 話の流れからして、俺をコテンパンにやっつければみんなも目が醒める――って話か。

 なんか面倒臭いな、どうするか。


「低レベルがでるまでもない」

「イヴ?」

「神よ、あなたの出番だ」

「え? わ、私なのです?」


 驚くエミリー、イヴは静かに、しかしはっきりとうなずいた。


「待て待て、俺はリョータ・サトウにだな――」

「そこの高レベル」


 イヴはフィリップに言った。

 「高レベル」なのに語気が妙にさげすんでるのがちょっとおかしい。


「まずは神を倒してからにする」


 イヴの提案、フィリップにエミリーをぶつけるもの。

 それは他の仲間達の同意も得られた。


 みんなが口々にエミリーをはやしたてる。

 エミリーは俺を見た、俺は少し考えて、頷いた。


「分かったです」


 するとエミリーは頷いて、屋敷の中から愛用のハンマーを持ってきて、フィリップと対峙した。


「しかたない、本意では無いが――おい! 彼女を倒したらお前が出てくるのだろうな」

「……ああ、約束する」

「よし!」


 フィリップはやる気になって、武器を取り出した。

 両手につけるかぎ爪だ。

 それをつけたフィリップは残像を残すほどの速度でエミリーに飛びかかった。


 早い!


 さすがレベル255、性格に難はあるけど基礎能力は文句なしに高いみたいだ。


 疾風の如く突進したフィリップの爪が、無防備のエミリーの肩をえぐる。


「エミリー!」


 思わず叫んだ、が。

 肩に当たった直後、ガキーン、と音が鳴って火花が散った。


「大丈夫、なの、です!」


 エミリーは爪を受けたまま、ハンマーを振り下ろした。


 懐かしい。

 エミリーとの出会いを思い出した。

 テルル地下一階、異世界転移した直後の俺にエミリーが見せたモンスターの倒した方がまさにこんな感じだったのだ。


 生粋のパワーファイター、一発受けてのカウンターで仕留める。

 エミリーはあの時と同じ戦い方をした。


 手応えあり、といわんばかりににやりとしたフィリップは躱しきれず、ハンマーを真っ向から受けてしまった。


「ふぅ……」


 エミリーはハンマーを担ぎ直して、額の汗を拭った。

 俺はフィリップをのぞき込む、フィリップの仲間達もおそるおそるのぞき込む。


 エミリーにハンマーで叩かれたフィリップは大の字になって伸びていた。

 命に別状はないみたいだ。


「わ、若!」

「ここはいったん引くぞ!」

「覚えてろよー!」


 フィリップの仲間達は伸びてるリーダーを担いで、捨て台詞を残して逃げ去った。


 残った俺たちはエミリーを取り囲んで、わいわい言い合った。


「すごいわねエミリー、一撃じゃないの?」

「あなたが神だ」

「というか今のなに? アレ当たって大丈夫だったの?」

「大丈夫なのです、おじいちゃんがくれた力で、体の一部だけ自由自在に硬くする事ができるのです」

「アルセニック……精霊の加護」


 へえ、しばらく見ないうちにエミリーもまた強くなってたのか。すごいな。


「いろんな冒険者見てきたけど、多分あの人達勘違いしちゃうと思う。エミリーさんがこのファミリーの本当のリーダーだって」

「それはでもあってるかも」

「うんうん、あってるあってる。というかエミリー、裏の大ボスだよね」

「神がいないと一家バラバラになる」

「そんな事ないです! みんなほめすぎなのです」


 ほめられ慣れてないエミリーは盛大に赤面した。

 だが、俺も同感だ。


 明るくて温かい家、ものすごく美味しいご飯。

 俺がリーダーだけど、ファミリーの「支配者」はエミリーだって思う。


「エミリー、すごいぞ」

「ヨーダさんまで……意地悪っ子なのです」


 エミリーは軽くすねてしまった。

 本気なんだけどな――ってみんなの顔が物語っていた。

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