204.タカラバコ
モンスターの村から今日の加速弾を回収して、インドールに戻る。
ダンジョンと俺の屋敷は繋がってるが、モンスターの村はダンジョンがないから、地味にこの移動が面倒臭い。
とは言え加速弾は貴重で強力だから、多少面倒臭くても回収するけどな。
「ここにははじめてきたけど」
「うん?」
「すごいわね。モンスター達がみんなリョータさんの事を尊敬の目で見てたわ」
一緒にモンスターの村についてきたセレストがしみじみといった。
「全員ケルベロスだったわ」
「確かに全員ハグレモノで、ケルベロスと同じ身の上だからそう見えるかもな」
「それにみんなちゃんと仕事してるわ」
「セレストの後輩って事になるな」
穏やかに微笑むセレスト。
彼女はかつて、ドロップの低さと、戦闘での燃費の悪さから、ダンジョンに入れないでゴミ処理の仕事をしていた。
あのモンスターの村がしてるのと同じ仕事だ。
「話には聞いてたけど、思ったよりもすごい集まりだったわ。百聞は一見にしかずってまさにこういうことね」
またしみじみという。
写真とか動画で見せたらイメージしやすかったんだろうな。
あらゆる物がドロップするこの世界だが、さすがにそういう機械は世界的に存在しないからドロップのしようが無い。
いや? カメラはないけど、カメラの機能をもった何かは作れるかもな。
改造魔法カートのオルトンさんに聞いてみるか。
「あっ」
「どうしたセレスト」
「あそこ、タカラバコがいるわ」
「え?」
セレストが指さす先に「宝箱」っぽいモンスターがあった。
いわゆるミミック的な外見、宝箱の蓋が開いてて、中は闇のように真っ暗で、鋭い牙が縁についている。
「ハグレモノか」
「ううん、タカラバコよ」
「ハグレモノと違うのか?」
「ええ、モンスターの中でも希少中の希少。誰でも倒すとアイテムはドロップするけど、何がドロップするのかは人それぞれ」
「人それぞれ?」
「ものすごくレアだから研究はすすんでないけど、一説には想い出の品がドロップする、記憶の中から生まれ変わってくる、といわれているわね」
「想い出の品のドロップか」
それは面白いな。
「倒してみるか」
「ええ」
「誰でもドロップするのか? 野外でも?」
「そうよ。タカラバコは何処で誰が倒しても何かドロップする」
「じゃあセレストやってみるか?」
「私はいいわ」
「そう?」
「だって想い出だと……リョータさんかリョータさんっぽいなにかがドロップするかもしれないし……」
ぶつぶつ何かをつぶやくセレスト。
よく聞き取れなかったが、難色を示しているのは確かだ。
「分かった、じゃあ俺がやる」
「ええ」
俺は銃を抜いて、まずは小手試しとばかりに通常弾を撃った。
パリーン。
タカラバコは綺麗な音を立ててガラスの様に砕け散った。
「え? よ、弱い?」
「そうらしいわ。誰でも倒せて、誰でもドロップさせられるモンスターよ。出会いさえすればね」
「そうなのか」
「それにあの牙鋭そうに見えるけど、全然そんな事はないわ。スポンジみたいなものよ」
「……昔プレゼンターってモンスターがいたの思いだした」
完全にオマケってことか。
砕け散ったタカラバコ、何かをドロップした。
近づき、地面に転がったそれを手に取る。
「……俺のスマホだ」
ひっくり返して裏を見る、買った初日につけてしまった傷、大分長い間もったいないと後悔してた傷があった。
間違いなく俺のスマホだった。
「なんなのそれ?」
「うん、スマホって言うんだけど……電源はつくな。電波はさすがにキャッチ出来ないか」
「リョータさん?」
「よし、セレストそこに立ってて」
「え?」
俺はスマホを構えて、セレストから距離を取った。
起動したカメラ起動で、彼女をフレームに納めて、フォーカスを合わせる。
「はい、チーズ」
「ち、チーズ?」
きょとんとするセレスト、俺はカシャ、とシャッターを切った。
写真が撮れたことを確認して、それをセレストに見せる。
「ほい」
「え……わ、私?」
「そう、写真っていうんだこれ。この目みたいなレンズってヤツが見た瞬間の光景を絵にする機能だ」
「すごい……こんなの見た事ない」
「動画も撮れるぞ」
『すごい……こんなの見た事ない』
「ひゃ! い、いまのって?」
「動画だ。瞬間じゃなくて、一定の時間内の光景を音声付きで保存するんだ」
「そんなのもあるのね……これがリョータさんの想い出?」
「……まあ、そうだな」
俺はスマホをいじって、なんとなく目に入ったメールを一括で全部削除した。
ブラック企業に勤めてた頃のいやな記憶のそれを消した。
その分、このスマホがやっぱり俺のものだと確信する。
「タカラバコか」
「ねえリョータさん。ほかにも想い出の品ってある?」
「それなりにな」
「それみたいにすごいもの?」
「……それなりにな。こっちにはないものが色々ある。電子レンジとか……エミリーのご飯は冷める前にみんな食べてしまうから意味ないけど」
「そうなの。ふふ、またタカラバコと遭遇するのが楽しみね」
「ああ、楽しみだな」
俺はセレストに同意しつつ、とりあえず、スマホをポケットにしまったのだった。